第164話 ポール・サイモンの HEARTS AND BONES ㉝「Rene and Georgette Magritte with their dog after the war」Ⅹ~『深読み ライフ・オブ・パイ&読みたいことを、書けばいい。』
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2019年9月19日
スナックふかよみ
ルネ・マグリットも言っておったろう…
「目に見えるものは、いつも他の何かを隠している」
・・・・・
歌詞も同じことじゃて…
上っ面に騙されてはならぬ…
心の目で見、心の耳で聴くんじゃ…
心の目… 心の耳…
(この老人…できる… いったい何者?)
それではいよいよこの歌のクライマックス3番に行くとしよう。
その前にCメロをサクッと解説してから…
Cメロは、こんなふうに始まります。
Side by side they fell asleep
Decades gliding by like Indians
Time is cheap
並行して彼らは眠りに落ちる
インディアンのように流れる長い年月
時は儚い
あたし…
今まで、この「インディアン」を「アメリカ先住民」だと思ってた…
だけど、そうじゃない…
その通り。
ポール・サイモンがここで言う「インディアン」とは、言葉の本来の意味である「インド人」のことだ。
そして「並行して眠りに落ちる彼ら」とは、インドの古都ゴルコンダの名前が付けられた絵の中に描かれる「並行して落ちる黒いスーツの男たち」のこと…
つまり、ルネ・マグリットが「インドの古都ゴルコンダ」に偽装して「古都エルサレムのゴルゴダの丘」を描いた絵『Golconda(ゴルコンダ)』のことを言っている…
『Golconde』
Rene Magritte
そういえば…
「エルサレムをインドに偽装」って…
そう。これが『ライフ・オブ・パイ』の元ネタだ、
そこに関しては、後程たっぷりと解説する。
これがホントの「インド人もビックリ!」じゃな。
ふぉーっふぉっふぉ。
ではCメロの後半を見てみよう。
When they wake up they will find
All their personal belongings
Have intertwined
Oh
目を覚ました時に彼らは気付くだろう
彼らのすべてがひとつになっていることを
ああ…
「並行に落ちる黒服の男たち」が目を覚ます時…
すべてがひとつになっている…
つまり…
ルネ・マグリットが描いた自画像…
「再生・復活」を意味するフランス語の名前「Rene」のルーツである「人の子」イエス・キリストのことですね…
『The Son of Man』
Rene Magritte
そういうことだ。
それでは問題の3番に行こうか。
ドキドキするわね。
ゴクリ…
なんだか、すごく緊張します…
そんなに固くなっとったら、いい深読みが出来ぬぞ。
リラックスせい、リラックス。
でも、急にそんなこと言われても…
月夜さんの言う通りだよ。
深読みというのは、あまり真剣になり過ぎてもいけない。
教官…
マグリットも言っていたように「見えなくなってしまっているもの」を「見る」わけだからね…
それには柔軟で自由な思考が重要なんだ。
そして柔軟で自由な思考をするためには、柔軟で自由な身体が必要…
わかるかい?
はい…
よし。それではストレッチ・タイムじゃ。
3番に行く前に、ノリノリの音楽で頭と体をほぐすとしよう。
よーし。歌って踊るわよ~!
そこで見てるあなた!あなたも一緒にやるのよ!
誰に言ってるんですか?
で、曲は何?
もちろんコレじゃ。
ミュージック、スターティン!
ふぅ…
いい感じで体がほぐれたわ。
はい。なんだか頭もスッキリしました。
いい選曲ね…
ちゃんと、わかってる…
じゃろ?
ふぉーっふぉっふぉ。
・・・・・
さ、始めましょ。
聞いてる? 岡江クン?
あ、うん…
それでは3番の深読みを…
歌詞はこんなふうに始まる…
Rene and Georgette Magritte
With their dog after the war
Were dining with the power elite
And they looked in their bedroom drawer
ルネ&ジョルジェット・マグリット
犬と共に、戦争の後に
ディナーをしていた、パワーエリートと
そして彼らは寝室のドローワーを覗き込んだ
という感じですかね。
「パワーエリート」って?
世界を支配している存在のことだよ。
20世紀中頃に社会学者ライト・ミルズが提唱した理論で、世界は一握りのパワーエリートが書いたシナリオ通りに動いているとするものだ。
なんだかイルミナティとか陰謀論みたいね。邪魔者はCIAに消されるとか。
パワー・トゥ・ザ・ピーポーじゃな。
は?
何でもない。こっちのハナシじゃ。
わけわかめ。
ふぉーっふぉっふぉ。
・・・・・
この歌における「マグリット夫妻」とは「イエス・キリスト」のこと…
そして「dog」とは「God(神)」で、「war」とは「raw(生身・肉)」…
つまり、パワーエリートとのディナーとは…
最後の晩餐?
『最後の晩餐』
レオナルド・ダ・ヴィンチ
あっ!そうかも!
さっそくストレッチ・タイムの効果が出たじゃん!
えへへ。
でも「十二使徒」は世界を動かしていないよね?
彼らはこの世の支配者ではない。
あっ…
それに、ポール・サイモンは「寝室のドローワーを覗き込んだ」と歌っている。
「最後の晩餐」の場面では「寝室」なんて出てこない…
ベッドのそばにある「机の引き出し」もね…
うーむ…
では、どこで晩餐を?
そもそも「パワーエリート」とは何者なのでしょうか?
もしかしたら、この先の歌詞にヒントがあるんじゃない?
And what do you think
They have hidden away
In the cabinet cold of their hearts?
どう? 何かわかった?
君はどう考える?
彼らは何を隠していたのだろう?
そのキャビネットの中に
cold 彼らの心の
うーむ…
なぜ今度は「ドローワー」ではなく「キャビネット」なんだろう?
