第336話 深読み『千と千尋の神隠し』vol.35「銀河鉄道の夜⑱時計塔の秘密 中篇」
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2019年9月20日 朝
スナックふかよみ
まだまだこんなもんじゃない。
『千と千尋の神隠し』における「受胎告知日3月25日」の影響は、とてつもないものだ。
あの時計台の「砲塔」も、そうだからね…
えっ!?あの砲塔も?
「砲塔」と「受胎告知日3月25日」に、いったい何の関係が?
宮沢賢治は『銀河鉄道の夜』で、秋に偽装して「春」の出来事「受胎告知」を描いた…
そして、賢治のトリックを見抜いた宮崎駿は、これをそのまま『千と千尋の神隠し』で踏襲する…
あの「時計塔」に超時空要塞マクロスみたいな「砲台」がついてるのは、その「あかし」みたいなもの…
文代さんまで…
そんなの絶対にありえないって…
アリエール!
いや、しかしですね…
「受胎告知日3月25日」や『千と千尋の神隠し』と「マクロス」には、何の因果関係も…
なぜ「ない」と言い切れるかな?
巨大戦闘空母マクロスの「砲塔」以外に、あれを説明できるものはあるだろうか?
確かに、屋根の左右に「あんなもの」を描く必要はない…
どう見ても「砲塔」にしか見えないものを…
いったい宮崎駿は、何を伝えようとしていたのか…
Hayao Miyazaki(1941-)
では、解説しましょう。
『千と千尋の神隠し』と「受胎告知日3月25日」に隠された、重大な秘密を…
あっ、わかったかも…
もしかして「ま、くろす」とか?
まっくろくろすけ?
「MA CROSS」よ。
「MACROSS」の中には「CROSS」がある。
マ、クロス? 十字架ってことですか?
そう。
宮崎駿は『千と千尋の神隠し』が『銀河鉄道の夜』のように「福音書の再現」になっていることを伝えようとしたのよ…
「マクロス」の中には「十字架」が隠されているから…
そんな安易な駄洒落ではない。
宮崎駿監督は『千と千尋の神隠し』が「3月25日」の物語であることを伝えようとして、あの時計塔に「砲塔」を描いたんだよ。
なぜなら、日本のアニメーションの歴史において…
「3月25日」という日は、とても重要な日付だから…
「3月25日」が日本のアニメ史において重要な日付?
それと「砲塔」がどう関係するのでしょうか?
「3月25日」とは…
日本で初めての長編アニメーション映画が劇場公開された日…
初めて長編アニメが上映された日?
それまでアニメは数分から十分程度のもので、映画上映前の「時間つぶし」として、ニュースなどと一緒に上映されていた…
『紅の豚』の映画館シーンで上映されてたみたいなやつね。
そう。それまでのアニメは、まさにああいう子供じみたカトゥーン漫画みたいなやつだった。
それが初めて「1つの芸術作品」として興行に掛けられ、その年の観客動員ランキングで年間9位になるという大ヒットを記録した。
これにより人々のアニメーションに対するイメージが大きく変わったんだ。
いったいどんな作品だったのでしょう?
その作品の冒頭シーンでは、主人公の乗る巨大空母の船橋(ブリッジ)が大きく映し出される…
まさに超時空要塞マクロスのような船橋が…
『千と千尋の神隠し』の「時計塔」に「砲塔」がついていたのは、これを再現していたからなんだよ…
きょ、巨大空母の船橋(ブリッジ)の砲塔!?
だけど確かに、似てるかも…
そういえば…
『千と千尋の神隠し』に出て来る大きな建物は、空母の船橋(ブリッジ)によく似ている…
湯屋「油屋」も…
時計塔も油屋も、明らかに戦闘空母の船橋(ブリッジ)を基にデザインされています…
それもすべて「3月25日」に公開された、日本初の長編アニメーション映画の存在を匂わすため…
なぜなら、宮崎駿2歳の春に公開されたその作品は…
「映画作家 宮崎駿」の「受胎告知」とも言える作品だから…
宮崎駿の受胎告知?
いったいどういう意味なの?
作品を見れば、その意味はすぐにわかるだろう…
1943年の3月25日に公開された、日本で最初の長編アニメーション映画…
ハワイを「鬼ヶ島」に喩え、戦闘空母に乗った桃太郎と、猿・雉・犬の海軍航空隊が「鬼退治」をする物語『桃太郎の海鷲』を見れば…
も、桃太郎の真珠湾攻撃…
これが日本で最初に劇場公開された長編アニメーション映画だったの?
時計塔の向こうに見えた家々が草原の海に沈んでいたのは、そのせいね…
あの家々は時計塔の奇襲攻撃で沈没した…
なんと…
しかし「日本で最初に劇場公開された長編アニメ映画」と言いますが…
1943年なら、すでにディズニーの長編アニメ『白雪姫』や『ファンタジア』が公開されていたはずです…
確かに『白雪姫』は1937年に、そして『ファンタジア』は1940年に発表され、世界中の人々に衝撃を与えていた。
しかし日本では1930年代中頃から、「鬼畜米英」の映画を「敵性文化」として排除していた。
だから日本人は『白雪姫』も『ファンタジア』も知らなかったんだ。
『桃太郎の海鷲』の制作者 瀬尾光世は、国家機密扱いになっていた『白雪姫』や『ファンタジア』を海軍省で極秘に見せてもらい、「これに負けないものを作れ」と指示されたという。
もちろん瀬尾は内心「こんなの絶対に勝てるわけがない」と思ったそうだ。
そういうことだったんですか…
だから日本人にとって、初めて見た長編アニメが『桃太郎の海鷲』だったわけですね…
2歳児だった宮崎駿は、東京、もしくは疎開先の宇都宮で『桃太郎の海鷲』を見たはず…
『紅の豚』に描かれる映画館のシーンで、無邪気に歓声をあげていた、あの幼い子供たちみたいに…
なぜなら、彼の父は…
♬ゼロになるかラダー 充たされてゆけ♬
は?
