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深読み ジョーダン・ピールの『Us(アス)』前篇


映画『JOKER(ジョーカー)』のキーワード「11:11」について考えていたら、なぜかジョーダン・ピール監督作品『Us(アス)』のことが気になって頭から離れなくなってしまった。

この2つの作品は、とてもよく似ている。

JOKER ジョーカー PUT ON A HAPPY FACE

Jordan Peele Us ジョーダン・ピール アス ポスター


気になり出したら止まらなくなるのが僕の性分なので、ここ二三日で考察した深読みをまとめておこう。


映画『Us(アス)』は世間一般的に「社会派ホラー」とされている。

脚本・監督を務めたジョーダン・ピールも、こんな趣旨のことをインタビューで語ったらしい。

「『アス』における主題の一つは、我々が特権に与れない人々の存在をすっかり無視できるということなのです。私たちが享受するに値すると思っているものは、他者の自由や幸福の犠牲の上に成立しているのです。アメリカ合衆国のような、特権を享受する党派的な存在がなし得る最大の害悪は、自分たちが特権に値する人間だと思い込んだり、特権に与れるのは良い場所に生まれたという幸運によるものではないと考えたりすることなのです。私たちが特権を保持しているとき、他の誰かはそのために苦しんでいるのです。つまり、苦しむ人間の存在と富を享受する人間の存在は表裏一体なのです。この点において、クローン人間たちの決起は最も心に響くものになっていると思います。観客の皆さんには、この事実を決して忘れて欲しくないのです。我々は恵まれない人たちのために闘う必要があります。」


しかしこれは嘘だ。騙されてはいけない。

ジョーダン・ピールが語ったような先入観を持たずに映画を見れば、そんなテーマを読み取ることは出来ないはずだ。

なぜなら、恵まれていない環境にある人間を「あんな風」に描いたら、恵まれている環境にある人間には「理解」よりも「恐怖」しか芽生えない…

突然目の前に現れた自分たちのドッペルゲンガーのようなクローン(しかも人間側には全く非が無いにもかかわらず、激しい憎悪を一方的に抱いている!)と、いったいどうやって共存すればいいというのだ?

クローンと置き換えられて不幸になってしまった「たった1人の人間」の復讐劇ために、何の罪もない大勢の人の命が犠牲になってもいいというのか?



と、映画『Us(アス)』にマジレスしてしまったが、本当はこんなことを語るのもバカバカしい。

あの作品をホラー映画とかSFスリラー映画として語るのは全くのナンセンス、無意味な行為だ。

百歩譲って「かつてアメリカ政府が秘密裏に全国民とそっくりなクローンを作り、プロジェクトが放置された後もクローンたちは人知れず地下世界で暮らしていた」は、まだわかる。

しかし「地下のクローンと地上の人間の脳波はシンクロしていて、地下のクローンは地上の人間とまったく同じような行動をとるが、言葉だけはそうならない」とか「地下のクローン夫婦が産んだ子は、地上の人間夫婦が産んだ子と瓜二つの子になる」は、舞台設定を成り立たせる一線を越えてしまっている。

これはもはやクローンの世界ではなくパラレルワールドだ。

冷戦時代のアメリカにはそんな科学技術があったというのか?

こんなものはホラーでもSFでも何でもない。ただの妄想だ。

なぜこんな無理筋の設定を、2019年という時代に押し通したのか?

この映画が1980年代に山のように作られたB級ホラー映画ならわかる。

しかし今は、多くの人々がクローンや遺伝子について誤解していた20世紀後半の時代とは違うのだ。

つまり、この映画の作者ジョーダン・ピールは嘘をついている。

描かれている「本当のテーマ」を隠すために、嘘の情報で誘導したとしか考えられない…


Jordan Peele(1979 - )

jordan peele us ジョーダンピール 映画監督


しかも、映画『Us(アス)』における奇妙なことは、それだけではない。

映画を観た多くの人が、主人公家族の長男ジェイソンに対して、こんな感想を述べている。

「ジェイソンは人間なの?それともクローンなの?」

Jordan Peele Us ジョーダン・ピール アス Adelaide jason アデレード ジェイソン


これはとても興味深いことだ。

映画を観た人は、地上世界の母親アデレードが人間ではなくクローンであることを知っている。

それなのに人々はジェイソン君を人間かクローンかどちらか一方に決めようとする。

ジェイソン君は、人間とクローンの間に生まれたハーフ(ダブル)の子供であり、どちらか一方に決めることは意味がないはずなのに。



しかし、映画を観た人たちが見せるこの奇妙な現象こそが、ジョーダン・ピールの求めていたものなのだろう。

ジョーダン・ピール的には「してやったり」のはず。

大勢の人々からこの反応を引き出すために「本当のテーマ」を隠し、あえて昔のB級SF映画のようなツッコミどころ満載の設定にしたわけだ。

かつて自分に向けられた世間の好奇な目を再現するために…


では、ジョーダン・ピールが隠した「本当のテーマ」とは何か?

