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2024年J2第17節ヴァンフォーレ甲府-横浜FC「万物流転の法則」

2023年のJ2で話題になったのは町田の昇格でもあるが、甲府のACLでの奮闘も忘れられないだろう。22年の天皇杯に優勝し、23-24シーズンのACLを戦った。甲府にはACLの試合を開催できる規模のスタジアムがなく、新国立で試合をし、スタジアムの一角は来場をクラブからも促された他クラブのサポーターが埋め尽くすといった甲府でしか出来ない光景もそこにあった。
甲府がACLに出場するだなんて2000年代初頭の解散の危機を見ていた当時の自分には想像も出来ない事だった。世の中は変わっていくのだと改めて感じさせられた。


三連星

甲府は蔚山現代との戦いで敗れてACLでの冒険の章は終幕を迎えるのだが、イメージとしてはなぜか23年シーズンのスタメンを思い浮かべてしまう。ブリーラム戦でスタメンだった長谷川、蓮川、中村、松本、クリスティアーノ、井上、三浦は移籍で抜けている。年が変わって登録されていたメンバーでも三平、小林、マンシャ、孫、河田、そして渋谷と三平を除く守備陣が負傷で離脱しており、ACLで戦っていた状態には程遠いようである。

ただし、前線の3人は別。ウタカ、アダイウトン、ラッソことファビアン・ゴンザレスは強力で彼らに如何にボールを良い形で渡さないか、前を向かせないかが重要である。

と思っていた矢先に横浜は失点を喫する。縦に出たボールにユーリとウタカが競り合うが、ここでウタカに入れ替われて横浜陣内深く侵入を許すとシュートはGK市川が弾いたものの、そこにアダイウトンが詰めており甲府が先制。

盆地の中の平地

1-0になったが、横浜には大きなスペースがあった。前線の3枚に加えて甲府・鳥海も彼らのサポートで前にいると横浜にとっての左サイドには大きなスペースが空いている。甲府が全体のバランスを保つために守備のラインも押し上げてこなかったので、ずっと間延びしていた。福森がこの試合、ボールを持ってオーバーラップする回数が多く見えたのも、前線のFWの後ろのスペースが空いており、プレッシャーを受けなかったからだ。

その空いたスペースを攻略して横浜はすぐに同点に追いついた。前半13分。左サイドの中野のクロスに合わせたのはカプリーニ。クロスに頭で合わせたシュートでゴールを陥れた。

同点にした後もスペースを上手く使えたらよかったのだが、ここからの試合運びに苦労し自分たちのペースに持ち込むことが出来ない。甲府の守備ラインが低く、一方でFW陣はあまり統制が取れていないのに、ちょっとしたミスや意図の伝わりづらいプレーでボールを失っては自陣に走られる展開。良くない流れのまま前半を終える。

分水嶺

後半開始から選手交代。井上に代わって小倉を起用。これまでいつもの交代が多かった四方田監督にしては思い切った采配だった。ただこの交代カードは、後半開始から機能していた。ミスもあったが、思い切りの良さや迷いの少なさが良い方向に出て、縦にパスを付けたりサイドチェンジを見せたりとルヴァンカップで好調だったプレーそのままに小倉が中盤を支配し始める。

後半13分山根からユーリ、そしてカプリーニがパスに抜け出して上げたクロスに飛び込んだのは、前半カプリーニのアシストをした中野。ゴールポストに激突しながらもヘディングで逆転ゴールを叩き込む。本人たちは中々認めないのだが、あるのだよ。返報性は。

逆転してからの横浜は非常にスムーズな試合運びになった。甲府の守備陣は前半に引き続きプレスの位置が明確でなく、また次第に前線のFWも何度もプレスを往なされる事で疲労感も見えてきた。横浜は試合を概ね支配しているが、追加点が奪えないでいる。

後半28分には櫻川と室井を起用。室井も小倉と共に3日前のルヴァンカップに出場し、この試合のメンバーに入った。小川の運動量はプレスをするには魅力的だが、守備のラインが低くスペースがない相手だとそれを上手く使えない。室井はボールの引き出しが上手くラインが低いのであればライン間で、前に出てきたらその裏を狙う事が出来る。まだ右足はテーピングが巻かれていたが、彼がコンスタントに公式戦に出場する事が出来るようになれば前線の戦術の幅も広がる。

人の心はうつろいやすい

甲府は外国人FWを順次交代させたが攻撃は活性化しなかった。横浜はそれに呼応するように、岩武を入れて守備固めをする程の余裕があった。
2-1でタイムアップの笛が鳴る。追加点は奪えなかったが、千葉に敗れた後に清水、甲府相手に連勝を重ねた。清水、長崎も勝利し勝ち点は縮まらず、逆に岡山が勝利し3位から6位までが勝点差3の中でひしめき合う大混戦。

横浜にとっての収穫は、小倉と室井の台頭だろう。小倉に至っては、井上と前半で交代して出場した後半に逆転している。彼自身のアシストでもなければゴールでもないが、彼が出場してから逆転したのはこれまた事実。ラッキーボーイと呼ばれてもよいだろう。結果を出した選手がポジションを奪っていくのはサッカー界の常。これで井上もウカウカしていられなくなる。それがより高いパフォーマンスを引き出すのであれば、それは正常な競争でありサポーターとして歓迎すべきことだろう。

すべてのものはそこにずっと留まることはない。万物流転の法則である。昨シーズンACLで話題となった甲府も選手が入れ替わり今年は苦しんでいるし、輪をかけて怪我人が多数発生している。

横浜も森が山形戦で前十字靭帯損傷の怪我をし、今シーズンはほぼ絶望となった。そこから高橋が加入し、さらに小倉と室井が出てきた。当初の目論見通りではないかもしれないが、本来はスタメンやメンバーはどんどん変わっていくもの。開幕戦と同じスタメンを最終節で見たことはない。

戦術理解や浸透度、適性、怪我やコンディション、そして競争があってチームの中のポジションは変化し、形づくられる。もうリーグ戦の折り返しは目の前だ。新しい戦力を融合させて横浜はさらに輝きを増す。万物流転の法則に従えば、清水と長崎の順位も未来永劫保証されている訳ではない。横浜も3位で確定ではない。頂点を目指す。


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