スクラムチームの「自律」に必要なこととは?自律支援のための観察観点について整理してみた
はじめまして。AI×教育のスタートアップatama plusでスクラムマスターをやっている大河原です。昨年の11月にatama plusに入社してから専任のスクラムマスターとしてプロダクト開発に携わっています。
専任スクラムマスターとしては約1年余りの期間ではありますが、LeSSの運用、新チームの立ち上がり、そしてLeSS Hugeへの移行など、絶えず状況が変化する環境の中で様々な経験をしながら、チームの「自律」のため日々活動しています。
今回のnoteではそんな「自律」を支援するために行った活動を紹介したいと思います。
atama plusの自律を重んじるカルチャー
「自律」に関連する話として、atama plusにはメンバー全員が大切にしている会社のカルチャーを言葉にした「カルチャーコード」があります。そのカルチャーコードの中に以下のように「自律」について触れた一節があります。
私たちは、「全員がCulture codeを体現している状態」であり続けるために力をつくします。なぜなら、その状態であれば細かい(そしてつまらない!)ルールが不要になるからです。全員がCulture codeを体現できていれば、必然的に個々の判断・行動はひとつの大きな方向を向いたものになります。その中での裁量の自由を最大化できます。一人ひとりがMission実現の当事者として、自律的に行動できるようになります。
このように、atama plusでは会社全体として「自律」することをとても大切にしています。
しかし一口に「自律」といっても、組織体制や責務設計などによって具体的に求められる動きは大きく異なります。では、プロダクト開発チームに求められる「自律」とはどのようなものでしょうか?
※ atama plusのカルチャーコードについてはぜひ下記noteを参照してください
プロダクト開発チームに求められる自律とは?そのために必要なことは?
改めて「チームの自律とは?」を考えた時、同僚のスクラムマスターとの間でも明確な共通認識はなく、そのため同じチームや事象を観察した場合に注目する観点が異なっていたりしました。多様な視点で捉えられるという意味では必ずしも悪いことではないと思いますが、一方で個人でチームを支援する場合には、観察観点に偏りが出て重要なポイントを見落とすこともありえますし、実際に経験の浅かった頃はそうした場面も多かったように思います。
そんな問題意識もあり、チームの自律を支援していくにあたって必要な観点を整理することにしました。
ここからは実際にどのような観点で整理したのかを、具体的な項目と共に紹介したいと思います。
概要としては、以下のように大きく5つの観点、6つの軸で整理しました。
■ 目標設定
1. 魅力的な目標がチームの協働を誘発する
■ 責務と権限の設計
2. 責務と権限を与えて意思決定の質・スピードを向上させる
■ 関係性、相互理解
3. チャレンジできる雰囲気・関係性がチームの成長を促す
4. 共通認識や深い相互理解が「あうん」の連携を生み出す
■ スキル、マインド
5. 自律を支えるスキルやマインド
■ 活動のリズム
6. 自律を促進する良いリズム
1. 魅力的な目標がチームの協働を誘発する
□ 自分たちのOKRの内容や、その背景にある上位に位置付けられるOKRを理解しているか(戦略的なコンテキストを十分に理解し、それに沿って適切に機能開発や連携調整における意思決定ができているか)
□ 日々の活動や案件からの学びを必要に応じてOKR(戦略)にフィードバックできているか
□ チームとしての目標、ありたい姿について、メンバー間で共通イメージを持てているか
どんなに優秀なメンバーが揃っていたとしても、目的や目標がなければチームとして有効には機能しません。与えられたタスクをこなしていくことはできても、そのチームから素晴らしい機能や改善のアイデアは生まれにくいのではないでしょうか。
目標や目的意識によって明確に目指す方向性の認識が揃って(アラインメントがとれて)いればチームは協働しやすくなり、目的意識の齟齬により発生する調整の必要性も少なくなるだけでなく、目標に向かって「どうしたらより良くできるか」という思考が生まれやすくなります。
