句碑*観音の慈顔尊し春の雨
大野万木
鎌倉 長谷寺の経堂の脇に句碑があります。
鎌倉長谷寺のご本尊は、十一面観音菩薩像。高さ三尺三寸、寄木造りで全身に金箔が塗られています。
大和長谷寺に次ぐ国内最大級の高さだといいます。
観音の名を称えれば、七難、三毒を逃れ、観音を念ずれば子宝に恵まれるという現世利益があるといいます。
また、観音は衆生の救いを求める声を聞きつけると、救うべき相手に応じて33種類の姿に変化してこの世界に現れ、苦難から救い出してくれるのだそうです。
すなわち、観音菩薩は今生きているこの世界で衆生を救済してくれるのです。
「慈顔」とは、慈愛に満ちたやさしい顔つきのこと。
句は、そんな観音菩薩を尊いと言っています。
作者の大野万木とは俳号で、衆議院議員議長国務大臣を務めた大野伴睦のこと。
「政治は義理と人情だ」という名言が残るほど義理と人情に厚い性格だったようで、象徴的なエビソードが生まれています。
そんな万木が観音菩薩のお顔の尊さを讃えながら、春の雨という季語を添えています。
句が、万木のいつの時代のどんな境遇でどんな心境下で詠まれたものか定かではありません。
その雨は、自由民主党の副総裁という地位を得ながら、総裁になれなかった悔し涙や悲しさの涙だったのでしょうか。
いいえ、春の雨には、二十四節気に「雨水」「穀雨」とあるように、草木、特に穀物の芽を出させるのに大事な雨、花を咲かせるにも大事な雨になります。
春の雨が土を潤して草木の生長を促すように、観音菩薩の慈愛に満ちたお顔がつくづく心や身に染みて、自らが勇気づけられるように感じられた、ということなのだろうと思うのです。
(岡田 耕)
*参考文献
OFFICIAL GUIDEBOOK 観音花浄土 鎌倉 長谷寺
【スキ御礼】山べに行かむ桜見に④〜長谷寺「寒緋桜」