深読み バック・トゥ・ザ・フューチャーvol.3(ポール・サイモンの HEARTS AND BONES ㊴「Rene and Georgette Magritte with their dog after the war」XⅥ~『深読み ライフ・オブ・パイ&読みたいことを、書けばいい。』第170話)
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2019年9月19日
スナックふかよみ
だからジェニファーは「歴史的価値のある時計台を救おう」のチラシの裏に、「555」で始まる電話番号を書いたんだよ…
「I love you!」という言葉を添えて…
なんと…
鳳凰拳。
いや、ここでそんなダジャレ要らないから…
みんな衝撃を受けているところでしょ…
ずっと真面目なハナシをしとるから、ちょっと気分転換にでもと…
わしが『愛の水中花』を振っても、歌ってくれんかったし…
そうですね。小難しくてマニアックな話が続いていましたから、ここらでムードを変えましょう。
マーティが街を快走する際に流れるBTTFの主題歌『The Power of Love』について、深読みしましょうか。
やっほう!ダンシング・タイムじゃ!
ミュージック、スターティン!
あの… わざとやってます?
何のことじゃ?
確かにこれは『パワー・オブ・ラブ』ですけど…
Huey Lewis & the News ではなく aiko の『POWER OF LOVE』です…
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の主題歌は、これじゃなかったかのう?
違います。
日本での劇場公開版は、こっちの『パワー・オブ・ラブ』が流れておったような…
そんなわけありません。あなたの中だけでタイムパラドックスが起きてます。
すまんすまん。わしの気のせいか。
似とるから、つい…
タイトルだけでしょう、似てるのは…
BTTFの主題歌とは、まったく関係のない曲です…
そうかな?
は?
あの歌詞は、明らかに不自然…
どう考えても…
あの歌詞?
思い出したわい!
これじゃ、これじゃBTTFの主題歌は…
改めてミュージック、スターティン!
ドクとデロリアンも出てくるのね、オフィシャルのミュージックビデオには。
この映画のために作られた曲ですから…
『BACK TO THE FUTURE』の内容に合わせて歌詞が書かれたのです…
BTTFに合わせて?
それってオカシクない?
なぜですか?
だって、この歌詞の内容って、BTTFと正反対じゃん。
え?
初エッチを怖がっている女の子に対し、男がこう言ってる歌なのよ…
「大丈夫。安心して。愛の力を信じるんだ。これは君のためでもあるんだからね。僕が上からリードしてあげる…」
確かに真逆ですね…
BTTFのヒロインである1955年のロレインは、早く「初体験」を済ませたくて、かなり前のめりになっている女性として描かれていました…
「上に乗ってリードしようとした」のは、男ではなく彼女のほう…
だけど、1955年のロレイン目線の歌だとすると、マズくない?
怯えるマーティの上に乗っかったまま「愛」を遂行してしまったら…
ですよね… 禁断の近親相姦です…
映画では「異変」に気づいて、「A」で終わりましたが…
やっぱり変よね。オカシイわ、この歌詞。
歌詞は全然オカシクないよ。
え? どうして?
なぜなら、歌の中では一度も「he」とか「she」とは言及されていない。
相手のことをずっと「you」と呼んでいる。
そうなの?
それじゃあ「I」と「you」だから、男女がどちらにもとれるってことね。
上手く出来てるわ。
誰が「I」と言った?
へ?
この歌に「I」なんて言葉、出て来たかな?
一度も出て来ていないはずだけど…
そうだっけ?
もう一度聴いてみましょう。
ホントだ…
「I」が無いわ…
『パワー・オブ・ラヴ』は、「愛の力」という歌なのに…
「I」という文字は一度も出てこない…
不思議です…
というか、この歌…
よく聴くと、主語が誰なんだかよくわからないわ…
その通り。
この歌は、巧みに「主語」が隠されている。
なんで?
「男」は、ひとりじゃないからだ。
「ふたり」いる。
ふ、ふたり!?
は、初体験なのに…
さ、3Pってこと?
「bad girl's dream」というのは、そういう意味だったんですね…
なぜあんな言葉が出てくるのか疑問でしたが、これで納得です…
ちょっとヤバ過ぎるわ、この歌…
この話は聞かなかったことにしましょう…
そうね… もうBTTFの話は終わりにしたほうがいいかも…
さっきから君たちは何の話をしているんだい…
変な妄想はやめてくれないか。
だって…
もう、そうとしか思えないでしょ?
これまで僕は何の話をしてきたかな?
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でしょ?
それじゃあ『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は、何を再現していた?
自分の力で母に自分を身籠らせるマーティの努力とは、いったい何のことだった?
受胎告知…
だよね?