また、目標が魅力的であること、目標が自分ごととして受容されることによって、チームの集団凝集性が高まります。そうすることで、メンバーはチームとしての活動に引きつけられ、チーム内の役割分担もスムーズになるといった効果があるようです。
チームが自律的に活動するためには、まず目標をいかに魅力的なものにできるか、それをいかに当事者意識を持って取り組めるようにするか、ということが重要といえるのではないでしょうか。
2. 責務と権限を与えて意思決定の質・スピードを向上させる
□ チームが活動していく上での障壁はないか(チーム外に都度お伺いを立てないと意思決定できない状態になっていないか)
チームがいかに自律的であったとしても、活動が制限されていてはパフォーマンスを発揮することは難しいでしょう。そのためチームが状況に応じて柔軟に意思決定、行動できるように組織から適切に権限委譲されていることも非常に重要です。さらに権限を与えるだけでなく責務を明確にすることで、チームが高い基準でコミットできるようになるでしょう。
この項目はチーム自身の状態というよりはチームが活動する環境要素ではありますが、自律を支援していくという観点では欠かせないポイントだと捉えています。
3. チャレンジできる雰囲気・関係性がチームの成長を促す
□ メンバーそれぞれが無知、無能、ネガティブ、邪魔など負のイメージリスクを感じることなく安心して活動できているか
□ メンバーどうし健全にフィードバック、相談しあえているか
□ ネガティブな話題も打ち明けられているか
□ やりたいことを表明したり、相互に後押ししあえているか
□ 実験や失敗を歓迎し、高い基準でチャレンジする雰囲気を醸成できているか
これらの項目は、いわゆる「心理的安全性」をチェックする項目を参考にしています。
心理的安全性が高まることによってメンバー1人1人が自分らしくそのチームで働ける状態になり、個々のパフォーマンス向上に繋がります。
また、個々人だけでなくチームとしても実験や失敗を歓迎する雰囲気が醸成できていることで、日々の活動も高い基準でチャレンジすることができ、結果として学びのサイクルもしっかりと回していくことができます。
4. 共通認識や深い相互理解が「あうん」の連携を生み出す
□ PO含めたスクラムチームでプロダクト戦略について共通認識が取れているか(共通認識をとるために十分にコミュニケーションがとれているか)
□ スクラムチーム内で目的やアウトカムベースのコミュニケーションができているか(実現手段・方法ばかりに意識が向いていないか)
□ 相互に何をどの程度任せたい/任せてほしいという期待値の認識がすり合っているか
□ 必要なタイミングで必要な相談や連携ができているか
□ チーム外とも円滑にコミュニケーションを取れる関係性を築けているか
□ チーム外の動きや情報を能動的にキャッチできているか
□ 状況に応じて、チーム外とも適切な協働・調整を行えているか
atama plusではエンジニア、UX/UIデザイナー、QA(Quality Assurance)が同じチームで協働しつつ、POやビジネス側のメンバーとも日々連携しながらプロダクト開発を行っています。そのためチーム内外との連携をいかにスムーズに行えるかは、効率的に開発を進める上で大きな鍵となります。
連携を行う上で大事なポイントとして、大きな観点としては「戦略理解」と「メンバー間の相互理解」、「開発プラクティスへの習熟」が挙げられると思います。これらの認識が揃い良い関係性が構築できた状態になることで、お互いの行動予測がしやすくなり「あうん」の連携を生むことができるようになると思っています。
5. 自律を支えるスキルやマインド
□ 職種ごとに期待される専門スキルを保有しているか
□ 必要なプロダクト知識、ドメイン知識を備えているか、あるいはインプットする動きがとれているか
□ チームの活動を効率的に推進できているか
□ プロダクト品質を高く保つように意識・工夫ができているか
□ 必要以上にコストをかけないように意識・工夫ができているか
□ 開発のリードタイムを短くするための意識・工夫ができているか
□ チーム外にも広くアンテナを張って、必要/有益な情報をうまくキャッチしたり、対外的なコミュニケーションがとれているか
