深読み米津玄師_LOSER10A

米津K師殺人事件 第2楽章『LOSER』第10節「米津玄師と宝石の歌③《フローライト》後篇」



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2019年4月某日
熱海
ホテル湯の谷 客室



それはそうと…

『フローライト』MVの「少年と少女」が「使徒ペトロと主イエス」だとしたら…

あの赤い化け物と米津玄師は何なの?

ヒントは米津玄師の服装にある。

服装?

あのラクダ色のジャケットと、ジプシー風のポンチョに?

もう答えが出てるようなもんだけど。

え?

『フローライト』のミュージックビデオにおける米津玄師は…

エジプトで生まれ育ち、エジプト脱出後は40年間も定住することなく荒野を彷徨った「モーセ」なんだ。

『杖と石板を持つモーセ』

なるほど…

確かに「エジプトの人」も「さすらい人」も、どちらも「ジプシー」ね…

ちなみに米津玄師が持つギターは、モーセのアイテム「石板と杖」の投影でもあるんだよ。

ウケる(笑)

そういえば『フローライト』が入ってるアルバムは『Bremen』よね?

「ブレーメンの音楽隊」と「出エジプト記」って似てない?

どっちも虐げられし者たちが安息の地を求めて長い旅を続ける物語じゃん。

そしてどっちも先住者を追いだして土地をゲットする。

「似てる」んじゃないんだよ。

そもそも『Bremen』というアルバム自体が「モーセの物語」なんだ。

多くの曲で米津玄師は「モーセ」を演じているんだよ。

つまり「ブレーメンの音楽隊」はカモフラージュなんだよね…

ええ!?

アルバムの1曲目『アンビリーバーズ』における「アンビリーバーズ(不信心者たち)」とは、モーセに率いられた民のこと。

彼らは神を心から信じず、教えに背き続けたので、40年という長きにわたって荒野を彷徨うことになり、何度も神の怒りを買って大粛清を受けた。

モーセ自身さえも、神の言いつけを正しく守らなかった罰で、「約束の地」目前にして死ぬことになる。

それらを踏まえて『アンビリーバーズ』を聴くと、歌詞がストンと落ちて来る。

冒頭の歌詞なんて、そのまんまだよね…

ヘッドライトに押し出されて
僕らは歩いたハイウェイの上を
この道の先を祈っていた
シャングリラを夢見ていた

「僕ら」を押し出した「ヘッドライト」は、神ヤハウェのこと…

「僕ら」が歩いた「ハイウェイ」は、中東の荒野…

そして「この道の先」にある、夢にまで見る「シャングリラ」とは…

乳と蜜の流れる場所、約束の地カナン…

確かにこれはモーセの歌だわ…

そして2曲目が『フローライト』で、4曲目には『ウィルオウィスプ』が入っている。

ウィキペディアには「随所に『ブレーメンの音楽隊』を彷彿とさせる歌詞が存在し、アルバムタイトルを決定するきっかけになった楽曲」なんて紹介されてるけど、違うんだよね。

そもそも「ウィルオウィスプ」って何?

正体不明の炎、いわゆる「鬼火」のことなんだけど…

米津玄師は「燃える柴」の喩えとして使ってるんだ。

燃える柴?

モーセは若かりし頃に殺人を犯してしまいエジプト国外へ逃亡した。

その時、荒野で「燃える柴」に遭遇する。

その炎の光の中から神の声が聞こえ、『創世記』に描かれる約束の地カナンへ民を率いよ、と命じられるんだね。

じゃあ『ウィルオウィスプ』の、この歌詞って…

みんなが歌った あの歌に出てきた国に 僕らは行くよ
声を上げて 振り向かないよ

「みんなが歌った『創世記』に出てきた約束の地カナンに僕らは行くよ」って意味だね。

ヘブライ聖書って「読むもの」じゃなくて「節を付けて歌うもの」だから。

じゃあ、この部分も…

犬も猫も鶏も引き連れ街を抜け出したんだ
こんなに世界が広いこと知らずにいたんだな

これのこと?

