深読み_スプートニクの恋人_第5話1

『深読み 村上春樹 スプートニクの恋人』第5話「Kとカッパ」


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スナックふかよみ にて



ウェナ~ペイン~♫
マイマスタピィイ~ス♫

ヒューヒュー!やるじゃん!

この「My Masterpiece」って…

「My Master の piece」つまり「我が主の一部分・かけら」とも読めるよね…

え?

それは「聖霊(the Holly Sprit)」であり、主から与えられた命が宿る「精子」を意味している…

だからボブ・ディランは歌詞を卑猥な内容にして、地中海沿岸から「コカ・コーラの国に帰りたい」と歌った…

それはアメリカが「神に選ばれし新しいエルサレム」だから…

ふふふ。面白い。

でもなぜ最後にブリュッセルに寄るの?

「Brussels(ブリュッセル)」という地名は「葦の生い茂る湿地帯」という意味なんだ。

「草ボーボーで、いつも濡れている場所」の比喩としてボブ・ディランは使ったんだね。

まあ。

記号と象徴。

え? 何か言った?

なんでもありません。

あれ? また違う花が咲いてる…

今度は何?

気にしないでください。

さあ『スプートニクの恋人』チャプター1の続きをやりましょう。

私は明日早いんです。

はい。では駆け足で行きましょう。

大学の話の次は「すみれ」の容姿や性格についての記述。ほとんど箇条書きのような描写が続きます…

・救いがたいロマンチスト
・頑迷でシニカルで世間知らず
・しゃべり出すと止まらない
・世の中を構成する大多数の人とは気が合わず口を利かない
・ヘビースモーカー
・電車に乗るときまって切符をなくす
・何かを考え出すと食事をとるのも忘れる
・昔のイタリア映画に出てくる戦争孤児みたいに痩せていている

改めて、こうして見ると「すみれ」って…

そう。『THE CATCHER IN THE RYE』の主人公ホールデンそのものだね。

ホールデンの場合、電車でなくすのは切符ではなく「フェンシングの道具」だったけど。

そして最後の「昔のイタリア映画に出てくる戦争孤児みたいに痩せている」という説明なんて、ホールデンの絵のことを言ってるようにしか聞こえない…

そのものじゃん…

ヒュ~♫

・・・・・

そして村上春樹は、こんな皮肉めいたジョークを飛ばす…

言葉で説明するよりも写真が手もとにあればいいのだが、残念ながら一枚もない。彼女は写真をとられるのが極端に嫌いだったし、「若き芸術家の肖像」を後世に残したいという希望もとくに持たなかった。もし当時のすみれの写真があれば、それはきっと、人間の持ちうるある種の特質についての得難い記録になったはずだと思うのだけれど。

これってサリンジャーが『THE CATCHER IN THE RYE』の舞台化や映画化などビジュアル化されることを徹底して禁止していたことへの皮肉じゃないの?

その通り。

そしてこれは村上春樹からサリンジャー本人に向けたメッセージでもあるんだ。

サリンジャーも写真に撮られることを極度に嫌っていた。だからの「若き日の芸術家の肖像」は、ほとんど残っていないんだよね。

ウィキペディアも写真じゃなくてイラストが掲載されているくらいだ…

カズオ・イシグロなんて、ノーベル文学賞受賞で日本がフィーバーしてた時、若かりし日の黒歴史的写真まで引っ張り出されていたのにな。

高円寺の中古レコード屋でバイトしてそうな売れないバンドマン風の写真ね。

ちなみにさっきの文言は「ナザレのイエス」のことでもあるんだ。

え?そうなの?

もし当時のイエスの写真が残っていれば、得難い記録になったはずでしょ?

確かにそうだけど…

『スプートニクの恋人』の「すみれ」には「ナザレのイエス」が投影されているんだよ。

ちなみに『THE CATCHER IN THE RYE』では、ホールデンの妹フィービーが「ナザレのイエス」の役割を果たしていた。

どちらも純潔キャラだったでしょ?

