深読み バック・トゥ・ザ・フューチャー vol.20(第190話)
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2019年9月19日
スナックふかよみ
そこはスルーするのがオトナじゃ。
さて、それでは次の曲に行こうか。
アルバム『LET IT BE』の4曲目は、ジョージ・ハリソンの歌『I Me Mine』だ。
今度はどんなふうにBTTFで再現されているかな…
まずは曲を聴いてみましょう。
ほとんど「アイ・ミー・マイン」しか言ってないじゃん。
「僕がさ!僕にね!僕のだよ!」ばっかり。
ですね。さすがに今度こそBTTFとは関係なさそうな…
ロバート・ゼメキスとボブ・ゲイル、そしてスティーヴン・スピルバーグを甘く見ないで欲しい。
え?
真の芸術家、真のプロフェッショナルは、手を抜かない。
やると決めたら、とことんやる。
しかし、ほとんど「アイ・ミー・マイン」しか言っていないんですよ…
彼らが再現したのは、このバージョンじゃないんだよ。
映画『LET IT BE』版のほう。
映画版のほう?
アルバムに収録されたものとは、別バージョンなのですか?
確か、まだ完成された曲になっていなかったような…
アルバム版とは大分違っていたわ…
違うって、どんなふうにですか?
曲が途切れ途切れなのよね…
曲調も、途中で何度も変わるし…
曲調が変わる?どういう感じで?
覚えてないなあ…
ジョンとヨーコのダンスの印象が強過ぎて…
ダンス?
曲に合わせて二人がワルツを踊るの。
濃厚なキスをしてから。
え? それって…
あっ… まさか…
魅惑の深海ダンス・パーティー…
その通り。
「ENCHANTMENT UNDER THE SEA」のシーンは、映画版『I ME MINE』の再現になっている。
ま、マジですか?
二つの映像を見比べて欲しい。
まずはBTTFから…
どんなことが描かれてる?
まず最初に、バンドのメンバーたちがマーティを囲んで「ちゃんと弾けるのかよ?」みたいな表情をする…
そしてマーティがギターを弾くと「なかなかやるじゃん」という表情になる…
だけどマーティの弾くコード進行がだんだん怪しくなっていく…
バンドメンバーは「え?」と不安な表情になる…
だけどジョージとロレインが濃厚なキスをして、マーティの演奏は元気を取り戻し、二人はいいムードで踊り出す…
そしてグルーヴ感たっぷりの曲が始まり、みんなが「おっ!いい感じ!」と思った矢先…
熱の入り過ぎたマーティが場違いな演奏を始めて、周囲を困惑させる…
だね。
それでは次に、映画『LET IT BE』の『I ME MINE』を見て欲しい…
げえっ!
そのまんまじゃん…
そう。そのまんまだ。
もうこれ以上の説明は要らないよね。
はい…
では次の曲に行こうか。
『DIG IT』と『LET IT BE』は先にやったので、A面の最後…
7曲目の『MAGGIE MAY』だ。
これはリバプールで昔から歌われていた民謡みたいなものでしたよね。
長い航海を終え、給金を手に故郷へ帰ろうとしている男…
それを性悪女のマギー・メイが狙う…
男が寝ている隙に金目のものを盗んだマギーは、逮捕され、裁判にかけれらて有罪となる…
そして男は、これでもうマギー・メイの姿をライム通りで見ることはないだろう、と語る…
ただそれだけの歌です。
今度こそBTTFには関係ないわ。
そもそもビートルズの作った歌じゃないから、再現する必要もないし。
ですよね。では次の曲『I've Got A Feeling』に…
来るぞ来るぞ。いつものやつが。
え?
君たち…
なぜ関係ないと決めつける?
キターーーーw
だって、マギー・メイなんて女性、BTTFに登場しませんし…
お金だって奪われません…
BTTFのヒロインである「ロレイン」は…
当初は「メグ」、つまり「マーガレット」という名前だった…
え?
しかし、スピルバーグいわく…
ユニバーサル・スタジオの社長シドニー・シェインバーグが、無理やり自分の妻の名前「Lorraine」に変更させた…
ということになっている。
ということになっている?
おそらく、この逸話は「嘘」だ。
他にも「シェインバーグが無理やり変更させた」というネタがいろいろあるんだけど、スピルバーグが話す「シェインバーグ関連話」は、ほとんどジョークだろう。
ジョーク?
