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地球外生命体と、おかしな予約の電話と、偏屈なギャラリーの主人の話。

「初夏にかけて出まわる初ガツオ。秋が旬の戻りガツオに比べると脂が少ないため、カロリーが低く、さっぱりと食べられます。また、血合いの部分には、鉄分が豊富に含まれていますよ♪」
悪気がないのはわかっています。未来さん。(あすけんのアイドル未来さん)鰹のたたきに恐怖を覚える私に朝から素敵なメッセージをありがとう。血合いって・・・。

自分が以前書いたものを引用できるっていうのを、昨日初めてやってみたらできたので、調子に乗って今日もやってみた。みんなどうやってるんだろうと思ってた。

むかーし、昔、あるところにそれはそれは作品とアーティストを愛してやまないギャラリーがあったとさ。そこの主はすこーし世間ズレした変わり者の女じゃが、それでもギャラリーに関しては、たいそう一生懸命やっておった。

ベラ(「哀れなるものたち」アラスター・グレイ)がシェイクスピア風に手紙をかくシーンがあったので、私も真似して昔話風に書き出してはみたものの、彼女が感じたようにまどろっこしいので、ここで終わり。

企画ギャラリーなので、基本、私が企画したものしか企画展はしない。だから自分がいいなと思った作家や作品、もしくは持ち込みで個展をやりたいと言ってきた人にも、作品を見せてもらってから企画展をやるかやらないか決める。偉そうに言ってるわけではなくて「プロになりたい人を応援する」っていうコンセプトを持ってたし、個展に関わる経費は全てこちらもちな訳だし、まあ、日頃はいい加減な私でも、それに関しては本気だ。

プレデターいそうな色。
じゃなくても地球外生命体が寄生している。

ある日問い合わせの電話があった。
「そちらで個展をやりたい方がいるのですが、ええ、私はその代理人です。」
代理人付きの作家?ほう。
「それで、本人は「かくかくしかじか」というジュエリーアーティストで、絵画の方でも二科展なんかにも入選しておりますので、ご存知ですよね?」
「・・・・。はあ。」
「本人はあくまでもアーティストとして活動していきたいとの気持ちを強く持っていますので、デパートなどでの催事として開催するのは嫌だと。そういう事ですのでそちらのギャラリーの企画で個展をさせていただきたいのですが。」
「はあ。」
「つきましては、個展の会期は9月ごろで、2週間。個展の会期中は作家に控室を用意していただきまして、あっ、作家のお世話などはこちらのスタッフでやらせていただきますので、ご安心を。何分、知名度がある方ですので、そこら辺はよろしくお願いします。」

ここまで黙って聞いていられたなんて、そんな自分を褒めてあげたい。
「ちょっと待って、その人自体は知ってるけど、その人のジュエリー作品とは見た事がないので、とりあえずポートフォリオとか作品の写真なんかを送ってもらえますか?それからでないとなんとも言えません。」
「はっ?「かくかくしかじかさん」ですよ?」
「だから?」
「いえ、そんなこと初めて言われたものですから。」
「だから?」
「旦那様が「かくかくしかじか2」っていう事もご存知ですよね?」
「だから?」
「会期中はその方もそちらにお伺いしますので、ギャラリーの方にも色々とメリットがあるかと思いますが・・・。」
「作品の写真を送ってください。話はそれからになります。作品が気に入ればこちらからご連絡しますので。」
「・・・・・。少し、お時間をいたただきたいと思います。」

この話が本人に伝わったかどうかは知らない。もちろん作品の写真は送ってこなかった。オレオレ詐欺的な悪い冗談か?とも思い、代理人が明かした情報を調べてみたら、そのエージェントは確かに存在した。しかし、こんな人を雇ってていいのだろうか?それとも本人にとって、自分がわざわざ言うまでもない事を、的確に代弁してくれる代理人ということで捉えていいのだろうか。

舐めてるよね。きちんとしたギャラリーで(どこで聞いたか、どこで知ったか知らないけれど、そこのところはありがとう。)アーティストとして企画で個展をしたいなら、当たり前のことでしょ?その人の名前を出せばホイホイ「いいですよ、やりますよ。」とでも言うと思ったんだろうか。(まあそんな口ぶりだったけれど。)「今までそういうこと言われたことがないので。」っていう所も引っかかるが、いろんな人がいるように、いろんなギャラリーがあるわけだし、他のギャラリーのコンセプトとか知らないし、どうでもいい。

