「なぜパイは救命ボートで膝をかがめているのか?」『深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)& 読みたいことを、書けばいい。』
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2019年9月19日深夜
スナックふかよみ
ふふふ。
それじゃあ『ダニエル書』の続きを深読みしてもらおうかしら…
ねえ、ジョーさん…
はい…
第2章は、バビロニア王ネブカドネザルの不可解な夢と、それをビジョンとして見て、意味の解き明かしを行ったダニエルの話…
ついにダニエルの深読みね!
はい。ダニエル最初の「深読み」です…
ある時、ネブカドネザル王は不可解な夢を見ました…
そして、その夢を解き明かすために、学者・占星術師・魔術師など、国中の知識人を集められます…
しかし王は、肝心の夢の内容を語りません…
知識人は苛立ち始め、「意味が分からない!」と暴言を吐いてしまいます…
それに怒った王は、国中の知識人を死刑にすることを家来に命令…
は? 意味が分かりません。
つまり、王の考えとは、こういうことです…
「どんな夢でも解き明かせるなら、私の見た夢の内容くらい分かるだろう」
なにその無理ゲー(笑)
そんなことないと思うけどな。
実際に、まったく内容を聞かなくても、内容を深読みすることが出来たケースはある。
しかし、「どんなに知識人が聞いても、夢を絶対に教えてくれない王」と『ライフ・オブ・パイ』にどんな関係が?
このシーンです…
ダンスの振付?
「なぜ森の中に蓮の花が?」
パイは、のちに彼女となるアーナンディが踊っていた振付の意味を本人に訊ねましたが、クスクスと笑われるだけで、まったく教えてもらえませんでした…
それもそのはず、「鬱蒼とした茂みの中で密かに咲く蓮の花」とは「女性器」のことだったからです…
なるほど…
確かにパイは最後まで教えてもらえなかったわ…
先程までが第2章の前半部。
後半部はダニエルが登場して、夢解きに挑みます。
王が見た夢を教えてもらえないのに?
そんなの無理よ!
「それでは将軍様、虎を屏風から追い出してください」じゃないんだから!
うふふ。うまい(笑)
どうやってダニエルは夢を教えてもらわずに、夢解き出来たのでしょうか?
ダニエルは、異境においても穢れた肉を口にしないなど、神ヤハウェの教えを守り続けていました…
だから神は、王が見た夢を、ビジョンとしてダニエルに見せたのです…
ビジョン?
まさかそれも『ライフ・オブ・パイ』で…
はい。ばっちり再現されています…
ダニエルが見たビジョンとは、このようなもの…
「王の目の前に巨大な像が現われた。その像は様々な金属で作られており、眩しく光り輝き、恐ろしい形をしていた。しかし、巨大な像はあっけなく破壊され、嵐の中で跡形もなく消えてしまった…」
は? 嵐で沈没した貨物船ツィムツーム号じゃん!
その通りです…
あのシーンは、神がダニエルに見せたビジョンそのものだったのです…
そして…
ダニエルが王から夢の内容を聞かずに夢解き出来たように…
パイもアーナンディの振付の意味を解き明かします…
鬱蒼とした森の真ん中に「死と再生の泉」がある島という形で…
だからパイは、彼女からもらったミサンガを外して、島の木の根に結び付けたのですね…
「森の中の蓮の花」の謎が解けたから…
あの行為には、他にも意味があるんですよ…
え?
詳しくはまた後程…
さて、ダニエルが王の不思議な夢を解き明かしたお陰で、知識人たちの死刑は中止されました…
そして王はユダヤの神に感謝し、ダニエルをバビロン州総督に抜擢し側近として侍らせ、他の3人も高い地位の役人に取り立てます…
ここまでが第2章です。
異教徒の外国人なのに行政のトップに抜擢されるって、なんだかモーセみたい。
『ダニエル書』は、旧約聖書のエッセンスが凝縮されたダイジェスト版みたいなものなんですよ…
それでは第3章にいきます…
ある時、ネブカドネザル王は「金の像」を作り、それを家来たちに拝ませました…
それも『出エジプト記』ですね。
モーセがシナイ山に登ってる間に、モーセの兄アロンが作った黄金の子牛像…
王は、高官に取り立てた3人にも、金の像を拝むように命じました…
しかし3人は、自分たちの神ヤハウェ以外は拝まないと拒否…
これに激怒した王は、3人を燃え盛る炎の海に投げ込んでしまいます…
滅茶苦茶な王ね。第2章は何だったの?
