「ACROSS THE UNIVERSE 後篇」深読み バック・トゥ・ザ・フューチャー vol.19(第189話)
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2019年9月19日
スナックふかよみ
Thoughts meander like a restless wind
Inside a letter box
思考は蛇行する
落ち着かない風のように
郵便箱の中で
蛇行する思考、落ち着かない風?
何のことでしょう?
しかも、郵便箱の中で?
この絵のどこかに「郵便箱」があるってこと?
『The Annunciation』
Fra Angelico
そうだよ。
フラ・アンジェリコ『受胎告知』夜バージョンの中には「letter box」がある。
そんなもの、見当たりませんが…
よく探してごらん…
ちゃんと「ある」から…
ないわよ、やっぱり。
そもそもこの時代に郵便箱があるわけないじゃん。
もしかして、こういうの想像してない?
海外の郵便箱って、こういう形でしょ?
こういうアメリカンなやつじゃなくて、ロンドンの古い建物にあるようなクラシカルなタイプのこと…
ああ、これか。団地の鉄扉についてるタイプね。
しかし絵の中には扉自体が無いので、このタイプのレターボックスも存在しません。
本当の「郵便箱」のことではない。
このタイプの「letter box」に形が似ているから名付けられた「letter box」のことだ。
似ているから名付けられたレターボックス?
縦横の比率が違う映像を映す際に発生する、上下の黒いゾーンのことだよ。
この動画みたいに、文字通り「レターボックス」として使うことも出来る…
え? あれを「letter box」と呼ぶの?
そうだよ。
厳密に言うと、上下の黒いスペースを「letter box」と呼び、左右の黒いスペースを「reversed letter box」と呼ぶ。
まあどちらも「letter box」には変わりないけど。
あっ!
絵の中に「letter box」ありました!
え?
ほら!左側のサイド部分です!
あっ…
フラ・アンジェリコ『受胎告知』夜バージョンの左側には、「letter box」のようなエリアが存在する。
そこに描かれているのは?
楽園を追われるアダムとイブ…
画面中央では現在進行形の「処女懐胎」が描かれ、黒いレターボックスの中では遠い過去の「失楽園」が描かれている…
これを見て感じたことを、ジョンはそのまま歌詞にした…
Thoughts meander like a restless wind
Inside a letter box
落ち着きのない風のように思考はあちこちに飛ぶ
レターボックスの中で
だから歌詞はこう続く。
They tumble blindly as they make their way
Across the universe
彼ら、つまりアダムとイヴは、あの坂道を転落していった…
これからどうやって生きていけばいいのか…
これから自分たちにどんな苦難が待ち受けているのか…
まさに、調和された世界から、先の見えない世界への横断…
あの状況そのまんま…
よく見ると「レターボックス」の中では「風」も吹いてるように見えますね…
アダムとイヴの心境や未来を暗示しているかのように…
ホントだ…
ジョンの歌った通り…
そして3番。
今度は何について歌われているかな?
Sounds of laughter, shades of life
are ringing through my open ears
Inciting and inviting me
鳴り響く笑い声、命の影
耳をすませば聴こえてくる
私を駆り立てるように
私を招き入れるように
「shade」は「霊体」という意味もあるから…
これですね…
その通り。
「電話線」の上に描かれている「父なる神」と「聖霊」のことだ。
だからジョンは「ringing」という言葉を使ったのか…
どう見ても電話線にしか見えないから…
あの謎の黒い線は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の中でも「電話線」で再現された。
ドクのガレージでマーティが電話線を引っ張って作ったラインは、フラ・アンジェリコが『受胎告知』に描いた「電話線」の再現だったよね。
昼バージョンの方だけど。
そして、3番はこう続きます…
歌のラストです…
Limitless undying love
which shines around me like a million suns
It calls me on and on, across the universe
無限で不滅の愛が
私の周りで輝く、無数の太陽のように
愛は私を呼び続ける
世界を平面的に横切って
輝く不滅の愛は「聖霊」のことよね。
でも「無数の太陽」って何かしら?
