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「ステルス値上げ」の是非 ー ”貧困ビジネス” は令和の時代も継続可能なのか。

 「もうOOOXXXXには2度と行かない!!」

 SNS上で某コンビニチェーンの「不買運動」が静かに起きているという。何でもきっかけは「底上げ弁当」。容器の底が不自然にせり上がっていて、中身が減ったのに値段据え置きの「ステルス値上げ」だ。他にも ”リニューアル” の名の下に3個を2個に減らしたり、 ”新パッケージ” で中身がすかすかになったものもあるらしい。

 彼らが怒っているのは、これらの「ステルス値上げ」が消費者に知らされずにこっそり行われたこと。馬鹿にされたと感じるのも無理はない。

 「ステルス値上げ」自体は初めての事ではない。平成デフレに突入してからいろいろな食品メーカーが何度も行っている。しかも標題のようにメディアを通して公表されることがほとんど消費者相手のビジネスなのだからそれが最低限のモラルだろう。「平成」の時代は賃金が下がる「真性デフレ」だったため消費者も受け入れざるを得ず、多少の不満はありながらも今回のような「怒り」に近い反応はなかった。

 それでは何故「令和の時代」にはこれほど反発を生むのだろう? 鍵は「人件費の上昇」にある。

 デフレ時には雇用が弱かったため、企業側が賃金を叩いて安い製品を作り「薄利多売」で利益を得ていた。厳しい言い方をすれば一種の ”貧困ビジネス” で、”ブラック企業” が蔓延る結果になった。アルバイトの時給も低く、東京でさえ求人は@700~800円程度。これでは安い物を買う以外選択肢がなく、それが益々賃金を下げるスパイラルに陥っていた。

 だが「令和」に入り状況は一変。深刻な「コロナ不況」下なのに東京のアルバイトの平均時給は@1,100円を超えており、未だに上昇基調にあるという。理由は簡単。労働構造が変化して人が足りないからだ。詳しくは10/20 「コロナ後」の物価動向を考える。↓ に書いているのでご参照を。

 つまり労働者側には「雇用」を選ぶ余裕が有り、「安くなければいけない」状況では既にないことが大きい。介護やガードマン、マンション管理人等は恒常的に人が足りないし、宅配の増えた流通業界は人手確保が大変

 外国人労働者についても、中国や東南アジアで人件費が高騰していたところにパンデミックで人の往来まで途絶えてしまい、求人は困難を極めている。企業にとってもこれはかなり切迫した問題で、対応を誤れば「黒字倒産」「人手不足倒産」まで起こりうる。

 そういう状況下での「ステルス値上げ」人件費の高騰で減った利益を何を血迷ったか「顧客」に転嫁しようという愚行「コロナ不況」で大変なのは理解できるが、これは完全に間違った処方箋だ。もう「平成」のように人件費を叩いて利益を上げることはできない。本件を取り上げた記事内にも書かれていたが、こんな「ステルス値上げ」をするくらいなら、顧客に頭を下げてでも値上げをした方が余程マシだっただろう。

 飲食店などは残念ながらバタバタと潰れている状況だが、生き残っているお店は何れも出している商品に特徴が有り、「そこでしか食べられない」「この店の味が好き」といった付加価値が高い。だから多少値上げがあっても顧客がついてくる。

 *「あれっ、肉が変わったかな?」。ある日馴染みのトンカツ屋に行ったら味が変わっていて首を捻った。値段は同じだったが ”おいしくない” 。それ以来あまり行かなくなったが、しばらくしてお店を訪れてギョッとした。「客がいない...」。おそらく経営が苦しくなって肉の質を下げたのだろう。「値上げ」は避けたかったのだろうが、客は正直である。それからしばらくして客が戻ったのは肉を元に戻して値段を上げた後だった。

 某居酒屋チェーンが大幅に業態転換して「焼肉屋」にしたのは頷ける。客単価を上げたいのだ。もう ”貧困ビジネス”  ”薄利多売” が成り立たない「令和の時代」、こういう思い切った転換は1つのやり方だろう。

  苦境にある航空業界では全日空(ANA)が思い切った ”ダウンサイジング” に打って出た。まるで「半沢直樹」をなぞったような展開で話題になっているが、今までのような「昭和方式」には見られなかったスピード感で新しい時代の幕開けを予感させる。これも団塊からの世代交代の効用か。ぜひ上手く切り抜けて欲しい。

 この世界的な大不況の最中、①パンデミックを抑制できていること②労働構造の変化、及びそれに伴う③物価動向の変化など、実は「日本」には肯定的な要素が多い。中国のような強権的な国家を除けば、このトンネルをいち早く抜け出ることが可能な状況とも言える。

 某コンビニのように「デフレの亡霊」のような ”貧困ビジネス”  に決して戻ることなく、この危機をチャンスに変えたいものである。「デジタル化」「脱ハンコ」などメニューは間違っていない。あとは1つづつ着実に前へ進めて行くのみだ。「やればできる!」(笑)。

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