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088 メタで語る『ガールズバンドクライ』⑤

 次のアニメの題材にロックを選んだことで、テーマはロックにならざるを得ない。題材がポップスでテーマがロックなら、『【推しの子】』という格好の例がある。しかし偶像破壊というロックの志向があまりにもドラマチックなエンタメに消費されてしまい、反抗や反発と言うロックの思想になってないきらいがある。
 『ぼっち・ざ・ろっく!』はまずもって表現がロックだけど、ぼっちちゃんは確かにロック魂を持ってるから、間違いなくロックの物語で。しかしアニオリでロックの話を企画するとなると、ロック畑の人間の重要さが楽器の扱い方やライブハウスの画作り以外、話作りにも及ぶことになったはず。簡単に言えば各キャラクターの設定、具体的な物語の展開を生み出すにあたり、玉井健二さん本人やagehaspringsに所属しているアーチストに徹底的に取材したに違いないかと。今のアーチスト、バンドマンはどんな思いで活動してるのか、どうしてこの道を選んだのか、について。
 玉井健二さんは仕事を選べる立場なので、一緒に仕事をするには嘘のない物語にして欲しいこと、絶対要求したに違いない。シリーズディレクターの酒井和男もシリーズ構成/脚本の花田十輝も、特に井芹仁菜と河原木桃香の設定と劇中物語には相当気を使ったはず。その結果がアニメ『ガールズバンドクライ』、全13話の物語と思うのです。
 その根幹は二つ。一つはミネさんから桃香さん、桃香さんから仁菜ちゃんという影響を与える系譜。もう一つは仁菜ちゃんと親との関係。前者は私も遠藤ミチロウがTHE STALINで暴れてた時分、積極的にジャックス(タイトル画像)から影響受けたと語ってたこともあり、納得する要素でした。後者の件、第10話で仁菜ちゃんが父親を許して抱きつく場面は、そう考えると完全な創作とはとうてい思えない。取材したアーチストやバンドマンの幾人かに似たようなドラマがあったと考えるのが自然かと。
 もちろん正論モンスターと設定して狂犬として動かし始めた井芹仁菜、そのまま突っ走って欲しいと望むファンが一定数出ること、玉井さんもアニメのスタッフも見当ついたと思う。しかしそれはキャラ化で生きたキャラクターでないし、仁菜ちゃんが「間違ってない」と言い続けるためにはガルクラ自体も嘘の物語にしてはいけないから、取材した内容を出来るだけ取り入れようと心がけたはず。それが親を許すこと、仲違いした旧友と共通の思い出があったことと憶測するのです。つまりアーチストやバンドマン、優しくしたり優しくされたりする場がないと続けられないということで、その意味でもガルクラは音楽やってる人間の「今」と「生」を物語った稀有なアニメと思うのです。(大塩高志)

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