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「外資系」就職・転職を目指す君へ。-「人件費」に対する考え方の違い。

 11/8 ”NTT、2023年4月以降に入社する新卒社員の初任給を引き上げ。現行の大卒初任給一律21万9,000円から、①標準 月額25万円(+14%)、②専門性が高い人材 27万2,000円以上(+24%)”

 今朝(11/16)のバラエティ番組でも特集していたが、NTTが初任給を引き上げるという。30万人もの従業員を抱えるため一大事なのかもしれないが、元・外資系の「損切丸」は思わず苦笑い。最近NTT”GAFA予備校” などと呼ばれ、人材流出対策のようだが「月給+3万円って...」。桁が違う。政府・経団連に言われて ”やった振り” なのだろう。

 コンピューター・サイエンスなどのIT専門人材には初任給で3,000万円 ≓ 21万ドル出すというが、サンフランシスコの暮しには最低1,300万円 ≓ 9万ドルかかるというから、まあそんなものだろう。家賃や物価が違う東京支店ではせいぜい1,500万円といったところか。それでもかなり高い。

 「そんなに高いお給料を出して、外資系は大丈夫なの?」

 素朴な疑問だが、日本企業とは「人件費」の考え方が根本的に違う。筆者が在籍した英銀のケースを例に解説してみよう。

 「えっ、たった2人??」

 筆者は一応「資金証券部長」だったが、部下は1人だけ。どこが「部長」かって話だが(苦笑)仕事は多岐に渡っていた。世界中の「円」の「資金繰り」に東京支店の「外貨」、それに日銀、財務省、金融庁の窓口も兼ねていた。邦銀なら優に15人は配置される業務だ。当然「部長」も馬車馬のように働かされ「人に指示」など出す余裕はない。

 なぜそんな事が可能なのか?

 「そのシステム凄いですね...。うちはまだ "紙" ベースです」

 某・系統銀行の「資金繰り」担当者が見学に来てやたらと感心していた。筆者は当たり前だと思って使っていたが、ポチッと押すだけで世界中の「円」の「資金繰り」が向こう3年ぐらいまで見れるようになっていた。その系統銀行では今でも365日分の紙ファイルが担当者の横にうずたかく積まれ毎日ページを繰って確認しているという。そんなアナログでは間違いも起き易いし、2人じゃ無理(笑)。

 外資系金融機関はシステムに圧倒的コストをかけている。その分頭数が減るため、一人当りの給料は高くなる。例えば2人に年間3,000万円払っても、15人×600万円=9,000万円より安い。システム投資をしてもお釣りが来る。

 もう一つ ”少人数” のメリットを上げれば、余計な会議や揉め事が減る。これは転職してみて痛感したが、邦銀では行内のやり取りに7割以上の時間を費やす。だから本来為すべき仕事に時間を割けない。特に*マーケット部門では秒単位の「時間」が大事であり、モタモタしていれば儲け損なう。英銀での会議はほとんどスクリーンを見ながらの電話だった。

 邦銀でドイツマルクのアービトラージ(金利裁定取引)をしようと思って朝「稟議書」を上げたが、たくさんハンコが押されて戻って来たのは夕方。当然相場は動いてしまっていてもう裁定が効かない。一時が万事、全てこの調子で、どのくらい「機会損失」があったのだろう。

 外資系の「人件費」に対する基本的考え方は「費用対効果」トレーダーなら「儲け」に対する評価になる。筆者が現役の頃、ボーナス込みの「お給料」は「儲け」の@10%程度年収3,000万円のトレーダーの期待収益は3億円ということになる。
 e.g., 銀行の信用をバックにする「資金繰り」業務の相場は@3~5%程度

 筆者の現役時代でも東京の外資系投資銀行の新卒給は600万円以上だったから、今なら1,000万円を超えている可能性がある。「円安」も考慮するとNYやロンドンならその倍だろう。ただこれは**期待収益の「先払い」新卒は比較的大事にされるが、それでも3年駄目なら「サヨウナラ」

 **「新卒20人のうち、15人が入社試験 ”カンニング” で退社」。筆者の在籍した英銀でこういう ”事件” があったが、思わず溜息。自分達は要領が良くて「高給」の外資系に就職できたと思ったのかもしれないが、勘違いにも程がある。マーケットに ”カンニング” は通用しない。何年も仕事を続けられると本当に思ったのだろうか。まあ、採る方も採る方だが。

 「そろそろ "本業" に戻ったらどうか」

 邦銀でマーケット部門に勤めていた間、毎年の人事面接でいつもこう言われた。 "本業" ? 欧州通貨を担当していた筆者は、儲けようと夜も寝ないで必死に取引をしていたが、***これは "本業" ではないのか。もの凄い違和感。結局こういう事の積み重ねが「損切丸」を「転職」に駆り立てた

 ***預金や融資が銀行の本業という ”信仰” は今でも邦銀には根強い。政府がトレーダーやファンドを「投機筋」と言い放つ思想と共通するが、もはや預貸の金利差だけで銀行業が成立する時代は終わり蔑んだはずの投資銀行業務≓「投機」と不当に高い手数料にすがるしかなくなっている

 「外資系」就職・転職を目指す君へ

 ツイッターやアマゾンで「大量解雇」のニュースが流れているが、必要以上に「クビ」を怖れることはない。日本企業の業務水準は高く「高給」といってもやる仕事に大差はない。実際7年いた邦銀での経験英銀でも通用したし、引退した今も役に立つ。既に終身雇用が崩れ「お給料」が安いだけの日本企業に「安心」などない訳で「外資系」だけ怖れるのもどうか

 大事なのは「向き不向き」誰かの指示に従って仕事をしたい人に外資系は合わない。逆に「こうしたい」という意向が強い人に日本企業はつらい

 ちなみに「英語」は出来た方がいいが、コミュニケーションに前向きな姿勢を維持できればそれ程気にする必要は無い(もっとも役員クラスになるには相当の英語スキルは必要)。

 そして最終的には「結果」法律やコンプライアンス違反は ✖ だが、数字さえ残せば誰に嫌われても構わないし "根回し" も "言い訳" も不要長期休暇も自由に取れる(むしろ取らないと怒られる)。筆者は水が合っていた。

 あとは「人」だろうか。幸い出会いに恵まれて自分でも気付かなかった能力を引き出して貰えたが、そう言う意味では「運」も大事。

 自ら動かなければ現状は変えられない。チャレンジするその心意気や良し。世界は広いし ”凄い奴” もたくさんいる。

 ついでに言うと、20~30代ではなかなか思い至らないが、いずれみんな50歳、60歳になる退職後は想像より「お金」がかかるので「40代」までに "土台" を築く必要がある。そういう事を頭の片隅に入れながら生きていくと、少し違うかもしれない。筆者自身の反省も込めて。老婆心ながら。

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