マリアの周りにあるでしょ?
「リミット・レス」で「無数の太陽」みたいに輝いているものが…
あっ!
椅子に描かれた丸い模様!
その通り。
あの円模様は、輝く太陽のようでもあり、針がグルグル回り続けている時計やメーターのようでもある。
見て感じたままをジョンは詩にしたんだ。
本当に最初から最後まで「受胎告知」の「見たまま・感じたまま」を説明しているだけの歌詞…
なのに全く違うことのように聞こえる…
ジョンが自画自賛したのもわかるよね。
しかも「ACROSS THE UNIVERSE」というタイトルは「across the uni verse」とも読めるし「a cross the uni verse」とも読める。
シンプルな言葉だけど、さまざまな解釈が成り立つように出来ているんだ。
カッコイイとは、こういうことさ。
何もかも「受胎告知」だったのね…
これを作ったジョンってすごい…
本当に言葉の性質をよく知ってる…
感動しちゃった…
フィオか。ずいぶん年増の。
てへ。
フィオで思い出したが…
フィオナ・アップル嬢もこの歌をカバーしとったな。
ですね。
平成世代の私は、ビートルズではなく、これで『アクロス・ザ・ユニバース』を知りました。
ゲイリー・ロスによる脚本・監督の映画『PLEASANTVILLE(邦題:カラー・オブ・ハート)』の主題歌だったね。
ちなみにあのミュージックビデオは、当時フィオナ・アップルと付き合ってたポール・トーマス・アンダーソンが監督した。
あれって、あのポール・トーマス・アンダーソンが撮ったの?
ベルリン、カンヌ、ヴェネツィアの世界三大映画祭すべてで監督賞を受賞したPTAが?
そうだよ。天才PTAの手によるものだ。
そして彼も『ACROSS THE UNIVERSE』が何の歌なのか知っていた…
え?
BTTFのロバート・ゼメキス、ボブ・ゲイル、スティーヴン・スピルバーグだけでなく…
『カラー・オブ・ハート』のゲイリー・ロスとポール・トーマス・アンダーソンも知っていたんだよ。
だから、世界で少なくとも彼ら5人と、ここにいる僕ら7人、計12人は知っていることになる。
あの映画やMVも「受胎告知」がモチーフになっているのですか?
見て気付かなかった?
ジョンがインスピレーションを得たフラ・アンジェリコの『受胎告知』が、完璧に再現されていたけど。
ジョンが観たら大爆笑するくらいにね(笑)
ホントに?
それじゃあ簡単に解説しようか。
まず最初に、SODA SHOPの窓にある大きなステンドグラスが映るよね?
食べ物や飲み物と一緒に「二人の人物」が描かれていた。
変な手のポーズで、何かを説明しているように見える男と…
それを手前で座って見ている性別不明の人物です…
これは「受胎告知」を別アングルから描いたものだ。
マリアの斜め後ろからの視点だね。
ええっ!?
そしてガラスが割られ、男たちが建物内に飛び込んでいく。
あれはマリアの家の中に飛び込んできた天使ガブリエルの投影だ…
確かに男たちは「飛んで」入ってきたけど…
そして部屋の隅で座っているフィオナ・アップルが映し出される。
このショットにも仕掛けが満載だね。
わかるかな?
ヘッドフォン!
マリアの頭をすっぽり包んでいる「光背」です!
ヘッドフォンのコードは、被っていた「レース」ってこと?
それだけじゃない。
このカットには、とても重要なものが描かれている。
とても重要なもの?
シムラ!うしろ、うしろ!
は? 志村?
すまん。間違った。
フィオナ!うしろ、うしろ!
後ろ?
フィオナの背後には、アイスクリームのポスターが飾られている。
それがどうかしましたか?
ポスターにはアイスの他に何が描かれている?
