「ドストエフスキー 地下室の手記⑤ 難破船と浜辺のおじさん」『深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)& 読みたいことを、書けばいい。』
前回はコチラ
2019年9月19日 夜
スナックふかよみ
アタシ、この歌を何百回と聴いたけど、全然気がつかなかった…
いったいこれはどういうことなの?
もしかして2番もビジョンで何か見えちゃったわけ?
ええ…
そうなんです…
念のため、もう一度『およげ!たいやきくん』を歌っておきましょうか、教官?
ああ、頼む。
それでは…
2番の出だしは、こうだった。
毎日毎日楽しいことばかり
難破船がぼくのすみかさ
ときどきサメにいじめられるけど
そんなときゃ そうさ 逃げるのさ
難破船か…
難破船といえば「愛」よね。
それは明菜ちゃんでしょ。
バレたか(笑)
あたし、すっごく好きなの、あの歌。
棄てられた女の淋しさや悲しみが、痛々しいほど伝わってくる歌詞よね。
あれって、やっぱりヒロくんのことなんでしょ?
ヒロくんじゃなくて、マッチ。
グスン… グスン…
ん? どうしたの?
ヒロくんのこと… 思い出しちゃった…
せっかく… 忘れかけていたのに…
あ… ごめん…
ねえ… 歌っても… いい?
そこのエレピで…
あ、うん… いいけど…
寝てる彼には悪いけど、ちょっと熱唱させてもらうわ…
許してくれる?
どうぞ。我々のことはお気になさらずに。
アタシの歌… つむじ風に乗ってヒロくんに届け…
さよなら… ヒロくん…
やだ… あたし、泣けてきちゃった…
ふぅ…
それじゃあ『およげ!たいやきくん』の2番に戻りましょ…
ここでは、どんなビジョンが見えたのですか?
「たいやきくん」が「すみか」にしてた「難破船」は…
シモン・ペトロの家…
つまり「教会」だった…
なるほど…
「難破船」とは「難」を受けて「破」した船…
まさに「イエスの受難」を称える教会のことかもしれません…
じゃあ「ときどきサメにいじめられて逃げる」は?
そこは2つのビジョンを見た…
1つは、これ…
「Jaws」と「Jews」のダジャレだ…
確かに新約聖書には、ユダヤ人にいじめられて逃げる場面が、いくつもありますが…
「Jaws」と「Jews」のダジャレはよく使われるのよ。
スティーヴン・スピルバーグなんて、大胆にも自虐ジョークをそのまんま映画タイトルにして、映画史に残る傑作を撮ったんだから。
あ… あれって、そういうことだったのね…
そして、もう1つがこれ…
『義父ヘロデに洗礼者ヨハネの首を差し出すサロメ』
ルーカス・クラナッハ
「サメ」だから「サロメ」?!
そういうこと…
次の歌詞を見てみよう。
いちにち泳げばハラペコさ
目玉もクルクルまわっちゃう
ここではどんなビジョンが?
これだ。
『聖ペトロの逆さ十字架』カラヴァッジョ
「目玉がクルクルまわる」は「逆さ十字架」のことだったんですね!
ちなみに「十字架」は「Cruz(クルス)」。
「クルクルまわる」は文字通り二重のジョークになってるの。
マジで…?
この時ペトロはハラペコだったの?
「HARA」とはヘブライ語で「山・丘」という意味…
そして「悪・怒り」という意味もある…
シモン・ペトロは、キリスト教を悪と考えたネロ帝によって、ウァティカヌスの丘で逆さ十字に処せられた…
なんてこと…
そして歌詞は、こう続く…
たまにはエビでも食わなけりゃ
塩水ばかりじゃふやけてしまう
「塩水」って…
新約聖書でイエスの教えは「塩」と「水」に喩えられます…
でも「塩水」ばかりじゃ物足りないって言ってるじゃない。
「たまにはエビも食べたい」は何なの?
僕にはこんなビジョンが見えた…
『ペトロのビジョン』
なにこれ? 動物園の引っ越し?
Acts 10…
つまり『使徒行伝(使徒言行録)』第10章で描かれる、シモン・ペトロの幻覚ね…
シモン・ペトロの幻覚?