王は3人が焼け死ぬを楽しみに観ていましたが、ある異変に気付きます…
炎の海の中に「もうひとりの人物」がいて、彼が3人を焼死から守っていたのです…
海に投げ出された動物を助けたパイね。
そして、その人物は…
まるで「神の子」のような姿をしていました…
『シャドラク、メシャク、アベド・ネゴ』
シメオン・ソロモン
神の子って…
イエス・キリストの役割を演じていたパイじゃん…
炎の海で焼け死ななかった3人を見て、王は彼らの神の偉大さに感動し、こう叫んで考えを改めました…
「なんということだ!このような救いを施せる神は、他にはいない!」
こ、これは…
「パイの物語」のキャッチコピー…
A story that would make me believe in God…
「神を信じるようになる物語」に他なりません…
まさに…
これが『ダニエル書』第3章です…
ダニエル書、ヤバいわね。
ヤバいどころじゃないよ。
では第4章…
「食べ物が豊富に実り、無数の動物が集まる、不思議な木」の夢解きです…
もうタイトルで分かっちゃった(笑)
島全体が食べられる樹木で出来ていて、無数のミーアキャットが集まる、不思議なカニバリズム島ね。
これはさすがに、そのまんま過ぎだと思います。
はい。第4章は、そのまんまです…
しかも、その不思議な木の根元や草を「牛のように食え」という夢のお告げまであるんです…
パイも牛みたいに食べてた!
そして「その身を天からくだる露に濡れせ」というお告げも…
濡らしてたわ!
さらには「そこに住む動物たちと場所を共有し、七時間を過ごせ」というお告げも…
パイは木をミーアキャットと共有してた…
たぶんちょうど7時間くらい…
そして「木の根元に縄を結べ」というお告げも…
パイが木の根元に結んだミサンガね…
あのカニバリズム島、本当に第4章の夢そのまんまだわ…
旧約聖書を読んだことのある人なら、少なくともあの島のシーンまで行けば、パイの話が「聖書の焼き直し」だと気付くでしょう…
それくらい「そのまんま」になっています…
おそるべし、ヤン・マーテルとアン・リー監督…
では第5章に…
第5章は「壁に書かれた謎の文字」の謎解きです…
ネブカドネザル王の子ペルシャザルの治世になっており、ダニエルは引き続き側近として仕えていました…
そして、ある宴会の席で、不思議な手が現われ、壁に謎の文字を書きます…
『ペルシャザル王の宴会』レンブラント
あっ!これは!
ルネ・クレマン監督、アラン・ドロン主演の『太陽がいっぱい』にも使われたネタですね!
「エリ、エリ、レマ、サバクタニ」だっけ?
それはイエスが十字架上で発した言葉…
こちらは「メネ、メネ、テケル、ウパルシン」です…
ちなみにこれは、パイが救命ボートの「壁面に書く文字」で再現されました…
なるほど…
だからパイは、わざわざあんなところに書いてたのね…
なんで手帳に書かないのって、一瞬思った。
そして第6章…
不思議な文字の預言でペルシャザル王は殺され、ダリヨス王の統治の時代…
新王にも引き続きダニエルは重用されますが、他の重臣たちから妬まれ、策略によって獅子の洞窟に投げ込まれてしまいます…
しかし神の加護によって、ダニエルは食い殺されることなく無傷で生還…
『王に答えるダニエル』ブリトン・リヴィエール
これも「パイの物語」そのまんま。
ライオンがトラに置き換わっただけ…
無事に生還したダニエルに驚愕したダリヨス王は、国土にお触れを出します…
「ダニエルの神は奇跡を起こす!信じよ!そして畏れよ!」と…
そして毎回この結末。
「神を信じるようになる物語」です。
ちなみに、ダニエルがハメられた策略って、どんなんだったの?
あれだけ何でも分かっちゃう人なのに。
これがまた『ライフ・オブ・パイ』的にも、非常に興味深いんです…
え?
ダニエルを妬む重臣たちは、ある法案を作って、王に署名させました…
その法案とは「王が法案に署名した後、三十日間は王以外に祈りを捧げてはならない。違反した者は獅子の洞窟に投げ込まれる」というもの…
そして重臣たちがダニエルの家を見張ってると、ダニエルはいつも通りお祈りを始めます…
エルサレムの方向を向き、膝をかがめて…
そしてダニエルは獅子の洞窟に投げ込まれたのです…
どこが『ライフ・オブ・パイ』的に面白いのよ?
ダニエルの祈りのポーズです…
「エルサレムの方向を向いて、膝をかがめる」は非常に重要なモチーフになりました…
どこで?
黄金の夜明けシーンです…
へ?
あの救命ボートは、神を祀る「会見の幕屋」…
つまり…
エルサレムの神殿の丘に建てられたエルサレム神殿だったよね…
あ、そっか…
パイは、エルサレムの方向を向いて、膝をかがめていたんだわ…
そして、これもね…
原作の表紙…
確かにパイが膝をかがめてます…
だけど、これはエルサレムの方向なのですか?
この表紙における「トラの背中の模様」は「死海」を表していました…
つまり「膝をかがめた」パイの向いている方向とは…
エルサレム…
なにこれ… ちょー怖い…
ダニエル書、ヤバすぎるって!
以上、第6章でした…
素晴らしいね、ジョー…
とても大学時代にやっていただけとは思えない…
ふふふ。能ある鷹は爪を隠す、よね(笑)
・・・・・
ねえねえジョー、早く続きを深読みして!
あたし、ちょー気になってるの!
はい… わかりました…
第7章は「4頭の獣と人の子」ですから、もう深読み済みですね…
4頭の中で最も凶暴な獣に打ち勝つ「人の子」とはメシア、つまりイエス・キリストの預言になっていました…
つまり虎に打ち勝ったパイのことです…
それでは第8章に行きたいと思います…
つづく
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