ロングヘア―の若い女性ですけど…
本当に?
もう一度よく見てごらん…
何度見たって同じことだと…
きゃあ!
どうしました?
あ、あれは長い髪の女じゃなくて…
長い髭の生えた男!
父なる神よ!
なんですかコレ…
しかも同じポーズだし…
ちなみに「アイスクリーム」は「聖霊」を表している。
この後のシーンで、フィオナめがけて飛んで来るからね。
そして次は、部屋の奥にある廊下スペースが映るカット…
なんか… カーテンらしきものが映ってましたよね…
そう。「受胎告知」の絵と同じように、右側に…
電話が…
さすがに部屋の中に電話線を張り巡らすわけにはいかないから、あそこに置いたんだろうね…
ちなみに、ここで男が長椅子を豪快に放り投げるんだけど…
長椅子なんて「受胎告知」にありませんが…
それがあるんだよね。
昼バージョンには(笑)
『The Annunciation』
Fra Angelico
そう来ましたか…
その次に映し出されるのは、カウンターの上にある、キャンディーの入った瓶を叩き割る男たち…
そして、キャンディーや瓶の破片が床に散乱しまくったところで、奇妙な現象が始まったよね…
世界が一回転、というかフィオナが一回転しました…
何だったの、あれは?
決まってるじゃないか。「受胎告知」の再現だよ。
は? マリアは一回転しないでしょ?
羽の生えた男が突然家に入って来て、いきなり「あなたは神の子を処女懐胎した」と言い出し、目眩がするほど気が動転した…
ということを表しているのでは?
確かに頭の中がグルグルしそうな内容だけど…
あの一回転は「天井」を再現するためだよ。
天井?
マリアの家の天井は、無数の星がキラキラ輝いているようだった。
それを床に散乱したキャンディーとガラス片で再現したというわけ。
どんだけ…
人為、つまり「アート」に、意味のないことなどない。
目に映るすべてのモノコトはメッセージじゃ。
次のシーンでは、フィオナがカウンターの奥で座り込んでいます…
そして、彼女めがけてアイスクリームが飛んで来る…
壁に当たり、飛び散る白いアイスクリーム…
光を放射しながら飛ぶ、白いハトの聖霊…
そしてフィオナは突然ヘッドフォンを外し、頭上を見上げながら歌い出す…
この理由もわかるよね?
なぜなら…
マリアの頭上のことが歌われる3番に入ったから…
Sounds of laughter shades of life are ringing
Through my open ears inciting and inviting me
だから次にフィオナはこんなポーズをとった。
「受胎告知」のマリアを正面から見たアングルだね。
次に映し出されるのは、ジュークボックスからレコードの束を盗み出す男…
「受胎告知」の時にマリアが読んでいた「レコード」…
つまり聖書のことだね。
そして最後にフィオナが扇風機の前で…
ちょっと待った。
大事なことを飛ばしちゃいけない。
え?
窓の外を「アダムとイブ」が歩いて行った。
細かい!
そしてMVのオチは「扇風機とフィオナ」だ。
説明不要だね。
やられたわ…
おそるべしPTA…
ジョンが言葉でやったことを、映像で再現して見せるとは…
さすが世界三大映画祭で監督賞をとってるだけあるよね。
ふふふ。
ところで、「受胎告知」昼バージョンのMVもあるの知ってる?
え? こっちのバージョンですか?
そう。
誰がいつ作ったのかは知らないけど…
森の方から聖霊が一直線に降りてきて、バージンのマリアの下腹部に入り、胎児イエスとなって羊水の中を漂うバージョン…
なんだか神秘的…
感動しちゃった…
デルタゾーン…
そこはスルーするのがオトナじゃ。
さて、それでは次の曲に行こうか。
アルバム『LET IT BE』の4曲目は、ジョージ・ハリソンの歌『I Me Mine(アイ・ミー・マイン)』だ。
今度はどんなふうにBTTFで再現されているかな…
つづく
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