シドニー・シェインバーグは、まだ無名だったスピルバーグと長期契約を結び、大監督に育て上げた人物だ。
ただの「大企業のお偉いさん」ではなく、常にスピルバーグと一緒に作品を企画し、脚本を細部まで読みこみ、さまざまなアドバイスを与えていた。
シェインバーグがいなかったら、『JAWS(ジョーズ)』も『ET』も『未知との遭遇』も『ジュラシック・パーク』も『シンドラーのリスト』も存在していなかったかもしれない。
スピルバーグにとって、人生の恩人であり、最大の理解者なんだよね。
Steven Spielberg&Sidney Sheinberg
彼は映画界のみならず、経済・教育・民族・宗教などさまざまな分野で重要な地位に就き、多くの人から尊敬された人物です…
そんな人物がスピルバーグの足を引っ張るようなことをするわけがない。
知恵袋とでも言うべき存在なので、当然、BTTFがビートルズのアルバム『LET IT BE』を元ネタにしたものであることも知っていただろう。
だから「メグはマズい」と判断したんだよ。
映画を観た人が『MAGGIE MAY』のことを思い浮かべてしまうから…
しかし、歌詞とBTTFには共通点がありません…
強いて言えば、故郷へ帰ろうとしていた主人公が、ちょっとイケない女の子に捕まるくらいで…
アルバム『LET IT BE』に収録されたバージョンは「短縮版」だ。
本来は2分弱ある歌で、バンドを結成したばかりの頃のジョンの持ち歌の1つだった…
あっ。この映画、知ってる…
『NOWHERE BOY』、邦題は『ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ』ね。
元々歌われていた『MAGGIE MAY』は、こんなストーリー…
懐かしの故郷へ帰ろうとしていた主人公の男は、とある女と出会う…
男は、その女の声に安心感を覚え、スタイルの良さに釘付けになる…
そして男は、その女マギー・メイの部屋で目を覚ます…
すると男は、自分がいつのまにか下着姿になっていて、上着やズボンが無くなっていることに気付く…
どこにあるのか問い詰めると、マギー・メイはこう答えた…
「ここには無い。Kelly's pawnshop number nine(9番地にあるケリーの質屋)だ」と…
そして男は質屋に走り、警察に連絡して、マギー・メイは逮捕される…
え? これって…
マーティが、若き日の母ロレインと初めて会った、このシーンそのものです…
「Kelly's pawnshop number nine」が「Calvin Klein」ね(笑)
確かに「メグ」にしてたら、気付く人いたかも…
このあとに「男漁り」とか「喫煙」とか、「no good」で「dirty」な一面も描かれるから…
マーティンの唇も「robbing」しました…
シドニー・シェインバーグの判断は正しかった…
だけどひょっとすると、シェインバーグは全く関与していなくて、スピルバーグたちが『MAGGIE MAY』の存在をほのめかしたくて作った話の可能性もある。
シェインバーグは名前を使われただけ。
高度な知能を持つ犯人が、わざとヒントを残すみたいなものですね…
そう。いつか誰かに気付いて欲しくて。
名探偵の好敵手は、だいたいそう。
・・・・・
・・・・・
?
ねえ、ジョー…
どうしてみんな無言で見つめ合ってるの?
な、何でもありません…
話を進めましょう…
それじゃあ8曲目の『I've Got A Feeling』に行きましょうか。
そうだね。まずは曲を聴いてもらおう。
ジョンの人…
では1番の歌詞を見ていこう。
I’ve got a feeling, a feeling deep inside
Oh yeah, Oh yeah
I’ve got a feeling, a feeling I can’t hide
Oh no. Oh no, Oh no,
Yeah! I’ve got a feeling
僕は感じた、心の奥底で
オーイエー、オーイエー
僕は感じた、隠せない気持ち
オーノー、オーノー
イエー!僕は感じたぞ
この曲も、何気に内容がないですよね…
そういうこと言っちゃダメよ。
ポール・マッカートニーに失礼でしょ…
だけど、いきなりこんなこと言われて、意味わかります?
うーん…
何かに興奮してるのはわかるんだけど…
何て言ったらいいのかしら…
おちつけ。
そうそう。「落ち着け」って言ってやりたい感じ。
その通り。
この部分はBTTFでも同じように再現された。
何かを感じ取った男が、その興奮を伝えようと必死になっている場面で。
え?
「I’ve got a feeling」は慣用句みたいなもので「予感を得た」という意味。
だから歌詞は、こう訳すべきなんだ…
僕は予感を得た、超ヤバい予感
そうなんだ、そうなんだよ
僕は予感を得た、隠すことなんか出来ない
ああ、なんてこった、ああ…
そう!僕は予感を得たんだ
これは…
宇宙からの侵略者ダース・ベイダーに遭遇し…
「命が惜しければロレインを口説け」と言われ…
それをマーティのところへ報告しに行った時のジョージだね。
なんてことなの…
もう2番もわかるよね。
Oh please believe me, I’d hate to miss the train
Oh yeah, Oh yeah
「トレイン」と「ロレイン」の駄洒落…
その通り。
ああ、お願いだから信じてくれ
僕はロレインを逃すわけにはいかない
そうなんだ、そうなんだよ
つまり…
「ヒロインの名前メグを無理やりロレインに変えられた」という話は、作り話だったということ?
だね。「ロレイン」でなければ、この部分が再現できない。
そして、この日ジョージは寝坊して学校を休んだ…
昨夜マーティが、クロロホルムでぐっすり眠らせたから…
その通り。
ジョークまじりで見事に再現してるね。
And if you leave me I won’t be late again
Oh no, Oh no, Oh no
Yeah, I’ve got a feeling yeah
君がいなくなってしまえば
僕はもう遅刻せずにすむ
違う、違う、今の無し
そう!僕は予感を得たんだ!
次のパートも、そのまんま…
All these years I’ve been wandering around,
Wondering how come nobody told me
All that I was looking for was somebody
Who looked like you.
ここ何年か、僕は辺りをうろつきまわっていた
どうして誰も僕に教えてくれなかったのだろう
そもそも僕が探し求めていたのは
君みたいな人だったんだ
ロレインの家の周りをうろついて、こっそり着替えを覗いていたジョージ…
だけど彼にとって本当に必要だったのは…
自信を与え、未来を変えてくれる存在マーティ…
すごいわよね。あの歌詞からここまでストーリーが紡ぎ出せるなんて…
ポール、ごめんなさい…
歌詞に内容が無いなんて言って…
まだまだ。ここからがすごいんだよ。
驚きの展開になるんだから…
つづく
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