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  • 産業保健職のための疫学・統計

    産業保健職が集団のデータを分析する場合に知っておきたい知識をまとめていきます。

最近の記事

海外赴任者の産業保健のあれこれ

海外赴任中の方の過労自殺が疑われるというニュースを見て、海外赴任者の産業保健をどう考え、取り組むか?について思ったことを書いていきます。 産業衛生学会の研究会にちょこっと出入りしていた+実務で体制構築に関わったくらいなので、何か「もっと良いやり方ある」「ここは間違っている」などありましたら突っ込みいただけると嬉しいです。尚、自分自身が帯同家族として外国で育った経験があり、社員側への思い入れが強いバイアスが生じている可能性があることを先にお断りしておきます。 対象・海外赴任

    • 運動をすると、不健康になる?横断データ分析の罠

      この記事は、産業保健職が自社の健康診断データを分析するときに知っておくとよい概念について解説します。因果と相関の違い、横断研究とコホート研究の違い、基本的な因果推論の枠組みなどがテーマです。 単年度のデータを扱うときの罠産業保健職が健康診断のデータを分析するときに、一般的に最も入手しやすいのは業務で取り扱う健康診断データかと思います。 健康経営の取り組みのために、健康診断から会社の施策のプランを考える必要がある人もいるかもしれません。そんなときに、単年度のデータ分析だけを

      • 産業保健職のための疫学・統計学‐データの分析手法:重回帰分析-3重回帰分析の結果を理解する3(決定係数)

        重回帰分析の結果を理解するシリーズの最後の記事です。この記事では決定係数とよばれる指標について解説していきます。 モデルはデータをどれくらい説明できるか?ここまでの記事は、データに対して線を引くための数式(モデルと今後は呼びます)の結果、一つ一つの変数について推定値や95%信頼区間についての話をしてきました。 ここからは、モデル全体がどれくらいデータを説明できているかの指標として、決定係数と呼ばれるものについて解説していきます。決定係数はRの実行結果では、以下の青い資格で

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        • 産業保健職のための疫学・統計学‐データの分析手法:重回帰分析-3重回帰分析の結果を理解する2(標準誤差、95%信頼区間)

          一つ前の記事の続きです。この記事では標準誤差、95%信頼区間について解説していきます。 真の値と推定値標準誤差について理解するために、重回帰分析で推定している推定値はどのようなものかを、点に対する線とは違う視点から見ておきましょう。 私たちが分析しようとしているデータ(下図、手元のデータ)は、世の中のすべてのデータからのほんの一部を取り出してみています。重回帰分析は、この手元のデータから色々な制限の下、分析を行い、推定値($${\hat{\beta}}$$、ベータハット)

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        • 運動をすると、不健康になる?横断データ分析の罠

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        • 産業保健職のための疫学・統計
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          産業保健職のための疫学・統計学‐データの分析手法:重回帰分析-3重回帰分析の結果を理解する1(推定値、t値、p値)

          重回帰分析について解説してきたこのシリーズですが、この記事では重回帰分析結果の読み方について解説していきます。 状況設定あなたは人事労務担当者だとします。会社で実施している「職務満足調査」の結果を職位、年齢、経験年数で分析して、職務満足度を向上するための施策を行う対象を選定するために、職務満足度が低い集団を見つけたいと考えているとします。(注:この記事で利用しているデータは私が作成した架空のデータなので、ここでの分析結果も架空のものです) あなたなら、どのように調べますか

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          産業保健職のための疫学・統計学‐データの分析手法:重回帰分析-2調整を視覚的に理解する

          重回帰分析をイメージで理解していくための一連のシリーズの2本目の記事となります。ここでは、よく言われる「調整」が何を意味するかを見ていきましょう。 この記事のテーマとなるデータこの記事では、次の散布図を見ながら、重回帰分析による調整が何を示しているかを考えていきましょう。x軸に足の大きさ、y軸に学力テストの点数をプロットしています。きれいな右肩上がりのグラフですね。読み進む前に、このグラフから読み取れることをちょっと考えてみてください。 はい、もし、足が大きいとテストの成

          産業保健職のための疫学・統計学‐データの分析手法:重回帰分析-2調整を視覚的に理解する

          産業保健職のための疫学・統計学‐データの分析手法:重回帰分析-1データに線を引こう!

          この一連の記事は重回帰分析の仕組みについて解説するものとなります。重回帰分析の実際のやり方については、書籍やYoutubeなどで解説がされていることが多いので、このシリーズは「重回帰分析が何をしているか、イメージができる」ことを重点的に説明していきます。このシリーズを理解したうえで勉強すると、もっと深くわかるようになる!(かもしれません) 対象者は一般的な産業保健職を想定しております。 中学校の数学の復習さて、重回帰分析が何をしているかを理解するためには、中学校レベルの数

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          産業保健職のための疫学・統計学‐データの分析手法:t検定はやめておこう!3-t検定は産業保健領域では使えない

          ここまでの一連の記事で、t検定について解説してきました。この記事では締めくくりとして、t検定が産業保健領域では使えないということを実例を見ながら確認していきます。 状況設定これまでとは少し例を変えて、二つの教室の生徒の身長に差はあるかという問いを考えてみましょう。 教室Aと教室Bがあったとします。 教室Aと教室Bは高校3年生のクラスだったとします。 この二つの教室でクラスの身長の平均に差があるかを調べたいような場合を考えてみます。 この二つのクラス、それぞれ40人ずつ