宮崎駿の実父は…
航空母艦から飛び立つ零式艦上戦闘機、いわゆる「零戦(ゼロセン)」の…
垂直尾翼の方向舵(ラダー)などを製造していた宮崎航空機製作所の経営者…
そうでした…
有名な話なのに、すっかり忘れていた…
知っての通り宮崎駿監督は、後に、戦闘機や戦争を描いた作品を多く生み出すことになる…
そのルーツが監督自身の出自に関係していることは有名だけど、そもそも日本における長編アニメーション映画の出発点がそうだったことは、あまり知られていない…
平和を愛する者でありながら、同時に兵器マニアでもある…
この相反する嗜好が、宮崎駿という芸術家の創造の源であり、矛盾点でもあったのじゃ…
軍事産業で裕福だった家に生まれ育ったお蔭で、様々な才能や感性を育むことが出来た…
しかしそれは内なる「葛藤」を生み、人間として、表現者として、ある種の「業」を背負い続けることになる…
何だか、裕福な古着屋(質屋)の息子に生まれた宮沢賢治に似てる気がします…
幼い頃から美味しいものを食べ、いい服を着て、欲しいものを何でも買ってもらえ、興味があることに好きなだけ没頭できたのは、すべて家業のお蔭…
しかしその一方で、貧しい人たちから寒さをしのぐ大切な着物を「奪う」という商売に、賢治は罪悪感や嫌悪感を抱いていました…
そんなコンプレックスが『銀河鉄道の夜』では「上等なシャツを着た子ザネリ」というキャラクターに投影されていた…
「ザネリ」とはヴェネツィア方言で「ジョバンニ」のことだから…
そして宮崎駿監督は70歳を迎えた時、自分自身を「総括」した…
自分の血、ルーツと真正面から向き合った作品『風立ちぬ』で…
最後に流れる主題歌の歌詞、めっちゃ意味深…
♬風立ち~ぬ~ 今は秋~♬
それは聖子ちゃんの『風立ちぬ』!
ジブリ映画『風立ちぬ』の主題歌は、ユーミンの『ひこうき雲』よ!
帰りたい、帰れない… あなたの胸に…
『風立ちぬ』は、意味深じゃのう…
ん? ちょっと待ってください…
涙顔 見せたくなくて
すみれ、ひまわり、フリージア
高原のテラスで手紙
風のインクでしたためています
サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ
これって、もしや…
あの「手紙」のことだね…
ハクが理砂と偽って千尋へ送ったメッセージカード…
ええっ!?
振り向けば色づく草原
ひとりで生きて ゆけそうね
首に巻く赤いバンダナ
もう泣くなよと あなたがくれた
「首に巻く赤いバンダナ」は「ポニーテールに巻く赤い髪留め」のこと(笑)
そんな馬鹿な…
偶然でしょ? 偶然そう聞こえるだけ…
これは偶然ではない。
『風立ちぬ』は『銀河鉄道の夜』や『千と千尋の神隠し』とよく似ているんだ…
「今は秋」と言いながら、登場する花は…
すみれ、ひまわり、フリージア…
ひまわりは夏の花で、すみれとフリージアに至っては春の花…
「秋」だと思わせて、本当は「春」…
これは古典的なトリックじゃ…
甲州街道の景色を「もう秋」だと言いながら、本当は「春」だったという歌もある…
春なのに秋だと嘘をつく歌? 何それ?
この話題はまだ早かったのう。
そういえば、『風立ちぬ』の終わり方って『千と千尋の神隠し』のラストシーンみたいですよね…
景色も、千尋とハクが別れた場所にそっくりですし…
そっくり、というか、そのものだよね…
というか、より宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』的だと言える…
『風立ちぬ』には、最初と最後に不思議な人物が登場する…
主人公 二郎を飛行機の世界に導く「カプローニ伯爵」という謎の人物が…
実在の人がモデルなんでしょ?
イタリア人の航空工学の専門家、ジョバンニ・バッチスタ・カプローニ博士って人。
二郎にとっての「カプローニ博士」は…
ジョバンニにとっての「ブルカニロ博士」なんだ…
ブルカニロ?
この件は、また後程ゆっくりと…
今はまず「受胎告知日3月25日」と『千と千尋の神隠し』の関係について理解しておかなければならない。
もうわかったわよ。
「3月25日」は日本で最初の長編アニメーション映画『桃太郎の海鷲』が公開された日。
そしてあの航空母艦の船橋(ブリッジ)が「時計塔」のモデル。
それだけじゃないんだよ…
「3月25日」の秘密は…
まだ秘密があるの?
ああ。まだまだある。
なにせ『千と千尋の神隠し』は、『銀河鉄道の夜』同様に「受胎告知日3月25日」が元ネタになっている物語だからね。
いったい、まだどんな秘密が?
これを見てもらおうか。
何ですか、これは?
つづく
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