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深読み 米津玄師の『さよーならまたいつか!(『虎に翼』主題歌)』第14話


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2024年3月中旬
東京都渋谷区神南
NHK放送センター



NHK総合リスク管理室
情報解析センター



田木君、早速だが本題に入ろうじゃないか。

先程の財前総局長とのテレビ電話は聴かせてもらったよ。

ずいぶんと厄介な問題が起きているようだね。


は、はい… NHKの危機と言っても過言ではありません…

この国の公共放送が、存亡の瀬戸際に…


それは穏やかではないな…

ではそのミュージックビデオとやらを見せてもらおうか…

えーと… お米検視の…


オコメ検視ではなく、米津玄師の『さよーならまたいつか!』です…





NHK放送総局・幹部室



財前総局長っ!

たった今セキュリティ室から連絡がありました!

あの男が入館したとのことです!


そうか三木君… それはよかった…

私のこの首も、ひとまずは安心だな…


以前から気になっていましたが…

総局長の首すらも左右する「あの男」…

いったい何者なんです?


何者? 神南恭一郎が?


神南恭一郎という名前だって、偽名でしょう?


おそらく、そうだろうな…

神南とは、ここNHKのある町の名前だ…


「神南恭一郎」で検索しても、何一つ情報が出て来ないんです…

今時そんな人いますかね?

ネット上に何の情報も無い人なんて…


・・・・・


いくら「あの男」がアメリカやイギリスで暮らしていたとはいえ、普通なら何らかの「足跡」は残っているはず…

そもそもあっちは日本以上にあらゆる情報がデータ化されていますからね…

それなのに「KYOICHIRO JINNAN」で検索しても、何一つ出て来ない…

まるで、この世に存在しない人間みたいな…


「みたい」ではなく、そうなのかもしれない…


え?


とある理事会のメンバーから聞いたのだが…

彼は一度「死んでいる」らしい…


い、一度死んでいる?


現在「神南恭一郎」と呼ばれている「あの男」は…

数年前にインドのベンガル奥地で起きた飛行機墜落事故で死んだらしい…

あの長髪とサングラスは、その際に負った傷跡を隠すためだと聞いた…


飛行機事故で死んだ?

でも今ああして生きているじゃないですか?

一度は死んで埋葬されたけれど、そこからイエス・キリストのように生き返ったとでもいうんですか?


当時、遺体は発見されなかったのだよ…

深いジャングルの中で、機体も広範囲でバラバラになっていたそうだ…

なのでインド当局は捜索を打ち切り、遺体はベンガルタイガーに食べられた、と処理した…


つ、つまり…

「神南恭一郎」と呼ばれる「あの男」は…

飛行機事故から生き延びていたのに、法的には死んだことにされてしまった…


そういうことだ、三木君…


しかし、法的に存在しないことになった人間が、その後どうやって…

どうやってインドから出国して、海を渡ってアメリカやイギリスで生活し…

今こうして日本の公共放送で…


そういう人間の方が好都合な「組織」があるのだよ…

何をやっても決して足のつかない、幽霊人間のような存在を欲する「組織」が…


そんな組織は二種類しかありません…

マフィアなどの犯罪組織… そして諜報機関…


飛行機墜落事故を生き延びた彼は、重傷を負い、記憶を失い、ベンガルの深い山の中をさまよっていたという…

そして彼は、ある秘密組織に拾われた…


秘密組織?


マフィアやテロリストなど裏社会の人材を育成する秘密組織 TIGER'S CAVE…

通称「虎の穴」だ…


と、虎の穴?


知っているかね、三木君?


う、噂には聞いたことがあります…

しかし実際には存在しない、空想上の組織だと思っていました…


実在するのだよ… 「虎の穴」は…




NHK理事会室



会長…


何だね矢口君?


財前総局長から一報です…

「あの男」が先程、入館したとのこと…


あの男? 神南恭一郎か?


はい、左様で…


そうか…

こういう時のために高い金を払ってアメリカから雇い入れたのだ…

しっかり元を取ってもらわねば…


しかし、あの神南恭一郎という男は信頼できる男なのですか?