「すみれ」や「フィービー」がイエス?

じゃあ両作の語り手というか主人公である「ホールデン」や「ぼく」は何者なの?

「キリスト」だよ。

「父と子と聖霊」の「聖霊(the Holly Sprit)」にあたる。

だからホールデンと「ぼく」は、神から与えられた命「Spirit」が宿るとされていた「精子」の役割も演じているんだ。

「Holden」とは「手で握る」という意味だし、英語話者が発音すると、ドイツ語で「金玉」を意味する「Hoden」と同じ音になる。

そして『スプートニクの恋人』の「ぼく」は、すみれの日記の中で「K」と呼ばれていた。

金玉のK?

それもあるけど、「Khristos(クリストス)」の「K」でもある。

ギリシャ語で「メシア/キリスト」のことだ。

ギリシャ語ではキリストのことをクリストスって言うんだ。

なんか言い間違えそう。

え?

べ、別に何でもない…

話を進めて。

うん…

小説の登場人物に「K」という名が付けられていたら、それは「Khristos(クリストス)」のことを意味していると思っていい。

夏目漱石『こころ』の「K」…

梶井基次郎『Kの昇天』の「K」…

そして先日の熱海殺人事件の米津K師…

どの「K」も、自分を追い込んで死を選んでしまったキャラじゃん…

「Christ」の「C」では不自然すぎるからな。

日本人にはイニシャルが「C」の人は、ほぼいない。しかし「K」なら普通に男の名前っぽい。

まあ、よくあるベタな手法だ。

ウルセエ…

なんか言いました?

もしかしてまた飴ちゃん欲しいとか? のど黒~飴~♫

チッ…

さて、次の段落では再びミュウの話になる。

「ぼく」はミュウの本名を知らなかったと語った。

これは『THE CATCHER IN THE RYE』で「DB」の本名が最後まで明かされなかったことに対応しているね。

次にミュウが日本で生まれ育った韓国人であることが言及される。

そのため20代の半ばに決心して学習するまでは、韓国語はほとんど一言も話せなかった。

そして学生時代にフランスに留学の経験があり、フランス語が流暢だった…

これも『THE CATCHER IN THE RYE』に対応しているの?

この経歴はサリンジャーのことなんだ。

日本をアメリカに、韓国人をユダヤ人に、フランス語をドイツ語にすると、そのままサリンジャーの経歴となる。

サリンジャーは、アメリカで生まれ育ったユダヤ人。

20代の半ばに決心して学習するまでは、ヘブライ語はほとんど一言も話せなかった。

そして学生時代にオーストリアの精肉会社でインターン経験があり、ドイツ語が流暢だった。

なるほどね。そのまんまじゃん。

ちなみに「ぼく」がミュウの名前を知らされてなかったと語ったことには、サリンジャーの母親のことも投影されていると思う。

サリンジャーの母は結婚時にカトリックからユダヤ教に改宗し、名前をユダヤ風にマリオンと名乗っていた。

サリンジャーが母の本名を知ったのは、ユダヤの成人式バル・ミツワーの後だったらしい。

そうだったの…

さて次の段落では、すみれが最近ハマっているジャック・ケルアックの本について語られる。

Jack Kerouac(1922 - 1969)

代表作『オン・ザ・ロード(路上)』と『ロンサム・トラヴェラー(孤独な旅人)』の名があげられ、今一番のお気に入り『ロンサム・トラヴェラー』を常に持ち歩き、気に入った文章があると、すみれはそれを「ありがたいお経みたいに記憶した」と語られる。

またアヤシイ表現が出て来たわね。

いくらその小説が好きでも「ありがたいお経みたいに記憶した」って、ちょっと大袈裟じゃない?

