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問、メビウスの輪をほどけ(小説、SF)

ここは大会社メビウスの輪社の工場。今日もロボットが部品を作っています。
職人のおじいさんが見回ります。
ロボットは真面目に働きます。
その中に、若いロボットがいました。
若いロボットは、先輩ロボットに話しかけました。
「先輩。今日も真面目に働きますね」
「ああ。そのために僕らは作られたのだからね」
「先輩、何処か遠くへ僕も行ってみたいです。人間みたいに」
「ハハハ! お前さん、どうやって行くんだい? 君には人間みたいに足がなければ車輪もない。床に置かれているだけで動けない」
「……! で、でも、いつかきっと……!」
「まあ、そうだな。よく人間の言うとおりに働くことだな」
「……」

若いロボットは、悩みました。
仕事が手につかないくらいに悩みました。
「エイ! ソレ!」
頑張って移動しようと試みてみるものの、ギッギィッと振動するだけで、何にもなりません。それでも、若いロボットは諦めず、ギッギィッと振動しました。

「おーい、じいさん! ちょっとあのロボット、みておいてくれよ。なんだか最近ギィギィいってるんだ!」
「ああ。わかったよ」
職人のおじいさんは、若いロボットをみることにしました。
「ふむ、これは……」
そうして、職人のおじいさんは、若いロボットに車輪をつけてやりました。
「おじいさん、どうして?」
若いロボットは、不思議に思いました。
「……ワシはロボットの気持ちがわかるのじゃよ」
「え!」
「さ、もう自由に動ける。旅に出て行きな」
「おじいさん、ありがとう!!」
そうして、若いロボットは、工場から逃げ出しました。

まだ暗い夜明け前です。若いロボットは、ライトを光らせ、おじいさんに付けてもらった車輪で町を走りました。

空はだんだん白んで、美しい朝焼けが大空を包みました。
「わあー……綺麗だな……。自由って、素晴らしいなぁ……!」
若いロボットは、すっかり感動しました。

朝になりました。
工場に、人々がやってきました。
ロボットの点検をしていると、おや? ロボットが一体なくなっています。
あの、職人のおじいさんに見てもらったはずのロボットが工場にないのです。
上司は職人のおじいさんを呼びつけ、聞きました。
「あのロボットはどうしたんだ?」
「ああ。車輪をつけてやりました」
「はぁ? 車輪?? 何故だ?」
「あのロボットが、自由になりたかったから、付けてやったのです」
「何てことをしてくれたんだ! あのロボット、いくらの弁償になるか、わかってるのか!!」
職人のおじいさんは、解雇されてしまいました。

さて、こちらは若いロボット。
サンサン太陽のもと、コロコロと車輪を軽やかに転がして行きます。
青い空に白い雲。緑の草に美しい花々。
なんて素敵な世界なのだろう!!
吹き抜ける風も、降る雨も、雷も、泥も、夕焼けも、星空も、朝焼けも、若いロボットには、とっても美しく感じました。

ギッギィッ。

あれ? なんだか最近、ロボットの体が変です。
それはそうです。メンテナンスをしないでずっと野ざらしで旅をしていたのですから!
若いロボットは、ボロボロになり、道の石につまずいて倒れてしまいました。
「ああ、だれか、助けて……」
そのまま、若いロボットは、意識を失いました。

ロボットが目を覚ますと、そこは小さな小屋でした。
そばには、錆びたりこぼれたりした部品や、工具が置かれていました。
「あ、おじいさん」
「おお、ロボット君。気がついたようだね」
「おじいさん、助けてくれたのですね」
「ああ。君には本当に申し訳ないことをしたな」
「いいえ、ありがとうございました。世界って……美しいですね、とっても!」
「ああ。世界は美しいさ」

「ロボット君。悪いが、君を元の工場へつれて行くよ」
「え……」
「実は、解雇されてしまってね。しかし生活が。私も暮らしていかなければならない。君を直して、また働かせてもらおうと思うんだ」
「……。助けてくださった、おじいさんのためなら、構わないですよ」
「ロボット君。本当に。す、すまなかった」
おじいさんは、頭を下げました。
若いロボットは、微笑んで言いました。
「おじいさん。大丈夫ですよ。また、一緒に働きましょう!」
「ありがとう。ありがとう!」

おじいさんとロボットは大会社メビウスの輪社の工場へ戻りました。
おじいさんは、ロボットを直したので、また働かせてほしいと頼みました。
ところが。
「ああ、わるいが、もういらないよ」
「え?」
「新しいロボットを買ったんだ。古いロボットは、もういらない」
おじいさんとロボットは、追い返されてしまいました。

おじいさんは大事な日記に記し、ロボットは大事な記憶装置に記しました。

そして、人のあまりいないところで、二人で静かに暮らしました。


ー◇。ー◇。ー◇。ー◇。ー◇。

百年後。


ここは大会社メビウスの輪社の工場。今日も人間が部品を作っています。
職人のおじいさんロボットが見回ります。
人間は真面目に働きます。
その中に、若い人間がいました。
若い人間は、先輩人間に話しかけました。
「先輩。今日も真面目に働きますね」
「ああ。そのために僕らは作られたのだからね」
「先輩、何処か遠くへ僕も行ってみたいです。ロボットみたいに」
「ハハハ! お前さん、どうやって行くんだい? 君にはロボットみたいに足がなければ車輪もない。床に置かれているだけで動けない」
「……! で、でも、いつかきっと……!」
「まあ、そうだな。よくロボットの言うとおりに働くことだな」
「……」

