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深読み 米津玄師の『さよーならまたいつか!(『虎に翼』主題歌)』第28話


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2024年3月中旬
東京都渋谷区神南
NHK放送センター



NHK総合リスク管理室
情報解析センター



教官、あの歌とミュージックビデオには、いったいどういう意味が隠されているのですか?


呉羽君、もう一度よく見てみるんだ。

この作品には、いくつか奇妙な点があるだろう?



いくつかどころか、奇妙な点だらけです…

歌詞はまだしも、ミュージックビデオの描写に『虎に翼』の要素は皆無…


そうかな呉羽君?

本当に「皆無」だろうか?


どう考えても皆無でしょう?

『虎に翼』は女性と法律がテーマのドラマ、法律に携わった最初の女性のドラマです。

あんな破壊活動とは何の関係もない…


神南恭一郎…

なぜ米津玄師は『JOKER(ジョーカー)』を匂わせたのでしょう?

『虎に翼』と無関係の「鏡」や「暴動」を使って…



相変わらず君は石頭だな、ピエトロ田木君。


人を石頭呼ばわりしないでください。

あと、そのピエトロというのも…


いいじゃないか、ニックネームくらい。

ボスが部下にニックネームをつけるのは当然のことだろう。

私もかつては「闇の虎」と呼ばれていた。


「闇の虎」はカッコいいですが「ピエトロ」は響きが間抜けに聞こえて…

なんだか「ピエロ」みたいで…


それではシャレオツに「ピエール」とでも呼ぼうか?

ピエール田木君?



そういう問題ではないのです…

とにかくニックネームは…


いいなあ…

俺も田木さんみたいにニックネームつけられたい…


つけようか?


えっ!?マジっすか教官!?

是非お願いします!


それでは呉羽君、キミは…

ピューマだ。


ピューマ? アメリカ大陸にいるネコ科の肉食動物?


ピューマは「レッドタイガー」や「アメリカライオン」とも呼ばれる。

漢字では「赤虎」「米獅」と書く。



赤虎、米獅?

なんだかい服を着て『に翼』の主題歌を歌う津玄みたいだな。



うまいこと言うね。


だけどなぜ俺がピューマ?

どっちかというとアディダス派なんですけど…


この歌を聴いて、よく考えてみることだな。



カメとピューマとフラミンゴ?

何ですかこれは?


さて、余談はこれくらいにして、そろそろ本題に入るとしよう。

米津玄師が『さよーならまたいつか!』のMVで映画『ジョーカー』をパク… いや、オマージュした理由…

それは「歌」だ。


歌?


米津玄師は映画『ジョーカー』に関する「歌」で『虎に翼』を表現している。


もしや、クライマックスの暴動シーンで流れていた歌…

CREAM(クリーム)の『WHITE ROOM(ホワイトルーム)』でしょうか?


その通り。

『WHITE ROOM』には「虎」が出てくる。



歌詞に「虎」が出てくるから? それが理由?


ただの虎ではない。

ジャングルの中でクラウチングした「虎」が「彼女」の瞳に映っていると歌われる。

つまり木々の中にいる「虎」は「彼女」の目の前で屈んだ姿勢をとっているのだ。


彼女の瞳に映る虎? だから何なんですか?

それなら QUEEN(クイーン)の『DON'T STOP ME NOW』の「虎」の方がピッタリだと思います。

LAW(法律)という言葉も出てきますし、男性中心の封建的な世界に立ち向かうヒロイン寅子とも一致しますし…


I'M A SHOOTING STAR LEAPING THROUGH THE SKY
LIKE A TIGER DEFYING THE LAWS OF GRAVITY
私は大空を勢いよく飛ぶ流れ星
重力の法をものともしない虎のよう



その意見は一理ある。

米津玄師といえば「LADY GODIVA」だからな。


I'M A RACING CAR,
PASSING BY LIKE LADY GODIVA
私はレーシングカー
レディ・ゴディバのように道を行く



は? 米津玄師とGODIVAに何の関係が?


おっと。まだ3月だった。

GODIVAの件は忘れてくれ。


GODIVAのことは忘れろ?

さっきから何を言ってるんですか教官?


いいから記憶から抹消しろ。

そうしないと代わりに君をこの世から抹消しなければならない。


は?


何てね、っと。



ここで薬師丸ひろ子の『紳士同盟』とか、もう訳がわからない…

真面目にやってください教官。

なぜ『虎に翼』の主題歌『さよーならまたいつか!』に映画『JOKER』の歌が関係するのですか?


映画『JOKER』には『WHITE ROOM』よりも重要な歌がある。

ラストシーンでホアキン・フェニックスが披露する最高のジョーク『THAT'S LIFE』だ。



それを言うなら、ホアキン・フェニックス演じる主人公アーサーが口ずさむフランク・シナトラの『THAT'S LIFE』ですよね?

あれは別にジョークでも何でもありません。

女性カウンセラーが「そのジョークを聞かせて」と言ったら「YOU WOULDN'T GET IT(あんたには理解できんだろう)」と断ったんです。



やれやれ。君も「YOU WOULDN'T GET IT」の一人だったのか。

まさかここ特別情報解析センターに「YOU WOULDN'T GET IT」がいたとは驚きだな。


え?


