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「ゆりかごのうた」の枇杷と白秋の母

「ゆりかごのうた」の作者北原白秋にとって、枇杷の実は母そのものだったようだ。

白秋は、1885年(明治18年)生まれ。
母シケとの間では幸福な日々だったようだが、家業の酒造りが忙しく、乳母のシカの手に渡されて時を過ごすことになった。
母の愛からは遠ざかり、乳母の愛の中で育てられてゆく。

詩集「思ひ出」の中で、母への思いが歌われている。

母の乳は枇杷より温く
柚子より甘し
(以下、略)

『白秋全集2 童謡集1』岩波書店 1987年

母に抱かれて心が満たされていた記憶(があったかどうかわからないが)が枇杷の実とともにある。
短歌にもまた、枇杷が歌われている。

枇杷の木に黄なる枇杷の実かがやくとわれ驚きて飛びくつがへる

『白秋全集6 歌集1』岩波書店 1985年

普通なら枇杷の実の黄色を見ただけで、そんなにひっくり返るほど驚くこともなかろう。それほどまでに驚いたのは、この枇杷の実の輝きに、亡き母の存在を感じたからなのであろう。

そして、「ゆりかごのうた」の第二連、

揺籠の うへに、 枇杷の実が 揺れる、よ。

『白秋全集25 童謡集1』岩波書店 1987年

この枇杷の実こそ、揺り籠の中にいる赤ちゃんの母親、もしくは母親の乳そのものではないだろうか。

(岡田 耕)

☆「ゆりかごのうた」を ゆっこらんどのゆた〜とぶろぐ さんが歌われています。ご紹介します。 

【スキ御礼】北原白秋「あめんぼの歌」の6つの疑問


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