ポール・サイモンが言い間違えたんじゃない?
そして…
隠されていたものは「4つのコーラスグループ」…
つまり「モーセ五書」だった…
『ヨハネによる福音書』でイエスはこう言っていた。
「モーセが書いたのは、わたしのこと」
つまり「モーセ五書」とは「イエス・キリストの物語」の予型…
じゃあ寝室のキャビネットの中に入っていたのは…
イエス・キリストってこと?
そうなりますね。
だから〆の言葉が、こうなっているのでしょう…
For now and ever after
As it was before
Rene and Georgette Magritte with their dog
After the war
今も、そしてこれからも
昔の話が同じように繰り返される
ルネ&ジョルジェット・マグリット
犬と共に、戦争の後に
なるほどね。
でも「パワーエリート」が何者なのか、全然わからなかったじゃん。
あとディナーをしていた場所も。
うーむ。
もしかしたら、何か見落としているのでは…
そう。大事なことを忘れているよね…
大事なこと?
この歌の答えは、すべて…
マグリットの絵の中にある…
え?
駄洒落を言うのは誰じゃ?
ダジャレじゃありません!驚いただけです!
そうやっていちいちムキになるなと言ったじゃろう。
それだからお主は、いつもポール・サイモンの駄洒落に気がつかんのじゃぞ(笑)
ポール・サイモンの駄洒落?
3番の舞台は「ダイニング」ではない。
あれはポール・サイモンの駄洒落だ…
し、しかし、ミュージックビデオでも、ダイニングでディナーをする風景が描かれていました!
目に見えるものは、いつも他の何かを隠している…
マグリットの言葉を忘れたか?
あっ…
これまで見てきたポール・サイモンの歌も、ことごとく「他の何か」が隠されていたよね…
歌詞通りの意味の歌なんて、なかっただろう?
はい…
この歌も同様。
1番も2番も、歌詞の表面上のストーリーとは全く違う世界が、そこには隠されていた…
では3番に隠されている「他の何か」とは…
いったいどこに答えが?
ここだよ。
ルネ・マグリットの全作品の中でも、一二を争う不可思議な絵…
『L'Assassin menacé(アサシン・メナス)』だ…
『L'Assassin menacé』
Rene Magritte
日本では『危機一髪の暗殺者』とか『脅された暗殺者』と呼ばれる絵ですね…
これが3番のモデルになった絵?
そう。ポール・サイモンは、この絵から3番の着想を得た。
確かに「寝室」だけど、「ダイニング」はどこ?
あそこだよ。
寝室の窓の外にいる、新しい地図みたいな三人組。
彼らが「ダイニング」なんだ…
は?
「were dining」は「were dying」の駄洒落。
「ディナーをしていた」じゃなくて「死にかけていた」ってこと?
あの三人が?
そう。彼らは死にかけていた。
ちょ、ちょっと待ってください…
死にかけているのは、ベッドに横たわっている全裸の女性じゃないですか!
というか、すでに死んでると思いますが!
いや。彼女は死んでいない。
ちょっと気を失ってるだけだ。
ええっ!?
しかし絵のタイトルは「暗殺者」で…
お主の頭は洞穴か?
目に見えるものは、いつも他の何かを隠している…
何度同じことを言わせるのじゃ。
・・・・・
これはいったいどういうことなの?
たぶん二人とも、勘違いしているような気がするな…
この絵のことを…
勘違いって?
じゃあ聞くけど…
この絵には「何」が描かれている?
何がって…
女をタオルで絞殺した暗殺者が…
蓄音機の置かれた机の前で、何かを考えていて…
画面手前の棍棒と網を持った二人の男が…
暗殺者が部屋から出てくるところを待ち構えていて…
そして、よくわからない三人組が窓の外から中を覗いている…
でしょ?
なぜ蓄音機の前にいる男が「暗殺者」なの?
え? だって…
どう見ても、そうでしょ?
僕には、なぜそうなるのか、わからないな…
彼はどう見ても暗殺者じゃないのに。
じゃあ、あの男は何者? あそこで何をしてるの?
彼は上司に言われたから、あそこにいるだけ。
じょ、上司に言われたから?
だから倒れている女性にも無関心なんだよ。
彼の任務には何の関係もないからね。
もし彼が犯人だったら、あんなふうに犯行現場でのんびりしてないでしょ?
確かにそうだけど…
そういう犯人だっているじゃん、たまに…
というか、もう一度言っておくけど…
あの「倒れている女」は殺されたわけではない…
そもそも「蓄音機の前の男」は、あの女に指一本触れていないんだ…
同じ空間にいるけど、全くの無関係。
じゃあ犯人は? 誰が暗殺者なの?
だから、この絵の中に「犯人」なんて存在しないんだよ。
一度その思い込みを捨てたほうがいい。
ではタイトルにもある「L'Assassin(アサシン)」とは?
なぜマグリットは「L'Assassin menacé(アサシン・メナス)」というタイトルをつけたのでしょうか?
暗殺者がいないのに「脅かされる暗殺者」だなんて…
まあ、居なくは無いんだけどね。
この絵の中に「L'Assassin menacé」は、ちゃんと存在している…
え?
「いない」とか「いる」とか、どっちなんですか?
「暗殺者」はいない…
だけど「L'Assassin menacé」は、いる…
同じじゃないですか!
ぜんぜん違うよ。言葉はもっと大切にしたほうがいい。
で、どこにいるの? その「L'Assassin menacé」は?
あの窓の外から覗いていた三人組のセンター…
草彅クン似の彼こそが「L'Assassin menacé」だ…
ええっ!?
ていうか…
みんな草彅クンに見えるんだけど…
つづく
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