イエスの死後、シモン・ペトロは地中海沿いの町に住む知人宅を訪ねた…
だけどその家には非ユダヤ教徒もいたため、戒律に従ってシモン・ペトロは食卓に同席せず、屋上へ移動した…
そして疲れと空腹のあまり意識が朦朧としてきて、幻覚を見るんだ…
空から「戒律で《食べてはいけない》とされる生き物」が降りて来るという幻覚を…
ハラペコで死にそうなのに、禁止された食べ物が、目の前にドーンと出されたの?
ダイエットが一番キツい時に、ひいらぎの「たい焼き」を目の前に出されるようなもんじゃん。
たい焼きは、わかば!
ふふふ。
そしてシモン・ペトロは言った。
「こんな穢れたものは食べられません」
だけど神はこう言い返した。
「わたしが創造したものに《清い》も《穢れてる》もない」
この言葉で悟ったシモン・ペトロは、非ユダヤ教徒とも食卓を共にするようになり、戒律で禁じられていた食べ物も食べるようになったの。
こうしてキリスト教徒は「エビ」が食べられるようになったというわけ。
ちなみに、このシーンは『ライフ・オブ・パイ』でも再現されている…
漂流中に「虎のリチャード・パーカー」がパイに見せた「幻覚」として…
「虎のリチャード・パーカー」とは「神」のこと…
そして「パイ」は…
「Pi」は「Pietro」…
パイはシモン・ペトロ(笑)
「バラバラになった動物」は、イスラエル12部族の地図でもありましたね…
そして「たいやきくん」の運命は急転する…
岩場の陰から食いつけば
それは小さな釣り針だった
あっ!岩場!
そう。
イエスが漁師シモン・バリヨナに付けたニックネーム「ペトロ」とは「岩」という意味(笑)
そして、このシーンでは…
こんなビジョンが見えた…
『アッピア街道でイエスに会う聖ペトロ』
アンニーバレ・カラッチ
逃亡中にイエスに見つかって、処刑地へ連れて行かれたペトロ!
だから歌詞はこう続くんだ…
どんなにどんなにもがいても
ハリが喉から取れないよ
浜辺で見知らぬおじさんが
ぼくを釣り上げビックリしてた
ま、まさか…
「ハリ」はスラブ語・ロシア語の「ハリストス」で…
「クリ」はギリシャ語の「クリストス」とか…
そう。
「たいやきくん」を釣り上げた「おじさん」とは「イエス・キリスト」のことだ。
だから「たいやきくん」には、こんなラストが待ち受けていた…
やっぱりぼくはたいやきさ
少し焦げあるたいやきさ
おじさん唾を飲み込んで
ぼくをうまそに食べたのさ
そして教官が見たビジョンとは…
「浜辺で魚を焼くおじさん」が…
皆に「この魚とパンを食べなさい」と言う光景…
『ヨハネによる福音書』
21:9 彼らが陸に上って見ると、炭火がおこしてあって、その上に魚がのせてあり、またそこにパンがあった。
21:10 イエスは彼らに言われた、「今とった魚を少し持ってきなさい」
21:13 イエスはそこにきて、パンをとり彼らに与え、また魚も同じようにされた。
(絶句)
アタシたちが初めて買ってもらったレコードは、シモン・ペトロの歌だったのね…
「サラリーマンの悲哀の歌」説なんてのも聞いたことあったけど、そんなスケールの小さいものじゃなかったんだわ…
でなきゃ、あの時代に500万枚も売れないでしょ…
何か心の奥底に訴えかけるものが無いと、あそこまで社会現象にはならない…
僕も思わぬビジョンが見えて驚いた。
まさかドストエフスキーの『地下室の手記』から、こんな展開になるとは…
でも、どちらも主人公はシモン・ペトロですからね。
そういえばさ…
ドストエフスキーは序文で「この手記の著者は、存在するに等しい、架空の人物だ」って言ってなかったっけ?
イエスの弟子「福音記者ヨハネ」は実在の人物でしょ?
つじつま合わなくない?
そこなんだよ。
ドストエフスキーが序文であんなふうに「回りくどい」言い回しをしたことにも、深い意味があるんだ。
福音記者ヨハネこと「ベツサイダのヨハネ」には、少しややこしい事情があるんだよね…
つづく
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?