「牛も羊も鳥も引き連れエジプトを抜け出したんだ」だね。

『出エジプト記』の続編『レビ記』第1章では、エジプトから連れてきた家畜「牛・羊・鳥」の扱い方を、神がモーセに事細かに指示するんだ。

このように歌詞の「僕」を「モーセ」に置き換えて聴いてみると『ウィルオウィスプ』という曲の面白さがわかると思う…

ホントだ…

この歌詞、「ブレーメンの音楽隊」にしてはオーバーだなって思ってたのよ…

こういうことだったのね…

そして「モーセの物語」は最後に「イエスの物語」に代わってゆく…

『Bremen』13曲目の『ホープランド』とは、約束の地カナンであり、救世主の預言が現実化する希望の街エルサレムのことでもあるんだ。

よく見たらアルバムのジャケ画は「ハートの中に十字架」だもんね。

「♡マーク」の由来は「聖杯」だったっけ…

そして最後の曲『Blue Jasmine』は、完全に救世主イエスを想った歌になっている。

差し出したジャスミンのお茶でさえ
泣き出しそうな顔をして
戸惑いながら口を付けた
あなたを知ってるよ

死の間際のイエスに差し出された「酸っぱい葡萄酒」ってこと?

そう。だからタイトルが「ブルー・ジャスミン」なんだ。

「青い」には「未熟で酸っぱい」って意味があるから。

『Bremen』って壮大なストーリーなのね。

モーセの物語からイエスの物語へ…

それを一曲の中に集約したのが『フローライト』なんだ。

だから「主イエス・使徒ペトロ・モーセ」が登場するんだよ。

じゃあ赤い化け物は?

あの赤い化け物は「預言者エリヤ」だ。

赤い炎といえばエリヤだからね。

『Elijah』ホセ・デ・リベーラ

なるほど。

そして「ラクダ色のジャケットを着た米津玄師と赤い化け物」は「モーセとエリヤ」であると同時に、ふたり合わせて「もうひとりの人物」の役割を担っている。

荒野でラクダの毛皮を身にまとっていた「洗礼者ヨハネ」だ。

『洗礼者ヨハネ』
サンドロ・ボッティチェッリ

あっ!

だから米津玄師と赤い化け物は、鬱蒼とした森をバックに並んでいたのね!

その通り。

「モーセ・エリヤ・ヨハネ」という偉大な預言者三人が「イエス・キリスト」の登場を導くという筋書きは『ヨハネによる福音書』第1章に描かれている。

1:17 律法はモーセをとおして与えられ、めぐみとまこととは、イエス・キリストをとおしてきたのである。
1:18 神を見た者はまだひとりもいない。ただ父のふところにいるひとり子なる神だけが、神をあらわしたのである。
1:19 さて、ユダヤ人たちが、エルサレムから祭司たちやレビ人たちをヨハネのもとにつかわして、「あなたはどなたですか」と問わせたが、その時ヨハネが立てたあかしは、こうであった。
1:20 すなわち、彼は告白して否まず、「わたしはキリストではない」と告白した。
1:21 そこで、彼らは問うた、「それでは、どなたなのですか、あなたはエリヤですか」。彼は「いや、そうではない」と言った。「では、あの預言者ですか」。彼は「いいえ」と答えた。
1:22 そこで、彼らは言った、「あなたはどなたですか。わたしたちをつかわした人々に、答を持って行けるようにしていただきたい。あなた自身をだれだと考えるのですか」
1:23 彼は言った、「わたしは、預言者イザヤが言ったように、『主の道をまっすぐにせよと荒野で呼ばわる者の声』である」

「米津玄師と宝石の歌シリーズ」の元ネタ「イザヤ」も出て来るじゃん…

岡江クンの深読み、もう間違いないわね…

登場人物の役割もわかったことだし、次はMVの演出を見ていこうか。

まず湖を背景にタイトルと米津玄師の名が表示される。

まずイントロでは、二人の子供が走るシーンが映し出されるわね。

帽子の子の背中が長めに映されるんだけど、ここで注目してほしいのは、吊りズボンの金具だ。

このアングルでは明らかに「三角形の金具」をアピールしている。

帽子の子は使徒ペトロ…

使徒ペトロと「三角形」といえば…

三位一体!