それなら、その映画のために書かれた主題歌も「そうなっている」と考えるのが普通じゃない?
それでは教官は…
『The Power of Love』が『受胎告知』をもとに作られた曲だと仰るので?
僕には見える…
ヒューイ・ルイスがBTTFの主題歌をオファーされた時の光景が、ありありと…
え?
打ち合わせのテーブルには、2枚の絵…
依頼主は、この2枚の絵をもとに歌詞を書いて欲しいと説明している…
Fra Angelicoの『The Annunciation』の昼夜バージョンを…
これをもとにヒューイ・ルイスは歌詞を書いたの?
確認を取ったわけじゃないけど、間違いない。
本当でしょうか…
それじゃあ歌詞を詳しく見ていこうか。
まず1番は、こんなふうに始まる…
The power of love is a curious thing
Make a one man weep, make another man sing
「愛の力」とは奇異なもの
ひとりをすすり泣かせ、もうひとりを歌わせる
あっ…
いきなりでしょ?
マジですか…
そして、こう続きます…
Change a hawk to a little white dove
More than a feeling that's the power of love
鷹は小さな白い鳩に姿を変える
感情を超えたもの、それが「愛の力」
鷹?
『受胎告知』に「白い鳩」は描かれてるけど「鷹」は居なかったわよね…
「電線」にとまってる「カササギ」を「鷹」に見間違えたのかしら?
ちゃんと「鷹」は居るよ…
え?どこに?
『受胎告知』昼バージョンの「神」は…
背景が「鷹の翼」のように見える…
うげえ…
なんてことなの…
そして、こう続く…
Tougher than diamonds, rich like cream
Stronger and harder than a bad girl's dream
ダイヤモンドよりも頑丈で、クリームのように滑らか
イケナイ娘の夢よりも強烈で、あり得ないほど
前半はわかります。
おそらく、光り輝く帯の中にいる白い鳩「聖霊」のことでしょう…
しかし問題は「bad girl's dream」…
いったい何を意味しているのでしょうか?
乙女マリアは決して「いけない娘」ではないわ…
確かに夫以外の子供を宿したけど、それは「神の子」であり、本人の意思とは無関係…
完全に不可抗力だから…
そう。「bad girl」とはマリアのことではない。
では誰なので?
マリアの親戚、叔母ともいわれる女性エリザベートだ。
は?
受胎告知の際、天使ガブリエルは「エリザベートの妊娠」も告げる…
子供が出来ないまま老齢に至っていた親類のエリザベートも、マリア同様、神の力によって妊娠していると告げるんだ…
しかもすでに妊娠6カ月だという…
その赤ちゃんは、後の洗礼者ヨハネですよね?
その通り。
「神の子イエス・キリスト」という物語の本幕が切って降ろされるには、その「前駆」となって「主の道」を整える存在ヨハネが必要だった…
偉大なるエリヤが遺した預言「荒野で叫ぶ者の声がする」を成就させ…
「わたしは、あの方よりも先につかわされた者である。あの方は栄え、わたしは衰えねばならない」と、自分が「来たるべき救世主の捨て石」となる宿命を悟っていたヨハネが…
ガリラヤ領主ヘロデに捕まって、その娘サロメに斬首されてしまうのよね…
ヨハネに一目惚れして、「キスがしたかった」という理由のためだけに…
その通り。でもヨハネのことは、ひとまず置いといて…
天使ガブリエルから話を聴いたマリアは、すぐにエリザベートのもとへ向かった。
そして、マリアがエリザベートに挨拶をすると、お腹の中のヨハネが大喜びして踊り出したという。
誰に言っても信じてもらえないような「夢」を見たマリアは、同じような「夢」を見たエリザベートのもとにしばらく逗留する…
『マリアのエリサベツ訪問』
マリオット アルベルティネッリ
で、なぜエリザベートが「bad girl」なの?
簡単だよ。
「Stronger and harder than a bad girl's dream」と歌われているだろう?
「エリザベートの夢」よりも「マリアの夢」の方が強烈で信じ難いものだった。
なにしろお腹に宿っているのは「神の子」だからね。
でも「bad girl」は酷くない?
エリザベートだって、マリア同様、何も悪いことしてないわ。
違うんだよ。
あの部分は、こうやって読むんだ。
「Stronger and harder than a bad girl's dream」
エリ…ザン…ベート…?
そう。
ヒューイ・ルイスは、あのセンテンスの中に「エリザベート」を隠していたんだよ。
ありえない…
この世に「ありえないこと」などないわい…
『鏡の国のアリス』で白の女王も言っとったじゃろう?
