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「よいお年を」男子発言ノート4

「よいお年を」
この世にこれほど残酷な言葉があるだろうか──。

その人を好きになったのは年末だった。
飲みにでも行きませんか? とメールをすると、

「残念! その日はダメで。また来年! よいお年を!」

そっか残念。また来年か。年の瀬なんだなもう……っていうか、
えっ? 来年!? 年内まだあと10日以上あるんですけど!!!
全然、近日でまた別の日、調整しましょうよ、ねえ? え? え……?

私はすぐにでも会いたいのに、この人は私に会いたいって、全然ないんだなぁ。と思った。
来年で、10日以上先で、いや年始に会えるはずなんてもっとないんだから軽く2週間以上先? で、この人はいいんだ。と。

今まではただの年末の挨拶だったフレーズが、こんなにも哀しく突き刺さるなんて。
恋しているのは私だけだった。

はやる気持ちを炎にくべ、ボーボーと燃え上がった火柱を、まだまだずっと燃やすんだ、キャンプファイヤーの夜みたいに。と、心がざわめいていた。

けれど「また来年」とあっさりバケツ水。そこへさらに「よいお年を」で、火ダネがまだ残っていやしないか入念にかかとでぐりぐり。

ザ・鎮火。

後に残った黒い焼け跡には、だけどまだ、何かが少しくすぶっていて。

よい年が来るかなんてどうでもよかった。
今年彼とどう過ごせるか、だった。



▽音読版・佐藤有里子

▽マンガ版・つきはなこ


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