深読み バック・トゥ・ザ・フューチャー vol.18(第188話)
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2019年9月19日
スナックふかよみ
どんだけ…
おそるべし、BTTF…
それでは3曲目に行こうか。
『Across the Universe』だね…
この曲は…
『BACK TO THE FUTURE』と何も関係なさそうな…
そうよね。BTTFはインド要素ゼロだし。
さすがに全曲を再現することは出来なかったのでしょう。
飛ばして次に行きますか…
ちょっと待ってくれないかな。
はい?
なぜ「関係ない」と決めつける?
だって…
誰がどう考えても、BTTFとインドは関係ないですから…
君はこれまで僕の下で何を学んできたんだい?
何をって… 深読みですが…
西洋人の芸術家が作中に出す「インド」は、だいたい嘘…
インドは「偽装」だ。
ぎ、偽装?
彼らは「別のもの」を表現するために「インド」を使う…
たとえば、ヤン・マーテルの『LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)』しかり…
ルネ・マグリットの『Golkonda(ゴルコンダ)』しかり…
そして、フランク・シナトラ主演映画『It happened in Brooklyn(下町天国)』しかり…
でもジョンは、この頃インドにハマっていたんでしょ?
一時ハマりそうになったけど、結局ジョンはハマらなかった。
ジョージと違って、すぐに熱が冷めちゃったんだよね。
「やっぱり違う。僕には合わない」って。
でも『アクロス・ザ・ユニバース』は、どう聴いてもインド哲学っぽい…
サンスクリット語のマントラを唱えながら、意識が遠い宇宙まで広がって、そのまま一体化する感じとか…
それが「偽装」なんだよ。
ちなみに今「宇宙」と言ったけど、どんな意味で使った?
「宇宙」って、どこのこと?
宇宙? 宇宙って言ったら宇宙に決まってるでしょ?
大気圏の外にある広~い空間よ。
違うんだよね。今僕たちがいるここも「宇宙」だ。
え?
この店内の空間も宇宙だし、僕の身体も宇宙。すべてが宇宙。
どういうこと?
英語の「universe」も、漢字の「宇宙」も、どちらも「ありとあらゆるものすべて」という意味。
創造神が作った「被造物」すべてを意味する。
光も空間も生命も、そして過去も未来も現在も、ぜんぶ「universe」であり「宇宙」だ…
だから科学系の文章では「space」という言葉を使うのです…
「被造物」と「空間としての宇宙」を分けるために…
なるほど。あまり意識したことなかったわ。
そしてこの歌は、いわゆる「宇宙」とは関係ない。
というか、ジョンは一言も「宇宙」と言っていないかもしれないんだ。
は?「the universe」って何度も言ってるじゃん。
「the universe」ではなく「the uni verse」と歌っているように聴こえる。
ユニ・ヴァース?
「uni」は「1つの」で…
「verse」は「ひとかたまりの言葉」、つまり「節」のこと。
ひとつの節?
とても有名な「節」のことだ。
それをジョンはサンスクリット語で「Jai guru deva om」と言い換えた。
確か…「称えよ。師と神を。オーム」でしたっけ?
「om」は「aum」が縮まったもの。
「a」は創造神ブラフマー、「u」は維持神ヴィシュヌ、「m」は破壊神シヴァを表し、三神一体(トリムールティ)の真理を表す。
つまり「Jai guru deva om」とは…
「称えよ。師である神、3つの姿を」
という意味になっている。
師である神…
3つの姿を称えよ…
それって…
ジョンが「Jai guru deva om」と言い換えた「the uni verse」…
つまり「ひとつの節」とは、これのこと…
Luke
1:35 And the angel said to her, “The Holy Spirit will come upon you,
and the power of the Most High will overshadow you;
therefore the child to be born will be called holy, the Son of God.
『ルカによる福音書』
1:35 御使が答えて言った、「聖霊があなたに臨み、いと高き者の力があなたをおおうでしょう。それゆえに、生れ出る子は聖なるものであり、神の子と、となえられるでしょう。
こ、これは…「受胎告知」の場面…
その通り。
この節では、キリスト教の神髄ともいえる「父と子と聖霊」の三位一体が説明され、その名を称えよと記されている。
これをジョンは「Jai guru deva om(称えよ。師、神、3つの姿を)」と言い換えたわけだ。
まさか…
別に驚くことではないと思うけど。
ポール・マッカートニーだって、このあとの節を元ネタにして名曲『LET IT BE』を書いたでしょ?
Luke
1:38 And Mary said,
“Behold, I am the handmaid of the Lord;
let it be to me according to your word.”
『ルカによる福音書』
1:38 そしてマリアが言った。
「わたしは主のはしためです。
お言葉どおりこの身に成りますように」
そうですけど…
1970年に行われたインタビューで、ジョンはこんなことを言っている。
『ACROSS THE UNIVERSE』の歌詞は、これまで書いた中で最高傑作だと。
歌詞だけで全てが表現できていて、メロディも必要なく、これ以上付け加える要素が何もない、と。
しかし、意味不明な状況描写というか説明みたいな歌詞が、延々と続くだけのような気も…
そうだよ。だって「説明」だから。
え?
『ACROSS THE UNIVERSE』は「あるもの」を説明した歌。
1番から3番まで「あるもの」をひたすら説明しているんだ。
だけど、そうでありながら同時に「まったく別のこと」にも聞こえるよう、ソングライティングされている。
それがあまりにも上手く出来たから、ジョンは満足していたんだよ。
どういうこと?「あるもの」って何?