噂によると、素性の知れぬ怪しい人物だと…


信頼だの素性だの、そんなことはどうでもいい。

この問題を解決してさえくれたら、それでいいのだ。


しかし会長…


そもそもあの情報解析センターは表舞台には決して出ることのない秘密組織で、一般国民などその存在すら知らん。

あの男をアメリカから招聘するために支払った高額な契約金は、前払いの退職金や口止め料みたいなものだ。

我々にとっては情報解析チームの強化さえ出来ればいいのであって、「あの男」がどんな人物だろうと知ったこっちゃない。


噂に聞いたのですが…

あの男は「虎の穴」出身だとか…


それがどうした?

虎穴に入らずんば虎子を得ず、と言うだろう?


しかし「虎の穴」は、反社会的勢力の人材育成組織…

そんなところと関わり合いを持つ人物をNHKが雇っていると世間に知れたら…


あの男は確かに「虎の穴」で訓練された人物だ…

しかし同時に彼は「虎の穴」を裏切り、崩壊させた人物でもある…

見ようによっては、正義のヒーローとも言えないかね?


あの男が、正義のヒーロー?


仮面ライダーだって、デビルマンだって、そうだったろう?

「あの男」が誰で、どこから来たのかなど、私にはどうでもいい。

重要なのは出自ではなく、我々の役に立つかだ。



そうですけど… しかし…

その後の経歴にも、いろいろ問題が…


その後の経歴?

「闇の虎」のことか?




NHK総合リスク管理室
情報解析センター



どうでしたか?

NHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』主題歌、米津玄師の『さよーならまたいつか!』は…


とても興味深く拝見させてもらった。

確かに会長をはじめお偉方がパニックに陥るのも無理はない。


もう、局を挙げて上を下への大騒ぎです…

幸いなことに、スタジオパークへ見学に来ている多くの一般市民にはまだ気付かれていませんが…


こちらの動揺が見学者に伝わってしまい、万が一彼らがパニックを起こして暴徒化したら一大事だ。

スタジオパークがミュージックビデオの中のアメリカン・ダイナーのようになってしまうかもしれない。



も、もし、そんなことになったら…

総局長の首どころか、会長の首まで…


くれぐれもこの事態が漏れぬよう細心の注意を払いたまえ。


は、はい…


で、私がここへ来るまでに、君たちはどこまで解析できたのかね?

言語解析班は? お呉くん?


呉羽です、教官…

お呉くんはよしてください、Mr. オクレじゃないんですから…


これは失敬。

で、呉羽くん。どこまで解析できたかな?


それが… サッパリ…

こんなワケのわからない歌詞は初めてです…


「百年先」に会いたいと願う「あなた」のことも?


はい…

おそらくヒロイン猪爪寅子のモデル三淵嘉子のことだと思うんですが…

今年2024年と彼女の生年も没年も、百年先とは一致しなくて…



何か少しでもいい。気付いたことはないのかね?


ところどころ韻を踏んでいるのは気付いたんですが…

「虎に翼」と「空に唾」…

「翼」の「つば」は「唾」の他にも「燕(ツバメ)」で…


呉羽君、確か君の得意分野は「韻」だったね?


はい、そうですけど…


「翼」の韻で「唾・燕」と来たら「花」でも韻を踏むと思わないか?


花でも?


「つば」という音が入る有名な花があるだろう?

しかも、この歌にピッタリの花が。


この歌にピッタリの花?


この歌の出だしは「どこから春が巡り来るのか」で始まる。

この歌の季節は「春」だ。


春?

あっ… つばき…



その通り。

なぜ米津玄師は「木に春」と書く「椿(ツバキ)」にせず、ただ「花」としたのだろう?

「春」から始まるドラマの主題歌で、歌詞の冒頭にも「春」が歌われるというのに。


確かにそうだな…

もし俺が米津玄師なら「椿」にする…

つばさ、つばめ、つばき…


しかし米津玄師は「椿」を入れなかった。

どうしてだと思う?


たぶん… もしかして…

ツバキだと唾(つば)の古い言い方「つばき」とダブるから?



その線も微かながら考えられるが、おそらく違うだろう。


ではなぜ?


そもそも『さよーならまたいつか!』で歌われる「花」が「椿」ではないからだよ。

韻を優先して「ツバキ」と歌ったら、この歌のストーリーが破綻してしまうのだ。


つまり米津玄師は…

歌を作る際に「ある特定の花」をイメージしていたにもかかわらず…

その花の名前をあえて伏せ、ただ「花」としたと?


そういうことだ。


しかしなぜ花の名前を伏せなきゃいけないんですか?

別に隠す必要ないでしょう?


ここに知恵が必要である…


え?


