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エピローグ第10話:なぜ虫は窓辺でひっくり返り、ディクソンはいつも漫画を読んでいたのか? 『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解剖


はい、ウォッカマティーニ。ステアせずにシェイクで。

ド、ドウモデス…

「徽章をつけた紳士」が書いた手記の中に隠されていた《おそろしい秘密》に編集長が気付いたところで「前書き」は終わる。

いよいよ小説本編と映画『スリー・ビルボード』の深すぎる関連性について解説していこう。

「前書き篇」を未読の人は、まずこちらから読むといいわ。

「徽章をつけた紳士」が書いた小説『猟場の悲劇(予審判事の手記より)』は、まず「けたたましいオウムの叫び声」から始まる。

何か「予言」めいた言葉を、イワン・デミヤーヌイチと名付けられたオウムが大声で繰り返すんだ。

そしてそれを主人公セルゲイ・ペトローウィチ(作者でもある予審判事)が止める…

まずこの冒頭シーンで、チェーホフは何を描こうとしたのか、わかるかな?


「夫が細君殺した! ああ、君はバカだねえ! いいから水をおくれ!」

この叫びがわたしの眠りを破った。わたしは伸びをして、身体のふしぶしに重苦しさと、けだるさを感じた。……寝ぐせで手や足をしびれさせてしまうことはあり得るが、この時は、頭から足の先までしびれたようになっていた。乾ききった、息苦しい大気の中で、蠅や蚊の羽音をききながらの、昼食後の一眠りは、疲労回復どころか、体力を弱める働きをする。ぶちのめされたように疲れはて、びっしょりと汗をかいて、わたしは起きあがり、窓辺に行った。太陽はまだ高く、三時間前と同じように熱心に照りつけていた。日が沈んで涼しくなるまで、まだ大分間があった。

「夫が細君殺した!」

「嘘をつくのは、もうたくさんだよ、イワン・デミヤーヌイチ!」

わたしはイワン・デミヤーヌイチの鼻を軽くはじきながら、言った。

中央公論社版(訳:原卓也)より

小説『猟場の悲劇』は「使徒行伝(使徒言行録)」と「ルカによる福音書」がベースになっているから…

「叫び」といえば…

「John the Baptist(洗礼者ヨハネ)」ね。

『説教をする洗礼者ヨハネ』マッティア・プレティ

その通り。

オウムの名前「Ivan(イワン)」とは、「John(ヨハネ)」のロシア語形なんだ。

だから単行本となった際の『猟場の悲劇』の表紙には、オウムの横に「ねじれたリボンのメッセージ」が描かれていたんだね。

多くの宗教画に描かれる洗礼者ヨハネのように…

うひゃあ!

ちなみにオウムは英語で「Cockatoo」だよね。

ここにも「cock」が隠されている。

しかも「cock a too」とも読めるから何か笑えるよね。

だっふんだ!

「イワン(ヨハネ)」という名のオウムと「予審判事セルゲイ・ペトローウィチ」のコンビも明らかに意図的ね。

使徒ペテロはイエスの弟子になる前は、洗礼者ヨハネの弟子だったわ。

その通り。

そして「イワンの叫び」で目覚めたペトローウィチが「びっしょりと汗をかいていた」のは「水による洗礼」のジョークだね。

うまい!

山田君、チェーホフさんに座布団1枚あげて!

ちなみに劇中でイワンが何度も叫ぶ「3つの言葉」は、洗礼者ヨハネが荒野で叫んでいた内容のパロディになっている…

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