「YOU WOULDN'T GET IT(あんたには理解できんだろう)」と前置きして、ジョークを披露したのだよ。

ホアキン・フェニックスが。


そうなんすか?


そしてあのシーンに「アーサー」という男はいない。

カメラに映っているのはホアキン・フェニックス自身だ。


カメラに映っているのは登場人物じゃなくて役者本人?

どういうことっすか?


ホアキン・フェニックスが口ずさんだ「歌」がジョークなのだ。

それがジョークとして成立するには、アーサーではなくホアキン・フェニックスでなければならない。


意味がわかりません…

あの歌のどこがジョーク?


あのシーンでホアキン・フェニックスは歌詞を変えて歌っている。

映画を締めくくる最高のジョークにするために。

本来の歌詞はこうだ。



あれ? あのシーンで流れた曲はイントロから2番にスキップしてる…

1番がごっそり抜けてるじゃんか…


そこがジョークの肝だ。

ホアキン・フェニックスの目の前に座る女性をネタにしたジョークであり、それが映画『JOKER』のネタバレ、種明かしになっている。


あの黒人女性インタビュアーをネタにしたジョークですか?



彼女の代表作はポール・トーマス・アンダーソン監督の『MAGNOLIA(マグノリア)』だ。

映画の最後でカリスマ扇動家フランク(トム・クルーズ)に「いったいあなたは何者なのか?」と尋ね、隠されてきた出生の秘密や母の死の真相を聞き出そうとするインタビュアーを演じていた。



構図も内容も、映画『ジョーカー』とそっくり…


だからホアキン・フェニックスはフランク・シナトラの歌を歌った。

トム・クルーズの役名がフランクだからな。


なるほど…


そして1番の歌詞をわざと飛ばした。

注意深い人ならジョークに気づけるように。


つまり、歌詞を飛ばしたことがジョークのヒント?


その通り。

ホアキン・フェニックスが飛ばした歌詞はこういう内容だ。


THAT'S LIFE
That's what all people say
You're ridin' high in April
Shot down in May
But I know I'm gonna change that tune
When I'm back on top
Back on top in June
それが人生さ
人は皆そう言う
四月に高く舞い上がっても
五月には撃ち落とされる
だけど流れは変わるんだ
僕は天辺に返り咲く
六月には天辺に


なぜこの部分を飛ばすことがジョークの肝に?


ホアキン・フェニックスが歌を聴かせた相手…

あのインタビュアーを演じている女優の名前は「April Grace」という。



エイプリル・グレイス?


彼女の名前は「四月の栄誉」つまり「You're ridin' high in April」だな。

だからホアキン・フェニックスは歌詞を飛ばした。


インタビュアーを演じている役者の名前が歌詞に入っているから、わざとそこを飛ばして歌ったということですか?


その通り。

映画『JOKER』最大のトリックは、物語のすべてが出演者の代表作のパクり… いや、オマージュになっているということ。

映画『JOKER』とは、メインキャストから脇役に至るまで、出演者の代表作の名シーンをつなぎ合わせた内容になっている。

つまり映画のすべてがトッド・フィリップス監督とホアキン・フェニックスによるジョークだったということだ。


そういうことだったんですね…

監督と主演のホアキン・フェニックスはそれを知っていたけど、他の出演者たちは知らない…

だから最後のジョークを聞かせてと言われた際に「YOU WOULDN'T GET IT(あんたには理解できんだろう)」と答えたのか…

彼女はエイプリル・グレイスではなく、役のインタビュアーになりきっていたから…


まったくふざけた映画だな『JOKER』は。

もちろんこれは最高の褒め言葉だ。


で、この話と『虎に翼』に何の関係が?


4月は好調、5月は失墜、6月は返り咲き…

米津玄師はこの歌詞を春スタートの朝ドラに重ねたのだよ。


え?


『虎に翼』は3月31日に始まる。

4月は何かと話題で視聴率も高い。

しかし5月になると脱落者が出始めて視聴率に陰りが出る。

だけど6月にはテコ入れが行われ勢いが復活する。


あっ…


そして『THAT'S LIFE』はこう締めくくられる。


But if there's nothin' shakin' come this here July
I'm gonna roll myself up in a big ball and die
My, my!
だけどもし七月になっても
心を震わせるようなものが何もなかったら
覚悟を決めて討ち死にするさ
おお神よ!


果たして『虎に翼』は人々の心を震わせるドラマになるだろうか。

それともそれが出来ずに失敗作となるのだろうか。

主題歌を提供することになった米津玄師はそこを心配していたと思われる。

これから毎日自分の歌が流れるドラマが低視聴率だったら悲しいからな。


そんなことまで心配して『JOKER』のオマージュを…

米津玄師、パねえな…


これで『JOKER』の件は片付いた。

あと気になった点は何かな?


あとは… 時間の流れです…

なぜ『さよーならまたいつか!』のミュージックビデオは、時間が進んだり戻ったりするのでしょう?



つづく




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