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"うまい話" には「裏」がある Ⅱ 。ー 「ルーブル建」に潜む ”罠” 。

 「天然ガス(気体)の取引はルーブル建」
 「代金は引き続きユーロで支払可能」

 ???。一見相反するニュース2つを見て戸惑った方もおられよう。これは気体の天然ガスを巡る一種の ”契約闘争” であくまでドイツやイタリア向けの ”ノルドストリーム” がターゲット日本が輸入している液化天然ガスは対象外らしい。「お金」に詳しくないと引っ掛かり易い ”罠” でもあるので、フロー図 ↓ を使って説明してみよう。

 ①ドイツ、イタリアはガス代金をユーロでガスプロム銀行に支払
 ②ガスプロム銀行は受け取ったユーロを中央銀行に売り、ルーブルを受け取る。交換レートは@92(??)

 「今までと同じじゃん」

 一見そう見える。だが*問題は②ユーロ/ルーブルの交換レート@92は現在の ”スクリーン・プライス” ドル/ルーブル@83から計算しているが、 "うまい話" には「裏」がある。ー「ルーブル高」は本物??|損切丸|note で解説した通り、これは国内銀行の「外貨売り・ルーブル買い」を中央銀行に限定し、対外的には禁止した "一方通行" の「固定レート」だ。

 実際1ドル=@83ルーブル、あるいは1ユーロ=@92ユーロで商品を売ってくれる日米欧の企業は皆無何しろ受け取ったルーブルを外貨に換えてくれる銀行がないのだから。実はこれ、中国もインドも同じインドに対して「原油▼35%ディスカウント」などと言っているが、為替レートにすれば1ドル=@112ルーブル。案外この辺りが ”実勢レート” で、安くもなんともない原油価格をドル建、ユーロ建で考えれば判る話で、利に聡い両国がこんな ”スクリーン・プライス” に騙さされるはずがない

 そうするとガス料金の "建値" を:

 A.1 BTU(British Thermal Unit)=@5ユーロ
 B.1 BTU=@460ルーブル

 どちらに決めるかで決定的に違ってくる。向こうが言っているのはB.ルーブル建。まあ、彼らにしてみれば「アメリカがドルを使ってやっているのと同じ事」という理屈になるが、根本的に異なるのは、広範に自由取引されるマーケットプライスが基本になっていないこと**ある日突然1ユーロ=@92ルーブルを@50ルーブルに変更されれば、支払は@5ユーロから@9ユーロに跳ね上がる。当然飲めない。

 **1つ盲点になるのは「外貨不足」。例えばユーロ債利払い・償還に何十億ドルも外貨を支払えば、ルーブルを「固定」するのは困難になる。逆説的だが欧米に物を売ってドル、ユーロを獲得してこその施策だ。これを大っぴらにやっているのが中国で、だからこそ人民元をレンジ内でコントロール出来ている。もう1点、この「固定レート」作業により中銀はガンガン国内でルーブル紙幣を刷ることになり「通貨価値の希薄化」=「インフレ」を誘発する。時間の経過と共に打てる手立ては少なくなるだろう。

 ヨーロッパでこういう ”罠” 一番敏感なのが、いつもは ”罠” を仕掛ける側のフランス(笑)。 "Arbitrage"アービトラージ、裁定取引)と呼べば聞こえは良いが、悪く言えば一種の ”ペテン” 。原語の "Arbitrary" (一方的な、勝手な)もあまり良い意味では使われない。

 もちろん金融リテラシーの高いドイツもこの "カラクリ" には気付いており、契約内容の変更には断固反対こんな契約条件を飲めば、ユーロでいくら払わされるかわかったものではない

 ちょっと心配なのはイタリア。本当に電気代が上がって困っているのだろうが、ドラギ首相(元・ECB議長)の弱々しいコメント放っておけば契約変更を飲んでしまいそう。これでは向こうの思う壺で、ここはEUがきちんとサポートしてあげるべきだろう。

 「金融」の本場、アメリカは当然 "敵" の狙い=「ドル本位制」の転覆、を承知しており、過去最大の石油備蓄放出で原油価格抑制に乗り出した

 まさに「お金の戦争」

 バイデン政権は共和党と繋がるシェールガス会社と折り合いが悪いが、「通貨覇権」がかかれば増産も辞さないだろう。採算分岐点が1バレル=@60ドルらしいから、そこまで押し下げることは可能。中間選挙に向け「インフレ」を抑え込み、強烈な「お金」の攻撃にもなる。一石二鳥である。

 スウェーデンの少女(19歳だからもう大人か)には申し訳ないが、これで「脱炭素」は完全に ”棚上げ”ドイツの「EV(電気自動車)戦略」も「第2のグリーンディーゼル」になるかも。やはり***「脱炭素」は「お金」の問題性急に進めれば今回のように「戦争」まで引き起こす危険な代物だ。

 ***基本的に「インフレ」は「脱炭素」に追い風なのだから、もっとじっくり取り組むべき。今回 ”核” のリスクもクローズアップされ、安易な原発稼働も将来的には日本のように「高くつく」「急がば回れ」である。

 しかし、よくもまああの手この手と「仕掛け」てくるものだ。やはり狂ってもいないし、ぼけてなどいない。20年も権力の座に留まるだけのことはある。ぱっと見、対応できているのは若いジョンソン英首相ぐらいで、アメリカの大統領、日本の首相は大丈夫かイタリア同様「お金」の ”罠” については、「お金」に甘い「昭和世代」にまかせるのは危険。40~50代に対応を委ねるか、せめてこの note. でも読んでもらえれば…(苦笑)。

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