大穂汽水_暁光堂

暁光堂という2019年創業の小さな出版社をやっています。 俳句の本を出版しています。Amazon associate https://gyokodo.com

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最近の記事

文学フリマ東京36の備忘録

5月21日に開催された文学フリマ東京36に参加しました。 備忘録として、よかったことと反省点を書いておきます。 よかったこと①新刊『杉田久女句集』&『草雲雀』を販売できた ずーっと前からチクチク準備していた杉田久女句集。 ずーっと前から準備をしていたはずなのになぜか前日に本が到着するというギリギリっぷりでしたが、なんとか間に合いました。 今回、杉田久女句集という名前ですが、補遺として句集未収録の作品も全部入れてるので、ほぼ全句集です。久女の句を紙で沢山読みたい、という

    • 新刊のお知らせ『草雲雀』柳原極堂

      『草雲雀』 新刊のお知らせをしたい。 「ほとゝぎす」を創刊した俳人、柳原極堂の『草雲雀』を復刊した。 「ほとゝぎす」を創刊したのは、正岡子規でも高浜虚子でもなく、柳原極堂である…… ということを知る人は少ない。その句を読んだ人はもっと少ないと思う。本句集では絶版となっている柳原極堂の句集『草雲雀』より全句を収録した。 春風や船伊豫に寄りて道後の湯 温泉に馬洗ひけり春の風 うつくしき人に逢ひけり春の風 手のひらにいただく春の光哉 温泉帰りの手拭白し夏燕 大なる夕

      • 越智友亮『ふつうの未来』

        名句はホームランに似ている。 柵を飛び越え観客席に飛び込んでくれば、どんな打球であってもホームランになる。そんな風に名句は問答無用に名句であると、僕は思っている。 グラウンドに落ちてしまった打球が、なぜホームランにならないのか考えるのは不毛だ。同様にどんなに技巧的に優れた句があり優れた発想があったとしても、それがなぜ名句にならないか考えるのも不毛だ。 ホームランだけがホームランなのである。 名句が飛び越えるべき「何か」とは、例えば、口に出しやすいリズムであるとか、句の覚

        • 中村安伸『虎の夜食』

          中村安伸『虎の夜食』(邑書林 2016)。 中村安伸さんとは知り合って久しい。初めてお会いしたのは、当時所属していた早稲田大学の俳句研究会でひらかれた句会の席だったと思う。学生に混ざり、今と変わらぬ柔和な笑顔で句会に参加していた印象が強く残っている。 当時の中村さんがどのような句を作っていたかについて、残念ながらはっきりとした記憶はないが、その分句集を読む愉しみを得られた。 句を引く。 睡るための翼の欲しき五月かな 書物の川に書物の橋や夕桜 ほとばしるもののひとつに春

          飯田冬眞『時効』

          飯田冬眞、『時効』(ふらんす堂 2015)。不穏なタイトルと裏腹に、表紙の落雁のような手触りが楽しい。 時効なき父の昭和よ凍てし鶴  冬眞 海鳴りや父の帰らぬ雛の家 しばれたる父の瞳に白樺 桃の花腕組む父の待つもとへ 序文で触れられている通り、この句集の一つの主題は「父」である。 表題句をはじめ、印象的な父の句が並ぶ。 時効なき父の昭和よ凍てし鶴  冬眞 あらためて表題句。時効というものは、あくまで社会をそれなりに機能させるためのものであって、出来事そのものが消えるも

          飯田冬眞『時効』

          下村槐太の俳句

          新刊の紹介をしたい。 下村槐太俳句全集 Amazon Kindle、ペーパーバック、の2種類で読むことができる。 下村槐太は明治43年、大阪市に生まれた。 工場経営者の父を早くに喪い、中学を中退して家計を助けていた槐太だったが、15歳の頃に自宅の近所で、岡本松浜の「寒菊」が創刊される。これをきっかけに槐太は松浜の指導を受け、俳句の世界に足を踏み入れた。 無職日日枯園に美術館ありき つみふかき女人と梢の雪を見し 露葎眺むることを祷とす 夜の霜いくとせ蕎麦をすすらざる

          下村槐太の俳句

          岩田奎『膚』

          岩田奎の第一句集『膚』(はだえ、と読む)。その名の通り肌に関する句が印象に残った。もっと広く言えば、外部と内部、それらを隔てるもの、に関する句。 たとえば、 鶯やほとけを拭ふ布薄き 仕舞ふときスケートの刃に唇映る しりとりは生者のあそび霧氷林 雪兎昼をざらざらしてゐたる 寒鯉を暗き八雲の中に飼ふ ただようてゐるスケートの生者たち この句集の表紙に描かれているように、人間は薄皮一枚を境にしている血袋のようなものであるけれども、それは目に見えるものではないし、そんなことは普段

