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エピローグ第12話:なぜ『スリー・ビルボード』では州章が物語に落とし込まれたのか?そしてディクソンのママのモデルとなった生き物とは? 『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解剖
では、二年ぶりに帰って来た伯爵から届いた手紙の内容と、伯爵家訪問の様子を解説しよう…
前回を未読の人はこちらからどうぞ。
伯爵登場シーンでも様々な興味深い描写が続き、『スリー・ビルボード』にも多く転用されることになる。
まずは呼び出しの手紙から見ていこうか。
『親愛なるレコーク(Le coq:雄鶏)! もし君がまだ無事息災で、年中酒を食らっているこの友人をまだ忘れずにいてくれるのだったら、時を移さず、服を着て、駆けつけてくれたまえ。ゆうべ帰って来たばかりなのに、もう退屈で死にそうだ。君を待っている間のもどかしさは、はかり知れぬほどだ。よっぽど自分で迎えに行って、君をこの穴ぐらへ連れてこようかと思ったのだが、暑さが僕の手足を金縛りにしてしまったという次第…』
中央公論社版(訳:原卓也)より
「二年ぶり」やのうてホンマは「二日ぶり」やろ。
だよね。「穴ぐら」とか言っちゃってるし(笑)
この手紙で伯爵は「復活したイエス」になりきっている。
伯爵が「腐れ縁」の予審判事セルゲイ・ペトローウィチのことを「Le coq(雄鶏)」と呼ぶのも、予審判事が雄鶏と縁の深い使徒ペテロが投影されたキャラクターだからだったね。
そしてチェーホフは伯爵に「退屈で死にそうだ。よっぽど自分で迎えに行って、君をこの穴ぐらへ連れてこようかと思った」なんてことまで言わせた。
これは使徒ペテロが主イエスの復活を信じていなかったことへのジョークだね。
ウケる(笑)
そして手紙本文のあとに、伯爵の「字の汚さ」が指摘され、「文章の拙さ」が語られる。
手紙には《……であるところの》という関係代名詞が見当たらなかったし、副動詞[英語の~ingに相当するもの]も努めて避けてあった――どちらも伯爵にとって、一度で成功するためしなど滅多にないことである。
中央公論社版(訳:原卓也)より
関係代名詞も副動詞も使わんって、どうゆう文章やねん。
幼稚園児か伯爵。
なんだかディクソンみたいだね。
ブランコに座りながらミルドレッドに切々と語っていたじゃんか。
自分は英語力が乏しくて込み入った表現が出来ないから、もっと英語を勉強しなきゃいけないって。
ディクソンが唐突に「英語力の無さ」を語り出したのは、『猟場の悲劇』のせいだったのね…
おそらく伯爵のキャラは、チャーリーだけでなくディクソンにも入っている…
その通りだ。
小説『猟場の悲劇』のもうひとりの主役ともいえる伯爵は、とても出番が多く、重要な役割を果たしている。
そして予審判事セルゲイ・ペトローウィチの召使いポリカルプは、出番が少なく、重要な役ではない。
かたや『スリー・ビルボード』におけるアンジェラの父チャーリーは、出番も少なく、それほど重要な役ではない。
だけどウィロビー署長の部下ディクソンは、出番が多く、とても重要な役割を果たす。
つまりマーティン・マクドナーは、伯爵の役割をチャーリーとディクソンで分担させることによって『スリー・ビルボード』の中で『猟場の悲劇』を再現しようとしたんだね。
・・・・・
ちなみに予審判事セルゲイ・ペトローウィチは、伯爵と過ごした二年前までの日々を思い出し、こんな恨み節を言うんだ。
あの放埓な、常軌を逸した生活は、わたしの身体をそこないこそしなかったが、その代わり県全体にわたしの名を知れ渡らせてしまったのだ……わたしは有名なのだ……
中央公論社版(訳:原卓也)より
あはは。
確かにイエスの筆頭弟子としてペテロは有名になってしまった。
祭司の館へ潜り込んだ時も「あなたはイエスのところにいた人ね」って身バレしたほどに(笑)
そして予審判事セルゲイ・ペトローウィチは、いったんは断ろうとする。
伯爵の使者に「行かない」と伝えようとするんだ。
だけど心の奥底に眠っていた何かが目覚め出し、それが熱く活動し始めて、ついに「伺うと伝えてくれ!」と言ってしまう。
まるでローマから逃げようとしたらイエスが突然現れて、結局戻ることにした使徒ペテロやな。
そして予審判事セルゲイ・ペトローウィチは、召使いポリカルプに馬の支度を命じる。
ちなみに愛馬の名前は「ゾーリカ(Zorka)」というんだ。
草履か?
「zorka」とは、英語でいうと「dawn」だね。
「暁・夜明け」のことだ。
「Le coq(雄鶏)」というニックネームのセルゲイ・ペトローウィチの愛馬が「Zorka(夜明け)」か…
そのまんまや…
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