そして湖の岸壁に腰かける二人が映し出される。

ここはガリラヤ湖、もしくはヨルダン川だね。

ここでの歌詞、Aメロ前半部分は、こうだ。

君が街を発つ前の日に 僕にくれたお守り
それが今も輝いたまま 君は旅に出ていった
今は何処で何をしているかな
心配なんかしていない 君のことだからな

「君」は「長髪の子」で「イエス」のことでしょ…

そして「帽子の子」は「ペトロ」だから…

イエスがペトロにくれた「お守り」とは…

わかった!

「天国の鍵」ね!

『聖ペテロ』ルーベンス

いいね。その調子。

Aメロ後半部分では、二人の子供が原っぱを歩いている姿が映し出される。

すると前方に米津玄師と赤い化け物が現れるんだ…

長髪の子は、まるでこうなることを知っていたかのように、怖がることなく赤い化け物に歩み寄ってゆく。

そして赤い化け物の口から「フローライト」が吐き出され、長髪の子の手に受け渡される…

問題のシーンね…

ずっと意味不明だったけど、登場人物の役割を知った今は、この描写の意味がよくわかる。

「預言者エリヤ」と「洗礼者ヨハネ」は、どちらもイエス・キリストの前駆者的存在…

救世主が地上に現れる前の下準備をしてバトンを渡す存在よね…

だから「赤い化け物エリヤ」から「長髪の子イエス」に「天国の鍵フローライト」が受け渡されたのよ…

完璧な読みだね。

さて、その後は「長髪の子・帽子の子・赤い化け物・米津玄師」の四人が旅を続ける姿が描かれる。

そこで流れる2番Aメロの歌詞は興味深い。

夜が明ければ陽が昇る 道は永遠に続く
素敵な魔法で溢れてる 僕らは今を生きている
それと同じくらいに君のことを信じてるってことを
君は笑うだろうか

「僕」は「君のことを信じてる」って言いながら、同時に「君に笑われるかも」って思ってる…

これって最後の晩餐の時のペトロの心境ね。

「師を信じています!死ぬときは一緒です!」って大見得切って言ったのに、イエスから「はいはい。でもいざとなったら転ぶと思うよ(笑)」って返された。

ペトロをはじめ弟子たちは、師イエスの言ってたことを信じていなかったからね。

そして「君は笑う」という歌詞も注目したい。

これは長髪の子が「贖いの小羊イエス・キリスト」であることを意味している。

「君は笑う」が「贖いの小羊イエス・キリスト」?

どうして?

「君は笑う」というのは、アブラハムが小羊の代わりに神に捧げようとした子イサクのことなんだ。

「イサク」というのは「彼は笑う」という意味だから。

『イサクの燔祭』ローラン・ド・ラ・イール

そして新約聖書ではイエスにイサクが重ねて描かれる。

選ばれし「神の小羊」としてね。

なるほどね。

そして問題のシーン2「縄跳び」の登場だ…

なんで米津玄師はMVで「なわとび」をしたのかしら?

しかも帽子の子だけを転ばせてみたり、最後にこの構図をもう一度出して、自分を木にしてみたり…

「なわとび」に何か深い意味があるとしか思えない…

もちろん、天才米津玄師は意味のないことは決してしない。

この「縄跳び」と次のシーン「焚き火」は、共通の元ネタから生まれたシーンだと言える。

共通の元ネタ?

なによそれ?

聖カタリナ修道院だよ。





つづく





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