          不器男の三ヶ日(「里」1月号_川島ぱんだ)

          正岡子規に「鍋焼きうどんを7杯食べてうどん屋の親父に怒られる」という逸話がありまして。率直に言えば、今までホラ話だと疑ってかかっていたのですが、案外そうではないのかものしれない。と、「里」1月号を読みながら、思い直しました。 巻頭エッセイに川島ぱんだ氏の「不器男の三ヶ日」。正月らしい、ゆったりとした記事。芝不器男記念館に所蔵されている100年前の不器男の日記を読み解く内容で読み応え十分。 英語で書かれた、当時19歳の不器男の日記は正月からはじまる。その日記によれば、元日、

          不器男の三ヶ日(「里」1月号_川島ぱんだ)

          世界もまた。(『成分表』上田信治)

          上田信治さんのエッセイ「成分表」の書籍化の知らせを聞いて喜んだ人は多いと思います。私もその一人です。俳句同人誌「里」、そしてWebサイト週刊俳句に掲載されたエッセイを集めたこの本。 極々私的な、あるいは個別の内容が、なぜか一種の普遍性を獲得する瞬間が、この世界には確かに存在していて、なかなか、普通に過ごしていると、そういった瞬間に出会うことには難しい(というか、気づかない、あるいは忘れてしまう)のですが、この本には上田さんが、“カラスのようにコツコツ集めた”、輝く瞬間が沢山

          世界もまた。(『成分表』上田信治)

          原石鼎のYO・YO

          原石鼎の全句集は、なかなか手ごわい一冊なのである。 雑誌や新聞などに発表された全句がおさめられている。 その数およそ8000句。 名作、佳作、駄作、迷作の数々が詰まっている。 原石鼎 YO・YOその中でも特に異彩を放つのはYO・YOを詠んだ一連の作品群であろう。 YO・YOに銀の二筋春近し YO・YOの七色どつと春近し 二月のある夜YO・YOに戯れし YO・YOや春待つ雪の降る日にも ヨー・ヨー・テー春の情をつむぐらん 朧夜の机の下のYO・YO箱 念のために申し上げて

          鶴料理る

          杉田久女全集を読み進めていると、不思議な句に出会った。 盆に盛る春菜淡し鶴料理る 杉田久女 読み方は、鶴料理(りょうり)る? いや、鶴料理(つく)る。 鶴の包丁なる語正月に宮中で鶴を捌く行事として、鶴の包丁なる季語がある。 ↓このような行事。 参考:鶴包丁図 http://jmapps.ne.jp/tsuruga/det.html?data_id=175 しかしながら、当該の句の前後は久女の身の回りのものをモチーフとしたものが多く、急に宮中のことを詠むというのは考

          子規の利き手について

          子規の利き手についての議論を某所で見た。 ちょうど回答になりそうな文章が手元にあるので、備忘もかねて以下に記す。 子規の利き手子規と同郷の友人であり、雑誌「ほととぎす」の創始者である柳原極堂が記した『友人子規』には以下のような文章が書かれている。  子規は幼少の時から左利きで、左手で食事をするため外祖父観山にきびしく戒められたこともあり、学校へ弁当を持ち行くと教師から注意され、弁当は右手で食べよと八釜(やかま)しく言われるので遂には学校へ弁当を携帯せぬことになってしまった

          子規の利き手について

          全句集という言葉

          全句集の編纂にに作者本人が参加することは少ない。 殆どの場合、全句集は没後の刊行となるからだ。 作者周辺の残された人々が、全句集編纂の責を負う。 その作業には、多大な体力の消費と判断が必要となる。 ・雑誌や新聞で発表された俳句だけを収録すべきか? ・それとも刊行済みの句集から収録すべきか? ・ノートに書き留めてあっただけの俳句も収録すべきか? ・一文字だけ違う句が複数発表されていた場合、どの句を優先すべきか? ・わずかな違いであっても、全部の句を収録すべきか? ・未発表句

          全句集という言葉

          「吉岡禅寺洞俳句全集」刊行記念対談のお知らせ

          暁光堂俳句文庫『吉岡禅寺洞俳句全集』刊行を記念して対談動画を配信します。 『開墾する人 〜知られざる吉岡禅寺洞の世界〜』 出演:   俳人・生駒大祐    暁光堂店主・大穗汽水 【吉岡禅寺洞】 俳人。1889年福岡県生まれ。学生時代から新聞の俳句欄や雑誌への投句を続け、ホトトギス同人となる。後に口語・自由律・無季俳句に傾倒。1936年、日野草城、杉田久女らと共にホトトギスから除名処分を受けた。その後、自ら創刊した雑誌「天の川」にて、芝不器男や富安風生、横山白虹、篠原鳳作な

          「吉岡禅寺洞俳句全集」刊行記念対談のお知らせ