深読み_ライフ_オブ_パイ_11あ

「見張り塔からずっと 完結篇」『深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)& 読みたいことを、書けばいい。』


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2019年9月19日 夜
スナックふかよみ

スナックふかよみ ライフ・オブ・パイ


大林少年 ティッシュ

あの、文代さん…

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なあに?

大林少年 ティッシュ

さっきの「ジョーカー(神)の嘆き」なんですけど…

あれってパイのお父さんの嘆きに似てますよね?

社会の変化に絶望して「もうここから出て行く」って言い出すところが…

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そうね。まったく同じ嘆きよね。

「神」は「父・主」でもある。パイのお父さんもそう。

大林少年 ティッシュ

なるほど。

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そして『ALL ALONG THE WATCHTOWER』の凄いところは、ここからなの。

ジョーカー(神)の嘆きに対し、泥棒(預言者イザヤ)が応えるところからね…

1分17秒あたりからよ。


ふかよママ

歌詞は、こんな一節で始まるわ。

"No reason to get excited", the thief he kindly spoke

「そんなに興奮しなさんな」泥棒は優しく語った

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そして泥棒はこう続ける。

 "There are many here among us who feel that life is but a joke

「ここにいる連中は、人生をジョークに過ぎないと思ってる奴ばかり」

ふかよママ

かなりの皮肉屋というかペシミストよね、泥棒さんは。

ちなみに『イザヤ書』では、どんなふうになってるのかしら?

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預言者イザヤは、神の嘆きに対して、こう応えた…

かつては忠信であった町、どうしてふしだらな女となったのか。昔は公平で満ち、正義がその内に宿っていたのに、今は人を殺す者ばかりとなってしまった。

ふかよママ

悲観的なのは似たようなものね。

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そしてイザヤは「葡萄畑の愛の歌」を謳う。

「葡萄畑」というのは、神の御業と愛を喩えたもの…

「葡萄」とは神に愛されたユダヤの民のことで、「畑」とはカナンの地のモリヤの丘陵に作られた聖都エルサレムのことよ…

わたしはわが愛する者のために、そのぶどう畑についてのわが愛の歌をうたおう。わが愛する者は土肥えた小山の上に、一つのぶどう畑をもっていた。

彼はそれを掘りおこし、石を除き、それに良いぶどうを植え、その中に見張り塔を建て、またその中に酒舟を掘り、良いぶどうの結ぶのを待ち望んだ。ところが結んだものは野ぶどうであった。

それで、エルサレムに住む者とユダの人々よ、どうか、わたしとぶどう畑との間をさばけ。

わたしが、ぶどう畑になした事のほかに、何かなすべきことがあるか。わたしは良いぶどうの結ぶのを待ち望んだのに、どうして野ぶどうを結んだのか。

それで、わたしが、ぶどう畑になそうとすることを、あなたがたに告げる。わたしはその間垣を取り去って、食い荒されるにまかせ、その垣を取り壊して、踏み荒されるにまかせる。

わたしはこれを荒して、刈り込むことも、耕すこともせず、荊棘(おどろ)と、茨(いばら)とを生えさせ、また雲に命じて、その上に雨を降らさない。

万軍の主のぶどう畑はイスラエルの家であり、主が喜んでそこに植えられた物は、ユダの人々である。主はこれに公平を望まれたのに、見よ、流血。正義を望まれたのに、見よ、叫び。

 わざわいなるかな、彼らは家に家を建て連ね、田畑に田畑をまし加えて、余地をあまさず、自分ひとり、国の内に住まおうとする。

大林少年 ティッシュ

なんだか最後のところはイスラエルによる東エルサレムやヨルダン川西岸地区への領土拡大や入植事業のことに聞こえます。

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だからボブ・ディランは『イザヤ書』を歌にしたの。

聖書を知る人なら、すべてを語らなくても、言わんとしたいことを理解してくれるから。

大林少年 ティッシュ

さすがノーベル文学賞作家ですね。

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選ぶ人だって、ちゃんと見てるのよ。

そして泥棒は、こう会話を終わらせた…

But you and I, we've been through that,
and this is not our fate
So let us not talk falsely now,
the hour is getting late"

「俺とあんたはこれまでいろんな目に遭ってきたが、こんな結末のはずがない。だから自分を偽って話すのはやめにしよう。もう時間も遅い。」

ふかよママ

なぜ泥棒は道化師に「自分を偽っている」と言ったのかしら?

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だって神は絶望なんかしないし、約束の地と民を見捨てるわけがないでしょ?

『イザヤ書』でも神は、堕落した民に「バビロン捕囚」という強烈な罰と試練を与えるけど、それを必ず乗り越えて再び栄光をつかむだろうと語るの。

おかえもん 爽やか 考えごと

そして「しもべ」と「悲しみの子」の預言も…

ふかよママ

しもべと悲しみの子?