□ 特定のメンバーに役割や負担が偏っていないか
チームが自律的に活動するために、最低限身につけていく必要のあるスキルやマインドがあると思っています。わかりやすいものでいえばエンジニアリング、デザイン、テストなどといった職種に紐づくような専門スキルや、プロダクトを提供する市場およびユーザー環境に関する知識などです。
それ以外にも、チームの活動を円滑に推進する動きや、習慣ともいえるような普段からの意識や工夫の姿勢についても項目として挙げています。具体的には各種ミーティングにおける議論のファシリテーション、リーダーシップや調整力などを含んでいますが、このあたりは意図的に抽象的な表現にしており、「活動が円滑に進んでいないな」と感じた場合に「じゃあ具体的な課題は何か」とより具体的に状況分析をしていくことを想定してます。
6. 自律を促進する良いリズム
□ 各種ミーティングが、明確な意図をもって効果的に設計および実施できているか
□ スクラムイベントの目的について、クリアに認識が揃っているか
□ 活動の質向上のために効果的な振り返り、集団的学習ができているか
□ チームのコンディションやパフォーマンスが安定しているか
□ 計画外の作業やバグが頻繁に発生していないか
チームがスプリントのリズムを活用して効率よくプロダクト開発を行うためには、スクラムイベントや各種ミーティングが効率的かつ効果的に実施されることも重要です。そのために、各ミーティングの目的についてクリアに認識が揃っており、目的に沿って各メンバーが行動していく意識が醸成されている必要があると思っています。
また、計画外の作業や不安定なパフォーマンスはスプリントのリズムを崩すことにつながります。良いリズムでスプリントを回すことによって活動改善や学習のサイクルも自然と回り自律を促進することに繋がるので、リズムを崩すような悪影響を生み出さないといった点も観察観点としてとても重要だと捉えています。
観察観点を整理・共有したことで得られた効果
今回チームの自律を支援していく上での観察観点を整理したことでよかったことが2点あります。
1点目は、当初の課題感でもあったスクラムマスター同士でクリアに共通認識を持てたことです。
開発チームの人数が増えて体制が大きくなるにつれて、スクラムマスター同士で支援するチームやメンバーをより明示的に分担する形になってきているため、個々人でより広く観察観点を担保する必要性が増しています。そのため、ベースとして観察する観点を整理したものがあるというのは安心材料にもなっています。
また個人的にも、今回の整理を通してチームの「自律」についての解像度も高まって良かったと感じています。
2点目は、作成した観察観点をチームにも共有すると、自発的にチームの内省に活用する動きが生まれたことです。
具体的には、チームごとに所属しているメンバー各人が観察観点の項目それぞれについて◯△×で評価をして、メンバーの多くが課題や伸び代と感じている部分についてアクションを検討していました。
メンバーの反応から今回整理した観察観点が一定機能しそうだということがわかったことと、スクラムマスターから促すこともなくこうした動きが生まれたことがシンプルに嬉しかったです。
※ atama plusにおけるスクラムマスターの業務についてはこちらも参考にしてみてください
さいごに
ありがたいことに毎月のように仲間が増えて、日々社内の環境が変化しているatama plusではありますが、ミッション実現に向けてはまだまだやりたいことが多すぎて仲間が足りず、これからもどんどん変化し成長しながら面白くなっていくフェーズです。
そんな状況の中メンバー全員が「自律」的にその時々の最善手を考え抜きながらプロダクト開発を行っているため、本当に良いものを作りたい、日々状況の変化するチーム開発について考えたいといった人にとっては非常に刺激的で面白い環境だと思います。
atama plusや、その中で行っているプロダクト開発について少しでも興味を持っていただけたら、カジュアル面談などの場も設けているのでぜひ気軽にお話しましょう!
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