単刀直入に言おう。

映画『Us(アス)』とは、

「異なる人種の夫婦の間に生まれた子供の葛藤」

の物語である。

そして、

「誰にも言えない苦悩を背負っていた母と、それを何とか理解しようとした息子」

を描いた物語である。


これはまさにジョーダン・ピールが育った家庭の問題そのもの。

彼の父親Hayward(ヘイワード)は黒人男性で、母親Lucinda(ルシンダ)は白人女性だった。

夫婦は子供が生まれた後に離婚し、ジョーダン少年は白人の母親によって育てられた。

おそらく周囲からは好奇の目で見られ、母親には心無い言葉が投げかけられることもあっただろう。

しかしそれ以上にジョーダン少年を悩ませたのが、自分のことを母親とは違う人種「黒人」だと見る世間の目だったはず。

黒人の父と白人の母の血を半分ずつ受け継いだハーフ(ダブル)であるはずなのに、なぜか世間は自分を母親とは別物の有色人種「黒人」として見る。

これはとても奇妙なことだ。

「ジョーダン君は白人か黒人か?」

これはそのままこう置き換えられる。

「ジェイソン君は人間かクローンか?」

答えはどちらでもない。

つまり、人間とクローンの夫婦の間に生まれた子ジェイソン君とは、少年時代のジョーダン・ピールに他ならない。

Jordan Peele Us ジョーダン・ピール アス jason ジェイソン


この「本当のテーマ」を隠すためにジョーダン・ピールは映画にちょっとしたトリックを仕掛けた。

本来は「白人女性」であるはずのキャラクターを「黒人女性」にしたのだ。

それが本作のヒロイン、Lupita Nyong'o(ルピタ・ニョンゴ)が演じる、家族の中で最も肌の色が黒い母親「Adelaide(アデレード)」である。

Jordan Peele Us ジョーダン・ピール アス ポスター 1

Jordan Peele Us ジョーダン・ピール アス ポスター ルピタニョンゴ

(ちなみに彼女も幼少時代に両親と肌の色が違うことで悩んだ過去があり、それを『Sulwe』という絵本にしている)


映画『Us(アス)』の本当のテーマは、「肌の色の違い」によって世間から向けられる偏見の目と、両親と「肌の色が違う」子供の苦悩である。

だから劇中でクローン家族を最初に「us(アス)」と呼んだのは、少年時代のジョーダン・ピールが投影されたキャラ「ジェイソン君」だったわけだ。

Jordan Peele Us ジョーダン・ピール アス jason ass

jordan peele us ジョーダンピール アス RED


それでは、映画の中でこの「本当のテーマ」が、どのように隠されているのかを検証していこう。

まずは劇中で何度もモチーフとして登場する「HANDS ACROSS AMERICA」について。

Jordan Peele Us ジョーダン・ピール アス HANDS ACROSS AMERICA ロゴ


これは実際にあったチャリティキャンペーンで、こちらが本当のロゴだ。

ほとんど同じだが、なぜかジョーダン・ピールは「ACROSS」と「人の鎖」を赤くしている。

Jordan Peele Us ジョーダン・ピール アス HANDS ACROSS AMERICA ロゴ 1986


ちなみにジョーダン・ピールは、少年時代に見た「HANDS ACROSS AMERICA」に偽善的なものを感じ、それが映画のアイデアになったと語っている。

「お金をかけてあんなイベントをするくらいなら困っている人に直接お金を渡せばいいのに」と思ったことをインタビューで語ったらしい。


しかし、ここにも「嘘」が潜んでいる。

それなりに社会経験を経た大人が、こんなことを恥ずかしげもなくメディアに語ったり、今さらになって映画の中で偽善・欺瞞の象徴として使うだろうか?

「HANDS ACROSS AMERICA」を偽善・欺瞞と言うならば、世の中のチャリティーイベントのほとんどがそうなってしまう。

これでは、まるで『24時間テレビ』を鬼の首を取ったように批判する中二病の人たちと同じだ。

『GET OUT』でアカデミー脚本賞をとったジョーダン・ピールともあろう人物が、そんな青臭い動機を基にシナリオを書くだろうか?

