「サウンド・オブ・サイレンス 前篇」『深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)& 読みたいことを、書けばいい。』
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2019年9月19日 夜
スナックふかよみ
なによ?
揃いも揃って、お化けでも見たような顔して…
だって…
良介山ママが… 二人…
は?
ほら、ここにも…
・・・・・
コラ!ケツヤ!
なんばしようとかいな!
けつや?
快傑ズバットの傑に木村拓哉の哉で傑哉…
傑哉はアタシの双子の弟よ…
ふ、双子?良介山ママって双子だったの?
あたしたち、この人をずっと良介山ママだと思ってた…
なんでよ!?一緒にしないでくれる!?
髪型が全然違うじゃないの!
え!?
それって… カツラじゃなかったんですか…?
失礼ね!アタシの自慢の黒髪をカツラ呼ばわりして…
これは地毛!地毛地毛地毛っ!
双子のアタシたちは、そっくりな姿かたちで生まれてきたんだけど…
唯一違っていた点があったの…
それが、髪…
髪…
髪が一本も無かったアタシの頭は、まるで吉兆を告げる星のように光り輝いていた…
だから「良きことを介する」で良介と名付けられたの…
・・・・・
だけど、もうひとりの方は…
漆黒の闇のように艶(つや)やかな髪の毛が、ふさふさと生えそろっていた…
だから「ケツヤ」と名付けられたのよ…
毛がつややかだから、ケツヤ?
そう…
だけどさすがに漢字で「毛艶」は可哀想だからと「マスターピースばい」の直訳「傑哉」になったの…
だからアタシは、生まれながらの傑作…
なにが傑作よ!このバカチンが!
ずっと迷惑ばかりかけてきたくせに!
・・・・・
アンタのお陰で、お袋がどれだけ苦労したと思ってるの!?
血と汗と泪を流しながら女手ひとつでタバコ屋を切り盛りしてアタシたちを育ててくれたお袋の想いなんて、これっぽっちもわかってないくせに!
たばこ屋?
うっ…
お母さん…
いたいた。ああいう煙草屋のおばちゃん。
いっつも和服着てて、可愛らしくチョコンと座ってるのよね。
ねえ…
ギターとハーモニカ、貸してくれない?
え? ハーモニカも?
あ、そっか。拓郎に憧れてフォークシンガーを目指してたのよね、若い頃。
はい、どうぞ…
ありがと。
それじゃあ歌わしてもらうわ…
天国のお母さんに捧げるバラードを…
泣けますねぇ。
天国のお母さんに…
アタシの歌、届いたかしら…
グスン… 大丈夫。きっと聴いてくれたわよ…
・・・・・
そうよね…
アタシの想い、絶対に伝わったわよね…
・・・・・
どうしました?
さっきから沈黙したままで…
しゃ、しゃ、しゃ…
え?
シャラーーーップ!
なに?
いい加減にしなさいよ、ケツヤ!
さっきから聞いてれば、まるで「すべての罪は許された」みたいな言い草じゃないの!
・・・・・
アンタは病に倒れたお袋を見捨てて、家出同然で関門海峡を渡っていった…
お袋は、アタシが看病してる間もずっと、アンタの心配ばかりしてたわ…
なのにアンタは東京でフォークソングにうつつを抜かし、電話一本もよこさなかった…
・・・・・
お袋の最期の言葉が何だったか、アンタ知ってる?
な、なに?
「ケツヤは東京で無事にやっとるやろか…」
そう言いながらお袋は息をひきとったのよ!
自分の体の痛みや苦しさなんて一度も口にせず、最後の最後までアンタのことだけを心配しつづけてたの!
・・・・・
なにが「天国のお母さんに捧げるバラード」よ!
アンタにそんな歌を歌う資格はないわ!
ようやく天国で安らかに眠ることが出来たお袋を邪魔しないでくれる!?
うっうっうっ…
ごめん… お母さん…
今頃になって後悔したって遅いわよ…
だ、だけどアタシ…
遠く離れても、心の中ではずっと祈ってたの、お母さんのことを…
ふん。どうだかね…
ホントだってば、良ちゃん!
アタシがアンタにお似合いの歌を歌ってあげる…
耳の穴かっぽじって、よく聴きなさい…
・・・・・
・・・・・
良介山ママのアップ…
怖いです…
なんか言った?!
ヒッ!何でもありません…
うっうっうっ…
アンタは、いつまでメソメソしてんのよ!
情けないったら、ありゃしない!
ほらほら。兄弟なんだから仲良くしましょ。
まだ居たのアンタ?
えーと。名前なんだったけ?
文代。柴門文代…
そうそう。柴門だったわね。
だけどよく考えたらポール・サイモンと同じ苗字じゃないの。
もしかして親戚とか?
ふふふ。そうかもね。
さてと、そろそろ『ライフ・オブ・パイ』に戻っていいかしら?
奇遇にも『サウンド・オブ・サイレンス』が聴けたことだし…
ねえ? 深読み名探偵さん(笑)
あ、はい…
なにが奇遇なのよ?
実を言うと…
なぜパイと作家の散歩シーンは『サウンド・オブ・サイレンス』が入ってるアルバム『SOUNDS OF SILENCE』のジャケ写から始まったのか?
ということを、これから話そうとしてたんです。
は?
あれから結構進んだのよ。
てゆうか、まだやってたの?
アンタたちも好きねぇ…
せっかくだから聴いていってくださいな。
ここ、とってもおもしろいから(笑)
いいわよ。今夜はウチも暇だし…
ねえ、深代ちゃん。クールダウンしたいからビールくれる?
