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消えゆく「マイナス金利国債」 ー 金利の ”パラダイム・シフト” 。

 立て続けの投稿で恐縮だが、さすがに金利市場がこれだけ動くと金利専門の「損切丸」としては書かざる得ない。今しばらくご辛抱を。

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 昨日(2/25)10年米国債は一時@1.60%を突破するという、業界用語で言う ”ぶん投げ” 相場になり、マーケットをざわつかせた。動きが急だっただけにショックは株式市場にも伝播し、NYダウもナスダックも年初来の上げをほぼ帳消しにしてしまった。金利上昇を恨めしく思う投資家もいたことだろう。日経平均も前場で▼1,000円近い暴落商状だ。

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 米国債では1つ面白い現象が見られた。これまで長短の金利差が開くイールドカーブの ”スティープニング” に焦点を当ててきたが、昨日は ”ベアフラット” という逆現象が起きている。金利が上昇する中で中短期の金利が長期金利より上がることでカーブが「平坦化」する現象

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 5年債が+0.15%も上昇する中、30年債は逆に▼0.02%低下し、5-30年で▼0.17%ものカーブの「平坦化」が起きた。ここまで順調に ”スティープニング” が起きていたため、利の乗っていたトレーダーは急遽手仕舞いを、最近ポジションを持ったトレーダーは「損切り」を迫られたことだろう。

 通常 ”ベアフラット” はFRBが利上げに動くときに起きる現象で、パウエル議長が「しばらく利上げしない」と "断言" している現状では、ほとんどのトレーダーは虚を突かれたはずだ。

 筆者の見立てでは、それだけ5~10年の米国債を買って日銭稼ぎの「キャリートレード」を走らせていた投資家、トレーダーが多かったということ。あれだけ議長が「利上げしない」と断言していれば無理もないが、この辺りが米国債市場の恐ろしいところ。 "逆" を仕掛けてくる向きが必ずいる

 ヨーロッパの国債市場も大荒れだ。フランス10年国債はついにプラス金利に転換し、「マイナス金利国債」がドンドン減っている

ドイツ国債

オランダ国債

スイス国債

オーストリア国債

ベルギー国債

フランス国債

イタリア国債

スペイン国債

ポルトガル国債

アイルランド国債

  ”ドイツ経済圏” ではドイツ、オランダ、スイスが15年まで、ベルギー8年、オーストリア9年まで、その他ではフランス9年まで、イタリア3年まで、スペイン5年まで、ポルトガル6年まで、アイルランド7年までが「マイナス金利国債」だ(一部1年以内の短期国債を除く)。随分減ったものだ。欧州の銀行が一番ホッとしているのではないか。

 これは金利の ”パラダイム・シフト” とも呼ぶべき現象で、大袈裟でなく「社会構造の大変革」を示唆している。以前 2020.4.20.コロナ後の世界 Ⅱ - これから起こりそうなこと。↓ で書いたが、これは「コロナ後」の世界の物価構造の変化を先取りした要素を多分に含んでいる。具体的には:

 1.グローバル・サプライチェーンの再構築 ー 大量・安価な中国製品からの脱却。

 2.「コロナショック」による需給の大転換 ー デフォルト多発による供給余力の激減。

 世界は「米国側」と「中国側」に大きく分割されつつあり、特に半導体や医療物資など、いわゆる ”戦略物資” は各国とも「自国」、もしくは「友好国」からの調達を優先するため、「安全保障コスト」が上乗せされるようになった。この作業が進むにつれ、物価は上昇を始めている

 もちろん2.の「需給要因」も見逃せない。「コロナショック」で消費が劇的に減った結果、世界的に供給余力は激減しており、今後経済正常化の過程では供給側が価格統制力を持つようになるだろう。今の半導体が良い例で、自動車などは生産調整を余儀なくされている。価格だけを優先した、いわゆる「グローバリゼーション」の逆流といっていい。

 そこに2020年後半の「日銀のお金切れ」に端を発した「過剰流動性」の正常化が重なり、ようやく「金利の正常化」が起きてきたと筆者は見ている。随分長い道のりだったがようなく実を結んだ(? 笑)。 ”震源地” 日本では10年JGBが@0.16%に達し、YCCの上限@+0.20%を試しに来ている

 「社会変革」にはとかく「痛み」が伴うもの。しかしこの「痛み」の先に「実り」が待っている。多少の株価の調整はある意味しょうが無いと割り切って、この局面、何とか上手く切り抜けたいものだ。

 厳しいことをいうようだが、「金利の正常化」にはまだ程遠い。ようやく10年米国債の「実質金利」がゼロになったが、「正常な金利」=「実質金利」+0.5~1.0%が金利関係者の認識。米国債ならあと+0.5~1.0%だが、ドイツなら+2.0%近い金利上昇が必要株価など他の資産市場は持つのか。今後も要注視である。



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