もちろん書くはずがない。

つまり、映画『Us(アス)』の中における「HANDS ACROSS AMERICA」の意味は、別にあるということだ。

劇中で流れるCMを、もう一度よく見てみよう。


お気づきであろうか?

ジョーダン・ピールが変えたのは「HANDS ACROSS AMERICA」のロゴや配色だけではない。

イベント名はそのままなのに、イベントの内容を変えているのだ。

本来の「HANDS ACROSS AMERICA」は、ロサンゼルスからニューヨークまでを人の鎖でつなぐイベントだった。

しかし映画『Us(アス)』の中の「HANDS ACROSS AMERICA」は、サンフランシスコからニューヨークになっている。

なぜジョーダン・ピールはスタート地点をロサンゼルスから「サンフランシスコ」に変えたのだろうか?

Jordan Peele Us ジョーダン・ピール アス HANDS ACROSS AMERICA サンフランシスコ GOLDEN GATE BRIDGE

Jordan Peele Us ジョーダン・ピール アス HANDS ACROSS AMERICA NEW YORK ニューヨーク TWIN TOWER


このトリックを読み解く鍵はCMのナレーションにある。

stretch from the Golden Gate Bridge all the way to the Twin Towers
ゴールデンゲートブリッジからツインタワーまで遥々と

実はスタート地点もゴール地点も町の名前は言及されていない。

金門橋と摩天楼の映像が映されるだけで、サンフランシスコともニューヨークとも言っていないのだ。


そして本来の「HANDS ACROSS AMERICA」には無かったキャッチコピーも付け加えられている。

It's HANDS ACROSS AMERICA
a four thousand mile long chain of Good Samaritan standing hand in hand
ハンズ・アクロス・アメリカ
手と手をとって立ち上がった善きサマリア人の4千マイルに及ぶ長い鎖

「the Good Samaritan(善きサマリア人)」とは、新約聖書『ルカによる福音書』10章25節から37節にある、イエス・キリストが語った隣人愛と永遠の命に関する「たとえ話」のことだ。

10:25 するとそこへ、ある律法学者が現れ、イエスを試みようとして言った、「先生、何をしたら永遠の生命が受けられましょうか」。
10:26 彼に言われた、「律法にはなんと書いてあるか。あなたはどう読むか」。
10:27 彼は答えて言った、「『心をつくし、精神をつくし、力をつくし、思いをつくして、主なるあなたの神を愛せよ』。また、『自分を愛するように、あなたの隣り人を愛せよ』とあります」。
10:28 彼に言われた、「あなたの答は正しい。そのとおり行いなさい。そうすれば、いのちが得られる」。
10:29 すると彼は自分の立場を弁護しようと思って、イエスに言った、「では、わたしの隣り人とはだれのことですか」。
10:30 イエスが答えて言われた、「ある人がエルサレムからエリコに下って行く途中、強盗どもが彼を襲い、その着物をはぎ取り、傷を負わせ、半殺しにしたまま、逃げ去った。
10:31 するとたまたま、ひとりの祭司がその道を下ってきたが、この人を見ると、向こう側を通って行った。
10:32 同様に、レビ人もこの場所にさしかかってきたが、彼を見ると向こう側を通って行った。
10:33 ところが、あるサマリヤ人が旅をしてこの人のところを通りかかり、彼を見て気の毒に思い、
10:34 近寄ってきてその傷にオリブ油と葡萄酒とを注いで包帯をしてやり、自分の家畜に乗せ、宿屋に連れて行って介抱した。
10:35 翌日、デナリ(銀貨)二つを取り出して宿屋の主人に手渡し、『この人を見てやってください。費用がよけいにかかったら、帰りがけに、わたしが支払います』と言った。
10:36 この三人のうち、だれが強盗に襲われた人の隣り人になったと思うか」。
10:37 彼が言った、「その人に慈悲深い行いをした人です」。そこでイエスは言われた、「あなたも行って同じようにしなさい」。


この「たとえ話」には4人の登場人物が出て来る。

傷ついて倒れていた旅人、旅人を無視した祭司とレビ人、旅人を助けたサマリア人。

○○人という風に呼ばれているが、レビ人もサマリア人も同じユダヤ人であり、もちろん祭司も旅人もユダヤ人である。

レビ人とは「レビ族の人」という意味で、モーセの兄アロンの子孫にあたり、先祖代々祭司の補佐役として宗教行事を執り行う「生まれながらの特権階級」みたいな人のことを指す。