後で、この話をギャラリーによく来る、ちょっとお姉さんの作家に話したら「ざんねーーーん、「かくかくしかじか2」に会えたかもしれないのよねぇ。別にファンじゃないけど、実物、見てはみたかったはよねえ。うわあ、それ、よく断ったわねえ。」と言われた。そこ?そんなギャラリーでいいのか?
「でも、ふふふ、私「かくかくしかじか」が個展できなかったところで、個展できてるのね。ある意味、嬉しい。」とも言ってニタっと笑った。

やっぱり何かが寄生している。

勘違いさん。あなたの名前は多分、ほとんどの人が知ってるでしょう。あなたの旦那さんの名前は、もっとみんな知ってるのでしょう。でも、申し訳ないが、私にとってはどうでもいい事だから、それより作品を見せてって言っただけの事。
初めは「路傍の石子」でも「名無しのゴン太郎」でもなんでもいいんだよ。本人のことは作品の後でいい。ホント、偉そうに聞こえたら申し訳ないし、傲慢に聞こえるかもしれないけれど、作品見たら大体のことはわかる。そう信じているんだよ。そう信じてやってきたんだもの。そこだけは自分の思うプロでいたいと思ってる。(ここでスガシカオのテーマ曲が流れる。とか余計なこと言うから、どこまで本気かわからないって言われるんだろうな。照れ隠しです。)

まあ、後から冷静になって考えたら、有名人が個展をやったギャラリーっていう事になれば、うちで企画する作家の人たちのハクにでもなったかもしれないのかなあとかも思ったりもしたけど、いや、よくわからないが、もしもそう思った野心家の作家がいたとしても、やっぱり、無理。そう思うならそういうギャラリーを探すといい。私には無理。

公募展を始めた時も、美術大学の大学教授とやらがきて「審査員は誰がやるの?」と聞いてきた。
「私です。」と言ったら「それはそれでもちろんいいとして、謝礼を払ってでも名前がある人に加わってもらったほうが、ハクがつくんじゃないの?」(僕みたいな)と言われた事がある。
何言ってんだ、賞金も出さないくせに。あなたに謝礼を払うくらいなら、それも全部作家の賞金にプラスしますよ。大学教授になるってことは、すごい努力とか才能とかお持ちなんでしょうけれど、私、別にあなたのこと信用も尊敬もしてもないし、作品も好きじゃないです。と、これは心の中で囁いてみた。

どうしてなんだ。ギャラリーを開いた時にも「私に挨拶もなく、画廊を始めるなんて。」と、文句を言いに来た老舗の画廊の親父がいた。うら若き乙女だった私は、うら若いがゆえに「何か法律上、そういった決まりでもあるんですか?」とお尋ねした。ら、プリプリ帰っていった。

もちろんお気づきかとは思うが、犯人はこの照明。
うーん、遠くから見るときれいだけど必要?なんだよね。

でも、その話には後日談があって、その人は亡くなる前に私に謝りにきた。
「あの時は、自分の画廊の経営が難しくて、なんだか、若い女性が意気揚々と企画ギャラリーを始めたものだから、情けないことに嫉妬してしまった。おまけにうち(このギャラリーは作家が賃料を払って個展をやる方式の貸しギャラリーだった。)で個展をやってた作家が、オタクの企画で個展をやってみたいと言って来たものだから、頭にきてああいうことを言ってしまった。本当に失礼したとずっと思っていた。」と。
この人のために、作品が好きな人に悪い人はいないんだ。って言わせてもらっていいよね?

私が考えるハクとは、プロになりたいと頑張ってる作家を、国内外のアートフェアに参加させたり、その作家に見合った環境の場所に滞在させて経験させたり、個展を開くことでそれに関するいろいろを感じてもらったり、とにかく作品作りの糧になるようなことを経験してもらうことで、その経験や知識が作家自身のハクになったらいいなと思っているし、実際、そうしてきたつもりだ。

おっと、長くなりすぎた。なぜだか、これ関係の話になると熱くなってしまう。
関係ない人には面白くない話かもしれないな。
でもほら、映画でも2時間ドラマでも、なぜだかアナ・ウィンターみたいなボブヘアで、ミニスカートのピッタリしたスーツ着て、ピンヒール履いてますみたいな、ステレオタイプの画廊の女性オーナーとか、結構よく出て来たりしない?
おまけに姑息で計算高く描かれてたりする事も多くて、どちらかというと犯人側チームだったりするでしょ?まあ、それはそれでカッコイイのかもしれないけれど。
いやいや、違うから。
絶対とまでは言い切れないけどね。へへっ。




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