はい、どうぞ…
じゃあ説明するとしよう。
なぜ散歩シーンの冒頭で二人は『サウンド・オブ・サイレンス』のポーズをキメたのか…
なぜですか?
簡単だよ…
散歩シーンとその前後を合わせた回想シーンで『サウンド・オブ・サイレンス』の歌詞が完璧に再現されるからだ。
その合図だったんだよね。
回想の中で歌詞が再現される?
そう。しかも完璧に。
嘘でしょ?
うふふ。本当よ。
アカデミー監督賞2度受賞の職人アン・リー監督の真骨頂(笑)
じゃあ1番から見ていこうか…
Hello darkness, my old friend
I've come to talk with you again
Because a vision softly creeping
Left its seeds while I was sleeping
And the vision that was planted in my brain
Still remains within the sound of silence
まずは最初の部分。
Hello darkness, my old friend
I've come to talk with you again
歌の主人公は「年をとった友」である「ダークネス」に「ハロー」と言う。
なぜなら「もう一度、話をしたい」と思ったから…
年とったダークネスにハローと言いたかった?
もう一度?
それって、餌やり場に忍び込んだパイじゃん!
I just wanted to say hello to Him.
パイ「彼にハローって言いたかっただけ」
その通り。
パイは飼育係員が生肉を与えるのを何度も見ていたから、今度は自分でやってみたかった。
しかも自分の体を生贄にして…
「年とった友」とは「大人の虎リチャード・パーカー」のことだね。
そして「リチャード・パーカー」とは「パイの父親」の本名であり、世界を作った「創造神・旧約の神」を意味していた。
そして「ダークネス」も…
そう。
パイ父は、光り輝く神の像を見て、幼いパイにこう言った。
パイ父「騙されるな。神の本質はダークネスだ」
新約の神イエス・キリストは「光」で表されるけど、旧約の神ヤハウェは渦巻く「黒雲」で表される…
なぜなら、原初の世界は「闇」だったから。
世界に神しか居なかった頃は、すべてが「闇」だったの。
だけど神は、なぜかわからないけど突然「光あれ」と言った。
すると世界が光と闇に分かれて、昼と夜が出来たのよね…
ヤバい。完璧に再現はマジっぽい…
ドキドキしてきた。
次の歌詞を見てみよう。
Because a vision softly creeping
Left its seeds while I was sleeping
歌の主人公は「ダークネス」に会いに来た理由を語る。
それは「静かに忍び寄るビジョン」が「寝ている間にも頭の中で増殖していった」からだという…
静かに忍び寄るビジョンとは…
茶山の神父から聞いた「父によって生贄にされた息子イエス」のことですね。
そして、その日から…
寝ても覚めても「神の息子」のことが頭から離れなくなった…
寝る前には手を合わせて「キリストに出会えたこと」を感謝してたくらいだから。
そりゃ夢の中で増殖するわよね(笑)
そして次の歌詞。
And the vision that was planted in my brain
ここでは「ビジョン」が脳内にしっかりと根付いたことが歌われる。
つまり「父によって生贄にされた息子」のビジョンが、パイの頭の中で確固たるものになったということだ。
そして、仮想としての「ビジョン」では満足できなくなり、知覚を伴う「現実」として確かめてみたいと思うところまで行ってしまった…
自分の体を犠牲にしての「試し」ですね…
最後のフレーズは何?
Still remains within the sound of silence
静寂の音の中に残存している
『ライフ・オブ・パイ』では、どう再現されたの?
「the sound of silence」とは「darkness」つまり「旧約の神」のことなんだけど…
イエスは十字架に掛けられた時「神」に呼びかけたわよね。
エリ・エリ・レマ・サバクタニ
わが神、わが神、どうして私を見捨てられたのですか
それに対して「神」は沈黙を貫いた。
黙ったまま何も答えてくれなかったの…
そして「虎のリチャード・パーカー」も同様だった…
まあ当然だよね。
パイは「父によって生贄にされる息子イエス」を再現するために、リチャード・パーカーに体を差し出したんだから。
確かにサウンド・オブ・サイレンスだわ…
そして同時に…
「silence(サイレンス)」と「science(サイエンス)」のダジャレにもなっている。
ここでまたダジャレ!?
(The vision) still remains within the sound of science
神のビジョンはサイエンスのサウンドの中に残存している
「sound of silence」という言葉も深いものがあるけど、「 sound of science」も負けないくらい深い。
「sound」には「音」だけでなく「響き・波」という意味もあるからね。
知ってるかと思うけど、世界を構成する物質の最小単位を「粒子」ではなくて「振動するヒモ」としてイメージする「超弦理論」というものがある。
僕らが見ている物質世界はすべて「振動するヒモから生まれる波」で出来ているというものだね。
本で読んだことあるわ。確か、えーと…
『セクシーな宇宙』だっけ?
『エレガントな宇宙』。
「超ひも理論」は実に興味深い…
ここまで来ると、素人目にはもう「世界は神のエネルギーで満ち溢れている」と区別がつかない世界です…
だからパイ父は「サイエンス」を「宗教の1つ」として語っていたの。
散歩に出かける直前の回想シーン「パテル家の食卓」で、パイ父はこう言ってたでしょ?
In a few hundred years... Science has taken us Father in understanding the universe...
「ここ数百年の間に、宇宙の理解に関して、科学は人類に神の存在を気付かせてくれた」
かつては相反するものだったのに、一周まわって「神」に近付いてきた「サイエンス」をべた褒めしてたってわけ。
サウンド・オブ・サイエンスか…
なるほど。確かに深いダジャレだわ。
だからパイ父は「サイエンス」を力説してたのね…
そして『サウンド・オブ・サイレンス』の2番…
ここからトンデモナイ展開を見せてゆく…
つづく
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