ありえないことなど朝メシ前じゃと…
その通り。朝Messie前だ。
す、すみませんでした教官…
疑ってしまって…
いいんだよ。
では先に進もうか。
Make a bad one good make a wrong one right
Power of love that keeps you home at night
ここは特に深読みは要らないね。そのまんまだから。
悪いものを善くし、間違いを正す
「愛の力」は、夜、君を家に留まらせる
そしてサビね…
You don't need money, don't take fame
Don't need no credit card to ride this train
It's strong and it's sudden and it's cruel sometimes
But it might just save your life
That's the power of love
えーと、こんな感じですかね…
「train」は「列車」の他に「後に続くもの」という意味があるから…
お金は要らない、見栄なんて張るな
この後に待ち受ける歓喜のために
クレジットカードなど必要ない
それは力強く、突然やって来る
時には悲惨なことにもなるが
これは君の人生を救うものになるはず
それが「愛の力」だ
うーん。いろいろ不思議ね…
はい…
まず「お金は要らない」と「クレジットカードは必要ない」が被っています…
そして『受胎告知』と何の関係もない…
はたして、そうかな?
え?
よく歌詞を読むんだ。
「money」は普通に「要らない」だけど…
「credit card」は二重否定で強調されているんだよね…
つまり「クレジットカードが必要ないこと」に重きが置かれているということですか?
そういうこと。もうわかったでしょ?
いいえ… 何のことだか、さっぱり…
お主の目は本当に洞穴じゃな…
『受胎告知』にも関係しとったじゃろ、「credit card」は…
受胎告知に?
あの時代にクレジットカードなど、あったのでしょうか?
これのことだよ。
『十戒の石板を掲げるモーセ』
レンブラント・ファン・レイン
は?
お主も「クレジットカード」くらい持っとるだろ?
最も有名で、最も頼りになる「クレジットカード」は何じゃ?
楽天カード?
お主は楽天カードマンの手下か?
最も有名で、最も頼りになるカードといえば、これに決まっとるじゃろ!
マスターカード?
主の手札…
つまり「主の言葉が書かれた、手に持てる大きさの厚手の板状のもの」じゃ!
あっ…
天使ガブリエルが現われた際、マリアは旧約聖書を読んでいた…
『受胎告知』昼夜バージョンどちらにも、右ひざ上に読み書けの旧約聖書が置かれている…
確かに…
そして、受胎した「神の子イエス」とは、旧約、つまりモーセが神と結んだ古い契約を終わらせ、人々に新しく神との契約を結ばせる存在…
それをヒューイ・ルイスは「Don't need no credit card to ride this train」と表現したんだよ…
「主と結んだ契りが書かれた石板」は、まさに「credit」の「card」だから…
なるほど…
言われてみれば、その通りです…
だから言ったじゃろう?
何がですか?
これを踏襲したのが、aiko の『POWER OF LOVE』じゃ。
は?
そうじゃろう?
深読み探偵 岡江 門よ…
ええ。そうですね。
あの歌詞は、間違いありません。
あの歌詞とは?
2番だよ。2分5秒あたりからだ。
え?
まだ気がつかんのか?
わしは初めて聴いた時にピンと来たぞ。
「これじゃ!」って、そう思ったの。
何を言っているのか全然わかりません…
この部分だよ。
初めて会った時ピンときたの
あなたに会った時 これだって そう思ったの
海をハサミで切って love letter 書こうかな
これが?
ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースの『The Power of Love』と、どう関係が?
海をハサミで切る…
そして、ラブレターを書こうかな…
aiko が言っているのは、これだ…
ええっ!?
そもそも1番でこう歌っておるじゃろ。
ペンキで真っ赤に塗ったみたいなハート
はい… しかしそれが何か?
これはヒューイ・ルイス&ザ・ニュースの『The Power of Love』のレコード・ジャケットのことじゃ…
欧米のオリジナル盤は、ペンキで真っ赤に塗ったハートが描かれとる…
・・・・・
つまり aiko の『POWER OF LOVE』は…
ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースの『The Power of Love』とタイトルが似ているだけではなく…
内容もしっかりと寄せたものになっていたというわけだ…
そうだったんですね…
だから「海をハサミで切って love letter 書こうかな」なのじゃ…
その後に「書いた」と表明されない理由は…
もう、わかるじゃろ?
あっちの『パワー・オブ・ラヴ』で…
「Don't need no credit card to ride this train」と歌われているから…
aiko はよくわかっとる。さすがじゃ。
もう何が何だか…
『パワー・オブ・ラブ』って何なのよ…
読んで字の如し。「愛の力」じゃ。
ふぉーっふぉっふぉ。
それでは、BTTFの主題歌『The Power of Love』の2番に行くとしようか。
まだまだ興味深い歌詞が続くよ…
つづく
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