サマリア人とは、かつてユダヤ人の王国が南北2つに分かれて争っていた時代の北部「北イスラエル王国」の首都サマリアがあった地域に住んでいた人々のこと。

あのCMのキャッチコピーは、とても「いいこと」を言ってるように聞こえる。

イエスが律法学者に隣人愛の見本として挙げたサマリア人がやったように、アメリカ社会の中で貧困や差別に苦しむ人たちに救いの手を差し伸べよう、みんなで善きサマリア人になろう!という内容だから。

しかし、ここに「落とし穴」がある。

当時のユダヤ人社会の中で、差別され貧困に喘いでいたのはサマリア人なのだ。

かつて存在した北イスラエル王国はアッシリア帝国に攻められ滅ぼされた。

その際、首都があったサマリア地方にはアッシリア軍が駐留し、サマリアの女性たちはアッシリア兵たちの戦利品として与えられ、多くのサマリア人女性が異教徒アッシリア人とのハーフ(ダブル)を産んだ。

そういう過去があったので、南部ユダ王国の人々は国家統一後も、同じユダヤ人でありながらサマリア人を「穢れた血の混じった人間」として差別した。

ユダヤ人主流派に差別されたサマリア人の住むサマリア地方は貧困地域となり治安は悪化。しかも起伏にとんだ土地柄なので街道にはあちこちに死角があり、そこにはサマリア人ギャングが潜んでいる危険もあった。

今で言うところのスラム街みたいな感じで、余程急ぐ人でなければサマリアは避けて通るのが当時の常識だった。

そんな状況を踏まえた上でイエスは「たとえ話」をしたのである。

傷つき倒れている人を、生まれながらに身分が保証されている「社会の勝ち組」の人々は無視したけど、生まれながらに差別され貧困に苦しんでいた「社会の負け組」の人は手を差し伸べた。

だから前者に属する律法学者は愕然としたわけだ。

自分たちが「穢れた血の混じった劣等種」と考えていた人間たちのようになりなさいと言われたのだから。

こういう背景をもつ「善きサマリア人」を、ジョーダン・ピールは「HANDS ACROSS AMERICA」のCMにキャッチコピーとして入れた。

主に、恵まれた環境にある白人のアメリカ人が、恵まれない環境にある黒人(有色人種)のアメリカ人を助けるということが暗黙の前提になっているキャンペーンにおいて、「善きサマリア人」の喩えはブラックユーモアでしかない。

そして、本来は「白い人」だった人間の鎖を、有色の「赤い人」に置き換えた理由も、ここにある。


では、もう1つの変更点「金門橋から摩天楼へ」はどこから来たのか?

これも「善きサマリア人」からだ。

もう一度あの映像を見てみよう。

Jordan Peele Us ジョーダン・ピール アス HANDS ACROSS AMERICA サンフランシスコ GOLDEN GATE BRIDGE

Jordan Peele Us ジョーダン・ピール アス HANDS ACROSS AMERICA NEW YORK ニューヨーク TWIN TOWER


なぜジョーダン・ピールは「サンフランシスコからニューヨークへ」と町名ではなく「橋からビル群へ」と建造物で示したのか?

その答えは、この「善きサマリア人」の絵だ。

Good_Samaritan_(icon) 善きサマリア人

『Good Samaritan』


18世紀にロシアで描かれたこの絵は、登場人物が黒人(有色人種)として描かれている。

そして画面手前には「金門橋」があり、画面奥には「摩天楼」がある。

まさにあのナレーションの通りだ。

それだけではない。起伏にとんだ山々の稜線をよく見て欲しい。

描かれている草木が何か別のものに見えないだろうか?

Good_Samaritan_(icon) 善きサマリア人 Us アス Jordan Peele ジョーダン・ピール HANDS ACROSS AMERICA


そう。

映画『Us(アス)』のラストシーンで映し出された、丘陵地帯に伸びる「赤い人の鎖」だ。

Jordan Peele Us ジョーダン・ピール アス HANDS ACROSS AMERICA 善きサマリア人 1

しかも丘陵地帯の横を流れる川を下って行く「4人の黒い影が乗る白い帆船」も再現されていた。

アデレード(レッド)が運転していた救急車で。

Jordan Peele Us ジョーダン・ピール アス ラストシーン 1111

Good_Samaritan_(icon) 善きサマリア人 Us アス Jordan Peele ジョーダン・ピール HANDS ACROSS AMERICA


ジョーダン・ピールは、あの「黒人として描かれた善きサマリア人」の絵を暗示させるために、わざわざ「HANDS ACROSS AMERICA」のCMを作り変えた。

そして「HANDS ACROSS AMERICA」の行われた年「1986年」には、もう1つ「血」にまつわる出来事があった。

「HANDS ACROSS AMERICA」以上に世界にインパクトを与えた出来事である。


それは、Mitochondrial Eve(ミトコンドリア・イブ)の「発見」だ。


この「ミトコンドリア・イブ仮説」は、『パラサイト・イブ』として小説や映画の題材にもなったから御存じの方も多いだろう。


ざっくり説明すると、ウィキペディアに書いてある通りだ。

ミトコンドリア・イブ(mitochondrial Eve)とは、ヒトについての分子生物学において、現生人類の最も近い共通女系祖先(matrilineal most recent common ancestor)に対し名付けられた愛称。約16±4万年前にアフリカに生存していたと推定され、アフリカ単一起源説を支持する有力な証拠の一つである。