これも村上春樹のジョークなんだ。

実はケルアックの『ロンサム・トラヴェラー』という短編集は、カトリック教徒であったケルアックが自身の信仰と向き合うために書かれた作品集なんだよね。

だから各短編の登場人物にはイエスや聖書の登場人物が投影されていて、随所に聖書の引用やパロディが仕込まれている。

短編の一つ『ヨーロッパへの大いなる旅』なんて、ケルアックがカトリック教徒としての自身のルーツを巡る旅の物語だしね。

『スプートニクの恋人』で「ぼく」が引用した短編『山上の孤独』も、聖書の逸話「山上の垂訓」と「荒野の誘惑」を題材にした物語になっているんだ。

そんな『山上の孤独』の中の聖書のパロディ部分をすみれが何度も読んで暗記していることを、村上春樹は「ありがたいお経みたいに記憶した」とジョークにしたんだね。

ちなみにカズオ・イシグロの『日の名残り』は、『ロンサム・トラヴェラー』のネタが大量に使われた作品です。

『ロンサム・トラヴェラー』の各章の順番を逆さにすると、『日の名残り』のストーリーになるのです。

そして主人公スティーブンスの旅の最終目的地がコーンウォールだったのは、ケルアック家のルーツがコーンウォールにあると『ロンサム・トラヴェラー』の序章で語られていたからに他ならない。

アメリカ人の話で始まって、コーンウォールの埠頭で終わる『日の名残り』という小説は、『THE CATCHER IN THE RYE』と『ロンサム・トラヴェラー』を足して2で割ったような作品…

そんな話どうでもいいだろ。

岡江君、続きを深読みしてくれ。

はい…

「すみれ」はケルアック『山上の孤独』みたいな生き方こそがクールだと「ぼく」に力説した。

それに比べたら二流私立大学の文芸科など「キュウリのへた」みたいだと語る。

出た「カッパ」(笑)

この小説において「キュウリ」は2つの意味をもつ。

1つは性的イメージ。男性器、ペニスのシンボルだ。

サリンジャーの『THE CATCHER IN THE RYE』でも学校は男性器に喩えられていた。

後で「セックスの時にキュウリのことを思い浮かべる」という話も出てくるもんね。

意味不明だけど。

それについては後で解説しよう。その場面になったらね。

でも、もう1つは何だろう? キュウリが意味するものって…

春木さん、わかる?

い、いや…

ローマ皇帝ティベリウスだ。

イエスが語った有名な言葉「カエサルのものはカエサルに、神のものは神に」のカエサル、ローマ皇帝ティベリウス・ユリウス・カエサルのことだよ。

は? それってイエスが処刑された時の皇帝でしょ?

なぜキュウリなの?

ローマ皇帝ティベリウスは「キュウリ」が大好物だったことで知られる。

毎日欠かさずに食べていたそうだ。

カッパか(笑)

ちょーウケる。春木さん知ってた?

・・・・・

まあ!

花がしおれてキュウリが!

すごい… どういう仕組みになってるんだろう…

ご自身の意思で花を選び、変えることができるものなんですか?

さあ…どうでしょう…

目に見えることだけが真実とは限りません。

私たちの人生など、イリュージョンに過ぎないのかも…

何がイリュージョンだよ。デイヴィッド・カッパフィールドかっつーの。

せっかくこんな凄い技があるのに、もったいないわよね。

もっとショーアップしたらいいんじゃない?

歌やダンスをするとか…

ホラ、そんなアニメあったわよね?

こういうやつか?

(春木、踊る)

それそれ!春木さん、よく知ってるわね!

なんだか楽しそう。僕もやってみよう…

こうですか?

(岡江、真似して踊る)

そうじゃない。私の動きをよく見てください…

(春木、もう一度踊る)

え~と… まずは右、それから左…

簡単じゃんか。こうだよ…

(カヅオ、踊る)

カヅオさん上手(笑)

あたしもやってみよ!

(深代、踊る)

いいですね。では皆で一緒にやってみましょうか…

レッツ、ダンス・ダンス・ダンス!



つづく



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