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そう。

後世に『イザヤ書』が、とっても重要な意味を持つようになった理由…

それが『イザヤ書』の後半で語られる、4つの「しもべの歌」と「悲しみの人」の預言…

つまりメシア… 救世主の預言よ…

おかえもん 爽やか 考えごと

特に第53章の「Man of Sorrow(悲しみの人)」は有名だね。

多くの芸術作品で元ネタとしてよく使われる。

彼は侮られて人に捨てられ、悲しみの人で、病を知っていた。また顔を覆って忌み嫌われる者のように、彼は侮られた。我々も彼を尊ばなかった。
まことに彼は我々の病を負い、我々の悲しみを担った。然るに我々は思った、彼は打たれ、神に叩かれ、苦しめられたのだと。
しかし彼は我々の咎のために傷つけられ、我々の不義のために砕かれたのだ。彼は自ら懲らしめを受けて、我々に平安を与え、その打たれた傷によって、我々は癒されたのだ。
我々はみな羊のように迷って、各々自分の道に向かって行った。主は我々すべての者の不義を、彼の上に置かれた。
彼は虐げられ、苦しめられたけれども、口を開かなかった。屠り場に引かれて行く小羊のように、また毛を切る者の前に黙っている羊のように、口を開かなかった。
彼は暴虐な裁きによって取り去られた。その代の人のうち、誰が思ったであろうか、彼はわが民の咎のために打たれて、生けるものの地から断たれたのだと。
彼は暴虐を行わず、その口には偽りがなかったけれども、その墓は悪しき者と共に設けられ、その塚は悪をなす者と共にあった。
しかも彼を砕くことは主の御旨であり、主は彼を悩まされた。彼が自分を、咎の供え物となすとき、その子孫を見ることができ、その命を永くすることができる。かつ主の御旨が彼の手によって栄える。
彼は自分の魂の苦しみにより光を見て満足する。義なる我がしもべはその知識によって、多くの人を義とし、また彼らの不義を負う。

大林少年 ティッシュ

若き日のボブ・ディランもカバーし、コーエン兄弟が映画『オー!ブラザー』でリバイバルヒットさせた『Man of Constant Sorrow(いつも悲しむ男)』が有名です…

ふかよママ

イエス・キリストのことね…

泥棒が道化師に「自分を偽るのはやめよう」って言うのも納得だわ…

神は罪深き人間を見捨てるどころか、のちに自分の分身でもある我が子を地上に送り込んで救わせた…

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そういうこと。

ボブ・ディランは、この『ALL ALONG THE WATCHTOWER』の短い歌詞の中に、全66章からなる『イザヤ書』の壮大なストーリーを落とし込んだの。

はっきり言って「天才」よ。

大林少年 ティッシュ

でも残るは短いサビだけです…

あの中に救世主の預言が隠されているというのですか?

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そう。歌詞を見ていきましょう。

All along the watchtower,
princes kept the view
While all the women came and went,
bare foot servants,too.
Outside in the distance a wildcat did growl
Two riders were approaching,
the wind began to howl.

ふかよママ

なんだか『ライフ・オブ・パイ』っぽい。

「トラ」は「wildcat」でしょ?

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ふふふ。最後は嵐の始まりだしね。

さて、このサビ部分のベースになっているのは…

『イザヤ書』第21章「海の荒野についての託宣」…

大林少年 ティッシュ

海の荒野、ですか?

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神はよく中東の荒野を「海」に喩えるの…

どちらも、ちっぽけな人間からすると果てしなく広くて、ほとんど不毛の地でしょ?

ユダヤの地を異国人に征服させる時も「大洪水で水没させる」と表現するくらいなのよ。

大林少年 ティッシュ

実際にノアの大洪水で水没させましたからね。

これもなんだか『ライフ・オブ・パイ』っぽい。

おかえもん 爽やか 考えごと

「ぽい」じゃないんだ。「そのもの」なんだよ。

『イザヤ書』の第9章には、こんな描写まである…

主の怒りによって地は闇に包まれ、その怒りの炎から逃れられる者はなく、誰もが他人のことなど構ってはいられない。彼らは右手で奪っても、なお飢え、左手で食べても飽くことがない。彼らは自らの手で、その隣人の肉体を貪り喰う。

ふかよママ ああ!

マジで!?カニバリズム!?

『ライフ・オブ・パイ』そのまんまじゃん!

佳世実ちゃん チェリー サングラス ナイトドレス

ふふふ。わかったでしょ?