この「ミトコンドリア・イブ仮説」をわかりやすく図解でまとめた動画を見てみよう。


お気づきだろうか?

映画『Us(アス)』のテーマや改変された「HANDS ACROSS AMERICA」と「ミトコンドリア・イブ仮説」のイメージがよく似ていることを。

Jordan Peele Us ジョーダン・ピール アス HANDS ACROSS AMERICA ロゴ

Mitochondrial Eve ミトコンドリア イブ ALAN WILSON Us アス JORDAN PEELE ジョーダン・ピール


ウィルソン博士(『Us(アス)』の主人公家族と同じ苗字!)の「ミトコンドリア・イブ仮説」は「1987年」になっているが、これは論文の掲載された科学雑誌ネイチャーが「1987年1月1日号」だったことによる。

1986年に提出され、1986年に精査され、1986年に雑誌に印刷されたが、発売日が年明けの「1987年1月1日」だったので、こうなってしまっただけのこと。

おそらくここからジョーダン・ピールは物語のインスピレーションを得た。

人間とクローンのハイブリッド種である新人類ジョーダン君の子孫が繁栄した未来において、その母系遺伝子を遡ると「ひとりの女性」に行き着く。

それが映画『Us(アス)』のヒロインである「アデレード/レッド」である。

Jordan Peele Us ジョーダン・ピール アス Adelaide jason アデレード ジェイソン


ジェイソン君が母親を見て何も言わずに「猿人」の面を被った理由も、母親が何も言わずに笑った理由も、これで説明が出来る。

Jordan Peele Us ジョーダン・ピール アス Adelaide jason アデレード ジェイソン Mitochondrial Eve ミトコンドリアイブ


ジェイソン君は、すべてを理解したのだ。

自分の母親が新しい人類の「ミトコンドリア・イブ」であり、新しい人類の母「Lucy(ルーシー)」であることを。

lucy ルーシー アウストラロピテクス Mitochondrial Eve ミトコンドリア イブ ALAN WILSON Us アス JORDAN PEELE ジョーダン・ピール


ちなみに「Lucy」とはジョーダン・ピールの母親「Lucinda」の愛称でもある。

Jordan Peele Us ジョーダン・ピール アス jason ジェイソン 1


ジョーダン・ピールが映画『Us(アス)』で描いたものは、アメリカ社会の偽善・欺瞞に警鐘を鳴らす物語ではない。

周囲の人たちとはちょっと違った母親から「画期的な遺伝子」を受け取ったジョーダン・ピールのルーツを描いた物語である。

「us」とは、全人類「わたしたち」であると同時に、ジョーダン・ピールの家族「わたしたち」なのだ。


しかしここでまた1つの疑問が出て来る。

なぜジョーダン・ピールはラストシーンの会話を「無言」にしたのだろうか?

なぜアデレード(レッド)とジェイソン君に何も語らせず、ジェイソン君の不安そうな表情と、アデレード(レッド)の「笑い」と、のんびりとしたエンディング曲で終わらせたのか?

どう考えても、あの状況には合っていないように聞こえるMinnie Riperton(ミニー・リパートン)の『les fleurs』 で…


その答えは、映画『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』にある。

あの作品のラストシーンと映画『Us(アス)』のラストシーンは、まったく同じシチュエーションなのだ。

Jordan Peele Us ジョーダン・ピール アス THREE BILLBOARDS スリー・ビルボード red dixon jason mildred

MILDRED(ミルドレッド)と JASON DIXON(ジェイソン・ディクソン)、RED(レッド)と JASON(ジェイソン)という名前も似ている。

そしてバックで流れるエンディング曲、Amy Annalle(エイミー・アナル)の『Buckskin Stallion Blues』の雰囲気も…


これはいったい何を意味しているのか?

ラストシーンの解説を含め、映画『Us(アス)』の中で使われる歌に隠された秘密については、後篇でたっぷりと語るとしよう。

映画を観たほとんどの人が「11」と『les fleurs』と『I got 5 on it』の意味に気付いていない…



後篇へつづく




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