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歳時記を旅する4〔夜の秋〕中*夜の秋淀みに消ゆる川の音

佐野  聰
(平成十年作、『春日』)

楊万里と同じ頃の日本では、西行(一一一八~一一九〇)が、京都の北白川の人々と歌会で何度か詠み合っている。

水辺で暑さを避けて涼を得るということを、「水の音に暑さ忘るるまとゐかな梢の蝉の声もまぎれて」と詠む。

北白川の水辺での車座になっての集いは楽しいものです。梢での蝉時雨も、流れる水の音にまぎれて、暑さを忘れてしまいます、と。

また、松風が秋のようだと北白川の人々が詠んでいることに対して、西行は「松風の音のみなにか岩ばしる水にも秋はありけるものを」と詠んで、秋の気配は水の声にもあるのだと言った。

いずれも『山家集』の「夏歌」の項に収められていて、秋の歌としていないところに、自然を愛する西行の繊細な季節感がある。

 句は、暑さの残る夜に川辺を歩いていて、淵のような淀みに来たら水の音が聞こえなくなったという。
その時、川の音に秋が訪れていたことに気づいた。

(岡田 耕)

(俳句雑誌『風友』「風の軌跡―重次俳句の系譜」令和二年七月号)

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