 あたしがなぜ『イザヤ書』の話を始めたのか、が…

じゃあ第21章「海の荒野についての託宣」に戻るわよ。

バビロニアが滅ぼされ、奴隷となっていた民が解放されるという預言ね…

主はわたしにこう言われた。「行って、見張り人をおき、その見るところを告げさせよ。馬に乗って二列に並んだ者と、ロバに乗った者と、ラクダに乗った者とを彼が見るならば、耳を傾けてつまびらかに聞かせよ。」
そして見張り人は大声で叫んだ。「主よ、わたしは昼間ずっと見張り塔に立ち、夜も持ち場を離れませんでした!するとどうでしょう!馬に乗って二列に並んだ者がここに来るではありませんか!」
彼は続けて言った。「倒れた!バビロンは倒れた!その神々の偶像はことごとく打ち砕かれて地に伏した!」

大林少年 ティッシュ

サビの歌詞「All along the watchtower」と「Two riders were approaching」は、第21章そのままです…

これが『ライフ・オブ・パイ』の冒頭映像「見張り塔と2頭の象」になったのですね…

スクリーンショット (117)1

おかえもん 爽やか 考えごと

奥の象と違い、手前の象に「rider」が乗っていなかったのは、アン・リー監督の「遊び心」だろう。

勘のいい人は「two riders」を期待し、手前の象にも「rider」が乗っているだろうと予想するんだけど、すっかり肩透かしを食らってしまう。

ふかよママ

だけどさ、イザヤ第21章には「うろうろする女たちと裸足のしもべ」は出て来ないわよね。

あと「様子を見てる王子たち」も「野外でうなり声をとどろかすワイルドキャット」も出て来ない。

おかえもん 爽やか 考えごと

それが『イザヤ書』後半で語られる救世主、つまりイエス・キリストのことなんだ。

ふかよママ

え?

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ボブ・ディランは、サビで「救世主イエスの十字架での死」について歌っているのよ。

「うろうろする女たち」とは、動揺し、狼狽した母マリアやマグダラのマリアたちのこと…

「様子を見てる王子たち」とは、イエスを辱めたガリラヤ領主ヘロデ・アンティパスと、その他の兄弟たち…

そして「うなり声をとどろかすワイルドキャット」とは、十字架にかけられたイエス…

ふかよママ

どうしてワイルドキャットがイエスなの?

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聖書でイエスはよく獅子に喩えられるの。ライオンは百獣の王だから。

そしてイエスは十字架上で、全地にとどろき渡る大声で「エリ・エリ・レマ・サバクタニ(神よ、なぜ私を見捨てられたのですか)」と言った。

これをボブ・ディランは「うなり声をとどろかすワイルドキャット」と表現したのよ。

ふかよママ

あ、なるほど…

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つまり『見張り塔からずっと』という歌は…

前半で「絶望」や「神の不在」を歌って不安を煽りながら…

後半で「神による救い」を暗示させる構成になっているというわけ…

『ライフ・オブ・パイ』が「聴く者が神を信じるようになる物語」であったようにね…

大林少年 ティッシュ

すごい… そして深い…

おかえもん 爽やか 考えごと

それでは『ライフ・オブ・パイ』の冒頭映像に戻ろうか。

「塔と2頭の象」の次は…

ふかよママ

ちょっと待って。

おかえもん 爽やか 考えごと

え?

ふかよママ

『イザヤ書』第21章「海の荒野についての託宣」についてなんだけどさ…

あの預言で、ちょっと引っ掛かってることがあるんだけど…

おかえもん 爽やか 考えごと

引っ掛かってること?

ふかよママ

神はイザヤに「二頭の馬に乗った者」と「ロバに乗った者」と「ラクダに乗った者」が来るって言ったのに…

実際に来たのは「二頭の馬に乗った者」だけ…

なぜあそこはスルーされたの?

神様の言ったことだから、誰も「ロバとラクダの人、どこ行った?」って突っ込めなかったの?

大林少年 ティッシュ

あ、確かにそうだ…

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この時は「二頭の馬に乗った者」しか来なかったけど…

預言通りに「ロバに乗った者」と「ラクダに乗った者」も現れたのよ。

かなり時間をおいて、だけどね…

ふかよママ

かなり時間をおいて?

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「ロバに乗った者」とは、子ロバに乗ってエルサレムへ入城したイエスのこと…

そして「ラクダに乗った者」とは、ラクダに乗って聖戦を戦ったムハンマドのこと…

ふかよママ ああ!

ああ!

大林少年 ティッシュ

なんと…

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神がそこまで見越して言ったのか、それともホントに登場させるのをド忘れしたのか、はたまた慌てた見張り人が見落としたのか、本当のことはわからない。

真実は藪の中ね (笑)

おかえもん 爽やか 考えごと 汗

(「藪の中」だと? この女、まさか「あのこと」にも気付いているのか? そうだとしたら…)



つづく





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