036 連載小説01 災害ボランティア⑦ テントから撤収
030 連載小説01 災害ボランティア① 序|ohshio_t (note.com)
031 連載小説01 災害ボランティア② 災難の伏線、出発の遅れ|ohshio_t (note.com)
032 連載小説01 災害ボランティア③ 勘違い、前泊も七尾市文化ホールではなかった|ohshio_t (note.com)
033 連載小説01 災害ボランティア④ 隘路に踏み込む|ohshio_t (note.com)
034 連載小説01 災害ボランティア⑤ テント村、七尾城山野球場に到着|ohshio_t (note.com)
035 連載小説01 災害ボランティア⑥ テント村で眠りにつく|ohshio_t (note.com)
かなり大きい雨粒の音は幸い、Tの眠りを妨げるものではなかった。しかしTにはもう一つ、一抹の不安があった。実は金沢駅から七尾線に乗る前、七尾駅で食べた弁当はその日に買った駅弁ではなかった。その前日、水曜日の夕飯として買ったスーパーの弁当だった。
しかしそそっかしいTは自分で買ったのを忘れ、家に買ってあったカレーライスをその日の夕飯にしてしまったのである。Tが失敗に気づいたのはレトルトカレーをサトウのごはんに盛りつけた夕飯を、きれいさっぱり平らげた後。Tはどうしたものかと考えあぐねたが、一食分の量をもったいないと思い、食べ忘れの弁当を冷蔵庫に入れたのである。
だからTは七尾駅のホームで一日遅れのスーパーの弁当を食べながら、これが原因で食あたりを起こし、体力を著しく消耗して肝心の災害ボランティアに参加できない事態も想定していた。しかしそうなったらそうなったで仕方ない。能登については災害ボランティアでの参加はあきらめ、別の関わり方をしようとTは思うことにした。
そして三月二十九日金曜日、Tについては一日だけになったテント村プロジェクトでの七尾災害ボランティアの日、Tは午前六時に寝袋から抜け出した。体調は驚いたことに万全。腹の調子も何も問題がない。しかしまだ雨がテントの布を叩く音がし、穏やかな暖かさでもなかった。
もちろん昨年の師走の君は放課後インソムニアの聖地巡礼や震災後初めての能登入りのような寒さではなかった。しかしTにとっては手袋や耳あてなどをしなければ、身体を冷やすには十分な寒さである。そしてTはまたしても失策に気づく。昨日の木曜日はテント村の七尾城山野球場に行くことだけに注力したため、この日の朝食の準備をしていなかったのである。
唯一持っていたのが大きめの和菓子。元々は災害ボランティアでの燃料補給にTは三個買ったのだが、七尾市文化ホールからの歩きで二個食べてしまったのである。だから残っていた一個をテントの中でTは食べた。これと昨日までの余力で集合場所の七尾市文化ホールまで歩かなければならない。
そしてTは考える。汚れたジャンパーとコーデュロイの姿で集合場所に行くのはいかにもみすぼらしい。そんなに見てくれを気にしないTだったが、災害ボランティアに関しては出来るだけ綺麗な装いで参加したいと思っていた。またTはそこに着くまで出来るだけ体力を消耗させたくなかった。
それというのもTは昨日、タクシーが七尾市文化ホールの敷地内に入る直前、セブンイレブンがあったのを記憶していたからである。つまり改めて七尾市文化ホールに行きさえすれば補給が出来る。そう楽観したTは寒さ対策と身体が濡れるのを防ぐため、テント村に着いた格好の上にレインウェアの上下を着こんだのである。
これでTは人前に出る格好が出来て、後は自分の荷物をザックとヤマノススメのバッグに入れる作業だった。拡げた寝袋を改めて畳もうとしたが、寝袋デビューのTが上手に畳めるわけはない。いい加減に丸めてザックに押し込む。それでもレインウェアの分が空いたので、Tは贈答品を入れても自分の物を二つの器に押し込むことが出来た。
テントは狭いので明るくなれば四方を見渡せる。忘れ物常習犯のTでもそんな犯罪が出来ないような広さ。Tは残ったものはマットレスだけと確認し、一宿の恩をもらったテントを後にしたのである。(大塩高志)
038 連載小説01 災害ボランティア⑧ 七尾市文化ホールに到着|ohshio_t (note.com)
039 連載小説01 災害ボランティア⑨ 七尾市文化ホールでのオリエンテーション、そして仮仮置き場
040 連載小説01 災害ボランティア⑩ 仮仮置き場へ
042 連載小説01 災害ボランティア⑪(終) 思い出を砕く
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