産業保健職としてのコミュニケーションテクニックー正論とドアインザフェイス

私が産業医としてトレーニングをする中で、指導してくれた先輩からいろいろなコミュニケーションテクニックを学びました。表面的になぞるだけだと大失敗につながったりもするのですが、身に着けるとうまくいくことも多いため、その中の一つ、言語化できるものを記事にしてみました。

(なお、そんな大した話でもないので以下のまとめを読んで、こんなの当たり前という感じる方は記事をそっと閉じてください。)

まとめ:実行が難しそうな「正しいこと」をいうときは、もう少し実行が可能そうな代案もセットで提案する。

正論は実行可能性が伴うとき以外はなるべく封印したい


産業保健職、事業場で活動していると、どうしても医療知識という面では事業場の人より深く理解しているため、「~することがベスト」「~するべき」という状況はよく遭遇します。それが、実行が容易で、受け入れやすい方法であればよいのですが、様々な事情でそうでない場合も多いです。

例えば、腫瘍マーカーは測らないことがベスト、コロナは今も一部にはリスクが高いのでユニバーサルマスクをしましょう、化学物質のばく露があるので数億円かかる設備投資をしましょう。などです。

このような状況のときに、実行が心理的・経済的に難しいことを、真正面から事業場に主張したとしても、正論でぶん殴るみたいな構図になるため、事業場とのコミュニケーションスタンスとしては個人的にはあまりお勧めません。言われる方もあまりよい気はしないことが一般的だと思います。

医学的に正しいことと、人が実際にとる対策はイコールではないこと、コロナ禍でもHPVワクチンの問題でも、腫瘍マーカーの問題でも十分に私は経験しきました。

そのため、実行可能性や受け入れやすさなどを考慮した提案をすることが、実際にとられる対策という面でも働く人の健康に寄与しつつ、事業場のリスクを下げる方向に行くのかなとも思います。

バランスが大切なのだろうなと考えます。

でも正論をぶつけたい!

ときはどうすればよいでしょうか?

実現性が乏しそうだけど、医学的には正しい正論が存在する場合はコミュニケーションのツールとして利用することがおすすめです。

産業保健職の役割の一つとして、自身の専門性をもって事業場にアドバイスをするということが含まれます。そのため、医学的に正しいことを相手に伝えるというところは、その意味ではどんどん行うべきです。

ただ、最初に記載したように、実行可能性についてまったく考慮せずに、「~が正しいのでそうしてください」で終わってしまうと、そこで話が止まってしまい、状況の改善にはつながりません。相手の反応が、「それはうちでは無理ですね」で終わってしまうからです。

営業系の自己啓発書などを読むとかなり頻繁に登場するテクニックとして、ドアインザフェイスというものがあります。これは、「過大な要求を相手にして、次により小さな本来の要求をすることで、要求を受け入れてもらいやすくする」という方法です。

テレビショッピングとかで見る、「元値2万円、それが今から5分間、3000円でご提供します!」というようなあれです。最初から3000円で売る気のものを最初2万円と提案して、自ら値段を引き下げる手法です。

話を産業保健に戻すと、正論として産業保健職が主張したいことは、事業場の担当者や背策にかかわる関係者には理解はしておいてもらいたいケースが多いです。

そのため、医学的に正しい事実は主張してしまいましょう。ただし、その主張は、教育的な意味を持たせるという他に、ドアインザフェイスの「最初の過大な要求」という役割も持たせてみてはどうでしょうか?

そうすれば、事業場担当者や関係者に本来必要な対応や知識を伝えつつ、「ただ、こんなのできないですよね?なので、こういう方法はどうでしょうか?」という形でもう少し、現実的に、働く人の健康を守る背策について前向きに話し合う余地が生まれると考えます。

以上、コミュニケーションのテクニック、正論とドアインザフェイスについての記事でした。

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