さっき答えを出したでしょ?
『ACROSS THE UNIVERSE』の「THE UNIVERSE」とは、『ルカによる福音書』第1章の一節「第35節」のことだって…
ジョンは「受胎告知の説明」を歌にしたんだよ。
受胎告知を?
しかも…
フラ・アンジェリコが描いた『受胎告知』夜バージョンをね…
『The Annunciation』
Fra Angelico
ええっ!?またこれ!?
『アクロス・ザ・ユニバース』は、この絵の説明なの?
そうだよ。
ジョンはこの絵のことしか歌っていない。
歌詞がBTTFで再現されなかったのは、そのせいだ。
まったく同じ元ネタだから、わざわざ再現する必要が無かったというわけ。
マジですか…
僕が嘘を言ったことあったかい?
ないと思います…たぶん…
それでは歌詞を見ていこう。まずは1番から。
ホレボレするくらいインパクト抜群の出だしだよね。
無理に意訳せず、出来るだけ忠実に直訳してみよう…
Words are flowing out like endless rain into a paper cup
They slither while they pass, they slip away across the universe
直訳ですね…
言葉たちが流れ出ている
終わりのない雨のように
紙コップの中へ
発せられた言葉たちは蛇行し
やがて静かに消えてゆく
世界を平面的に横切って
やだ…
そのまんまじゃん…
だね。
言葉が蛇行しながら雨のように注がれる「紙コップ」とは、マリアの頭の背後に描かれている「光背」のことでしょうか?
上から見た紙コップ?
かな。もしくは「マリアが被ってる白いレース」だね。
あ、なるほど。
1番の後半はこう。
Pools of sorrow, waves of joy
are drifting through my opened mind
Possessing and caressing me
深い悲しみ、喜びの波
それらが私の開かれた心に打ち寄せる
体に入りこみ、私を内から愛撫する
これは天使ガブリエルの言葉を聴いた時のマリアの反応ですね…
驚きや悲しみ、そして喜びが複雑に混じり合った感情…
そして、身体に入りこみ、優しく愛撫したのは、神の子イエス…
YES。
この歌における「わたし」はマリアでしょ?
つまりジョンは、自分をマリアに喩えてるってわけ?
そうだよ。「受胎告知」の場面のマリアに、自分を重ねているんだ。
天使ガブリエルじゃなくて乙女マリア?
どうして?
この歌がどうやって誕生したか知ってる?
知らないけど…
ウィキペディアによりますと…
当時LSDにハマっていたジョンは、まとまった休みが取れると、悪友たちとインドや地中海の離島へ行き、ドラッグ三昧の生活を送っていました…
そんな生活が不安になってきた妻シンシアは、夜な夜な寝る前に、ジョンに向かって「家族の未来」について語っていたといいます…
「ジュリアンは4歳なのよ。もう何もわからない年じゃないの。もっと家族のことを考えてほしい。あなた、ジュリアン、そして私の三人で、ひとつなんだから…」
こんな話が延々と繰り返される中、ジョンの頭に「あるイメージ」が浮かぶ…
話し疲れたシンシアが眠りにつくと、ジョンは寝室を出て、階下のリビングで詩を書き始めた…
それが「Words are flowing out like endless rain into a paper cup」で始まる『ACROSS THE UNIVERSE』だ…
つまり… 妻シンシアが天使ガブリエルってこと?
そう。
「あの子は何より大事。あの子のことを中心に考えて」って、うるさいからだね。
ひどい…
父親として、どう振る舞えばいいのか、わからなかったんだろう。
ジョン自身が父親をほとんど知らずに育ったから…
それに「世界のアイドル」としてのプレッシャーやストレスもあったじゃろう。
当時のジョンの心境は、わしらのような凡人には、とうてい理解はできん。
それじゃあ、サビで繰り返されるこのフレーズは…
Nothing’s gonna change my world
この歌を書いた後、ジョンはヨーコとの関係を急速に深めていく…
そして、シンシアとジュリアンとの生活を捨てた…
ああ…
では2番に行ってみよう。
Images of broken light which dance before me like a million eyes
They call me on and on across the universe
ブロークン・ライトのイメージ
私の前で踊っている、無数の目のように
繰り返し私の名を呼ぶ
世界を平面的に横切って
ジョンの目の前で名前を呼んでいたのは、妻シンシア…
つまり天使ガブリエル…
確かに「無数の目」みたいな服を着て踊ってるみたい…
それに「ブロークン・ライト」なイメージだわ…
なんか、子供がチョークでイタズラ書きしたみたいな、中途半端な光…
聖霊の光に比べると、純度の差が一目瞭然です。
ジョンはとても端的に表現している。
まさにその通りだとしか言えないよね。
そして歌詞はこう続く…
Thoughts meander like a restless wind
Inside a letter box
思考は蛇行する
落ち着かない風のように
郵便箱の中で
落ち着かない風って何でしょう?
しかも、郵便箱の中で?
あのハトを伝書鳩に喩えてるのかしら?
マリアの部屋全体が郵便箱ってこと?
そうじゃないんだな。
そんな遠回しな言い回しをジョンはこの歌でしていない。
すべて「見たまま」に表現しているんだ。
じゃあ、どこかに郵便箱があるってこと?
そういうこと。
そんなもの、見当たりませんが…
よく探してごらん…
ちゃんと「ある」から…
つづく
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