思慮ある者は「花」にどのような意味があるかを考えるがよい…


それってどこかで聞いたことが…


「花」とは「人間」を指すものである…


花は人間? つまり…

花沢花子さん?



そんなふざけた花があるか。

せめて沢口靖子のビオランテだろう。


沢口靖子のビオランテ?

死んだヒロインが姿を変えて蘇った花ですか?



ゴジラは、けしからん… 実にけしからん…


何がケシカランのですか?


あんな風に女性をジロジロ見るのはよくないな…

女性自身の穴、ヒダの奥深くを、あんな風にジロジロと…



どういうことですか?


大森一樹は「秘すれば花」という言葉を知らなかったらしい…

まったくけしからん…


ビオランテとか大森一樹はどうでもいいでしょう!

はっきり言ってください!

米津玄師は何の花をイメージして歌を作ったんですか?


♬だ~いいいた~ のぞみの~ は~かなさを~♬


何ですか急に?


く、呉羽くん… 白百合だよ…


白百合?


教官が伝えようとしているのは奥飛騨慕情…

つまり、谷間の白百合だ…




NHKスタジオパーク



な~んだ… ニュース体験コーナーは要予約だったんだ…

せっかく憧れの女子アナになれると思って楽しみにしてたのに…

やっぱり事前にいろいろ調べておかないとダメね…


ぜったい本物だって!


本物のわけないでしょ。ただのそっくりさん。

ああいう髪型してるとだいたい米津っぽく見えるんだから!


ヨネヅ?


いや、あれは本物だね!

だって関係者専用の出入口から入ってったもん!

一般人は通れないところから!


そんなに本物って言い切るなら、なんで写メ撮っておかなかったのよ?


一瞬しか見えなかったんだから仕方ないだろ?

でもあれは絶対に米津玄師だったよ!

俺、生米津見ちゃった!


(え? 米津君、今日NHKに来てるの?)


もう!恥ずかしいからそんなに大きな声出さないでよ!


生米津っ!生米津っ!


だからやめてって言ってるでしょ!


本当に本人なのかしら…

ちょっと試しにLINE送ってみようかな…



NHK放送センター内
小会議室



♬ライン♬


(ドキッ!)


(う、上は何と言ってきた?)


(あれ? 何も来ていない…)


すいません… 今の着信音は俺のです…


あっ… そうでしたか…

それはよかった…


マナーモードにしていたはずなのに、おかしいなあ…

いったい誰だろう…

ん?


どうしました?

お仕事の関係なら、どうぞ我々にお構いなく返信なさっても…


仕事関係じゃないんです…

いや、ある意味仕事関係なのかな…

『Lemon』や今回の曲は、ママのお店がなかったら…


ママ?


いえ、何でもないです…

ちょっと意外な人からメッセージが来たんで…


意外な人とは?


意外な人というのは、何というか、俺の恩人みたいな人なんですけど…

その人が今たまたまNHKに来ていて、スタジオパークというところにいるらしくて…


米津さんの恩人みたいな方が、たまたまスタジオパークに来ている?

それは奇遇ですね…


だけど、なんで俺がここにいることを知ってるんだろう?

今日の打ち合わせは事務所の人間しか知らないのに…


米津さんが来館されるところを見かけたのではないでしょうか?

関係者出入口の付近で…


この打ち合わせって、あとどれくらいかかりますか?


そこは我々には何とも… 何事も上次第ですので…


上?


あっ、いや… 何でもありません…


まだしばらくかかるなら、ちょっと休憩時間を頂けますか?

トイレにも行きたいし、喫煙室で一服も…


あっ、これはどうもすみません…

長々と拘束しておきながら気が利かなくて…


トイレはこの部屋を出て右、エレベーターホールの方に…

喫煙室はエレベーターホールを過ぎて、さらに廊下を真っ直ぐ進んで突き当りにございます…

尾頭くん、米津さんを案内してあげてくれたまえ。


はい。かしこまりました。


あっ、いいんです。俺一人で行けますから。

トイレは部屋を出て右、エレベーターホールの方…

喫煙室はさらに廊下を突き当りまで行く、でしたよね?


はい… 喫煙室はお持ちのゲストパスをセンサーにタッチすれば入れますので…


それじゃあちょっと休憩させて頂きます。

20分… いや15分ほどで戻ってきますから…


どうぞゆっくり一服してきてください。

その間、我々も休憩していますので。


ありがとうございます。

それでは、また後程…



つづく



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