歳時記を旅する43〔紅葉狩〕中*借景の峰に始まる薄紅葉
佐野 聰
(平成九年作、『春日』)
昭和九年九月下旬、寺田寅彦は上高地温泉ホテルの窓から六百山と霞沢山を眺めている。
「山頂近く、紺青と紫とに染められた岩の割目を綴るわずかの紅葉はもう真紅に色づいているが、少し下がった水準ではまだようやく色づき初めたほどであり、ずっと下の方はただ深浅さまざまの緑に染め分けられ、ほんのところどころに何かの黄葉を点綴しているだけである。夏から秋へかけての植物界の天然の色彩のスペクトルが高さ約千メートルの岩壁の下から上に残らず連続的に展開されているのである。」(「雨の上高地」昭和十一年『橡の実』所収)
句は、庭の景色の紅葉が遠景の山から始まったという。紅葉が、遠くの山から近くの庭に下りてくるのが楽しみ。
(岡田 耕)
(俳句雑誌『風友』令和五年十月号「風の軌跡ー重次俳句の系譜ー」)
写真/岡田耕 (上高地 11月1日の六百山)
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