冷たい優しさ
「僕は何も変わらないよ。どうしたの?」
大好きだった優しい目が、とてつもなく冷徹で、まるでアンドロイドみたいだな、計算している、と思った日から、離れようと決めた。
わたしは、利用されたくない。あなたの優しさを誰かに見せつける格好の相手なだけになりたくなかった。こっちは傷ついて、あなただけが得をする。そんなバカなことを許せなかった。
好きだった。大好きだった。あなたの優しさに確かに救われた。
でもわたしじゃなくてもいいなら、他でいいじゃない。きっとまた同じように騙されてあなたの事を好きになる人は五万といるでしょう。
首をかしげながら、こちらの反応を待っているあなたの目が「いつ、僕が君を特別だと言った?」と、語りかけてくる。
ぶつかり合って、お互いを知ることが不器用なわたしのやり方だけど、あなたにはそれが通用しなかった。いつだってはぐらかされて、そっけない態度を取られる。かと思えば、優しく話しかけてくる。あの目をしながら。
何も変わらない?わけないじゃない。
今まで温かさを感じられていたのに、確かに人間の温かさだったのに、今はアンドロイドみたいに冷たいのだから。
「お前のそういうところ、うんざりするよ。」
「全て言い合って解決する?察する優しさを持てよ。」
目が話しかけてくる言葉と、いつも通りふんわり微笑んでいる口もとはチグハグで。
しんどいから離れよう。わたしばかりが好きなのは疲れる、と決めたら、「思い詰め過ぎ。そんなこと思ってない。」と優しい言葉をかけてくる。
そんな時はアンドロイドの顔じゃなくて、昔の温かさをのぞかせてくる。
これでわたしは離れられない、とでもいうのか。
でももう。
決めた。
何度も何度も騙され続けて、離れることができなかったけど、きっとこれもあなたの計算のうちなのでしょう。
動き回る計算式が、目から伝わる。
計算しつくされた、自分にだけ得な、そんな冷たい優しさはもういらない。
さようなら。
神様がいるのならば、一つだけ願いたい。
「あなたの優しさが、冷たくなりますように。」と。
往生際の悪いわたしを許してほしい。
だけど、あなたは許さない。