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歳時記を旅する34〔おでん〕前*灯の減りし方へと帰るおでんの灯

土生 重次
(昭和五十六年作、『歴巡』)

大阪日本橋の「たこ梅」は、弘化元年(一八四四年)に岡田梅次郎が創業した「たこ甘露煮」と「関東煮(おでん)」の店で、日本一古いおでん屋(関東煮屋)になる。
「たこ甘露煮」は、初代梅次郎が独自に炊き方を工夫したという蛸とは思えないほど柔らかさがある。

織田作之助の小説『夫婦善哉』(昭和十五年)では、妻子ある柳吉が、芸者の蝶子を連れて行った「うまいもん屋」の「銭のかからぬいわゆる下手もの料理」にこの「たこ甘露煮」を挙げている。

 句は、勤め帰りで駅から家に歩いているところか。繁華街を過ぎて灯りが減るところにおでん屋の灯。心惹かれる。

(岡田 耕)

(俳句雑誌『風友』令和五年一月号「風の軌跡ー重次俳句の系譜ー」)

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