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          産業保健職のための疫学・統計学‐データの分析手法:t検…

          産業保健職のための疫学・統計学‐データの分析手法:t検定はやめておこう!2‐t分布とt検定

          一つ目の記事では分布と正規分布の話をしました。ここからはt分布を利用したt検定について考えていきます。 それでは始めましょう。 t検定の導入状況設定 さて、もともとt検定は二つの畑の作物の収穫量に差があるかという質問に答えるために考え出された手法です(注1)。産業保健職として二つの集団の平均を比べたい(どちらの集団の方が平均値が多いか)という状況は多々あるので、学会発表でもたまに利用されているのを見ます。しかし、産業保健の調査研究の文脈で利用できる場合は相当限られている

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          産業保健職としてのコミュニケーションテクニックー正論とドアインザフェイス

          私が産業医としてトレーニングをする中で、指導してくれた先輩からいろいろなコミュニケーションテクニックを学びました。表面的になぞるだけだと大失敗につながったりもするのですが、身に着けるとうまくいくことも多いため、その中の一つ、言語化できるものを記事にしてみました。 (なお、そんな大した話でもないので以下のまとめを読んで、こんなの当たり前という感じる方は記事をそっと閉じてください。) まとめ:実行が難しそうな「正しいこと」をいうときは、もう少し実行が可能そうな代案もセットで提

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          産業保健職のための疫学・統計学‐データの分析手法:t検定はやめておこう!‐分布

          産業保健に関わっていると、二つの集団に差があるか?という疑問によく遭遇します。集団の平均に差があるかを調べるときに、t検定という手法を聞いたことがあるかもしれませんが、t検定は現実世界のデータを扱う産業保健職にとってはあまり必要のない手法(といいますか、使いにくい手法)です。 とは言え、t検定の仕組みを理解する過程で、統計の勉強がすごくできるので、まずはt検定がなにをしているのか、そしてそれが使えないということを理解していただく内容の記事を書いていこうと思います。 結構気

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          労働安全衛生法関連の法令の勉強は物理的に面倒なのでアプリを作ってみた!

          アプリはここ: 労働安全衛生法の勉強をものすごくしっかりとしたのは、労働衛生コンサルタントの資格試験のときです。筆記から頑張った組なので、勉強せざるを得なかったのですが、法令をしっかりと読み込むと、その精緻な文章、すごい!と思う一方、各法令の関連を紐解くのが、ものすごく面倒でした。 どういうことかというと、例えば、次の法令です。 一つの条文から、 ・労働安全衛生法第28条の2 ・労働安全衛生法施行令第2条 と二つの法令にリンクしています。安衛法第28条の2の方を見る

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          産業保健職のための疫学・統計学‐バイアス3:レングスタイムバイアス・過剰診断バイアス

          レングスタイムバイアスと過剰診断バイアスと呼ばれるバイアスについてをまとめて解説していきます。 (注:図の表記はリードタイムバイアスの記事で説明しています) レングスタイムバイアス9人病気にかかった人がいたとします。その人たちのうち死亡したのが5名という状況です。この時、病気による死亡率は9人中5人なので、55.6%となります。この状況で、スクリーニングを実施したとします。そうすると、スクリーニングで引っかかった人数は6人となります。この引っかかった人のみを対象として死亡し

          産業保健職のための疫学・統計学‐バイアス3:レングスタイムバイアス・過剰診断バイアス

          産業保健職のための疫学・統計学‐バイアス2:リードタイムバイアス

          スクリーニング検査、特にがんの早期発見を目標にして施策を実施するときに評価をどのようなものが適切だと思いますか? Q:生存期間で評価して、スクリーニング検査をうけた方が生存期間が延びたという結果になった場合、そのスクリーニング検査は積極的に行うべきでしょうか? 答えは「いいえ」なのですが、この記事はその理由を解説していきます。 状況設定図の読み方 次の図のように各々の人の病気の経過を考えましょう。図の左から右にかけて時間経過を表しています。最初に始まる点線部分は無症状

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          産業保健職のための疫学・統計学‐バイアス1:ヘルシースクリーニー効果

          産業保健職として施策を考える場合に、何かしらの介入を検討して、関係者各位を巻き込んで手をうっていくのは創造的でワクワクする仕事かもしれません。ただ、ヘルシースクリーニー効果と呼ばれるバイアスと我々の施策が常に関係があることは理解しておく必要があります。 状況設定あなたは某大手IT企業の産業看護職です。この会社、従業員のメタボが問題となっています。実際、ここ数年の健康診断のデータを見ると、継続的にBMIの平均値が増加しています。運動をしている従業員がとにかく少なく、休日も趣味

          産業保健職のための疫学・統計学‐バイアス1:ヘルシースクリーニー効果

          産業保健職のための疫学・統計学:基本2‐陽性的中率・検査前確率

          ここまでの話 感度・特異度という検査性能について先の記事で解説しました。ただ、感度と特異度が高いことがそのまま現実世界の検査、特にがん検診をはじめとする検査を行う理由にはなりません。この記事では、感度と特異度だけを見ていたらなぜあまりよろしくないかを見ていきます。が、 その前に、前回の記事のおさらいです。 何かしらの検査をして、もし、あなたに特殊能力があって病気を持っている人、持っていない人を見分けられる場合、その検査の性能(感度・特異度)を把握することができます。 た

          産業保健職のための疫学・統計学:基本2‐陽性的中率・検査前確率