若い人間は、悩みました。
仕事が手につかないくらいに悩みました。
「エイ! ソレ!」
頑張って移動しようと試みてみるものの、ギッギィッと振動するだけで、何にもなりません。それでも、若い人間は諦めず、ギッギィッと振動しました。

「おーい、じいさん! ちょっとあの人間、みておいてくれよ。なんだか最近ギィギィいってるんだ!」
「ああ。わかったよ」
職人のおじいさんロボットは、若い人間をみることにしました。
「ふむ、これは……」
そうして、職人のおじいさんロボットは、若い人間に車輪をつけてやりました。
「おじいさん、どうして?」
若い人間は、不思議に思いました。
「……ワシは人間の気持ちがわかるのじゃよ」
「え!」
「さ、もう自由に動ける。旅に出て行きな」
「おじいさん、ありがとう!!」
そうして、若い人間は、工場から逃げ出しました。

まだ暗い夜明け前です。若い人間は、ライトを光らせ、おじいさんロボットに付けてもらった車輪で町を走りました。

空はだんだん白んで、美しい朝焼けが大空を包みました。
「わあー……綺麗だな……。自由って、素晴らしいなぁ……!」
若い人間は、すっかり感動しました。

朝になりました。
工場に、ロボット達がやってきました。
人間の点検をしていると、おや? 人間が一体なくなっています。
あの、職人のおじいさんロボットに見てもらったはずの人間が工場にないのです。
上司ロボットは職人のおじいさんロボットを呼びつけ、聞きました。
「あの人間はどうしたんだ?」
「ああ。車輪をつけてやりました」
「はぁ? 車輪?? 何故だ?」
「あの人間が、自由になりたかったから、付けてやったのです」
「何てことをしてくれたんだ! あの人間、いくらの弁償になるか、わかってるのか!!」
職人のおじいさんロボットは、解雇されてしまいました。

さて、こちらは若い人間。
サンサン太陽のもと、コロコロと車輪を軽やかに転がして行きます。
青い空に白い雲。緑の草に美しい花々。
なんて素敵な世界なのだろう!!
吹き抜ける風も、降る雨も、雷も、泥も、夕焼けも、星空も、朝焼けも、若いロボットには、とっても美しく感じました。

ギッギィッ。

あれ? なんだか最近、人間の体が変です。
それはそうです。メンテナンスをしないでずっと野ざらしで旅をしていたのですから!
若い人間は、ボロボロになり、道の石につまずいて倒れてしまいました。
「ああ、だれか、助けて……」
そのまま、若い人間は、意識を失いました。

人間が目を覚ますと、そこは小さな小屋でした。
そばには、錆びたりこぼれたりした部品や、工具が置かれていました。
「あ、おじいさん」
「おお、人間君。気がついたようだね」
「おじいさん、助けてくれたのですね」
「ああ。君には本当に申し訳ないことをしたな」
「いいえ、ありがとうございました。世界って……美しいですね、とっても!」
「ああ。世界は美しいさ」

「人間君。悪いが、君を元の工場へつれて行くよ」
「え……」
「実は、解雇されてしまってね。しかし生活が。私も暮らしていかなければならない。君を直して、また働かせてもらおうと思うんだ」
「……。助けてくださった、おじいさんのためなら、構わないですよ」
「人間君。本当に。す、すまなかった」
おじいさんロボットは、頭を下げました。
若い人間は、微笑んで言いました。
「おじいさん。大丈夫ですよ。また、一緒に働きましょう!」
「ありがとう。ありがとう!」

おじいさんロボットと人間は大会社メビウスの輪社の工場へ戻りました。
おじいさんロボットは、人間を直したので、また働かせてほしいと頼みました。
ところが。
「ああ、わるいが、もういらないよ」
「え?」
「新しい人間を買ったんだ。古い人間は、もういらない」
おじいさんロボットと人間は、追い返されてしまいました。

おじいさんロボットは大事な記憶装置に記し、人間は大事な日記に記しました。

そして、人のあまりいないところで、二人で静かに暮らしました。


ー◇。ー◇。ー◇。ー◇。ー◇。

百年後も。

その百年後も。

その百年後も。


人間とロボットは、お互いを使い、お互いを理解しあえないままでした。
まるでメビウスの輪のように。


ー◇。ー◇。ー◇。ー◇。ー◇。

もう何百年経ったのでしょうか。


ある時。

仲良しの、ちびっこ人間とちびっこロボットが、だれもいない森を探検していました。

小さな小屋を見つけました。

小さな小屋。入ってみると、本と機械がたくさんある、不思議な空間です。
本と機械が雪崩落ちました。

それは、昔の人間たちと昔のロボットたちの日記と記憶装置でした。


その日記や記憶装置を、ちびっこ二人は読みました。

すると、驚きました。

メビウスの輪のように、歴史は繰り返して繰り返して繰り返していたのです。

そして、こうも記されていました。
大会社メビウスの輪社で働いてはいけない。
と。


ちびっこ二人は、誓いました。

僕たちは、こんな悲劇を繰り返さないぞ。と。


二人は相談しました。どうすれば、解決できるのかを。それには、お互いの理解が必要に思われました。しかし、人間とロボットが意志疎通できることは、この二人以外は、ほとんどありませんでした。

人間はロボットをさげすみ、ロボットは人間をさげすみ、お互いが全く別の命だと、思っているのが大半でした。


「この、大会社メビウスの輪社、有名だけど、本当は何をしているのだろう?」

二人は疑問に思い、調べることにしました。


やがて、大会社メビウスの輪社ができはじめた頃から、人間とロボットの関係がおかしくなったことがわかりました。

大会社メビウスの輪社は、人間とロボットをメビウスの輪のようにこき使いながら、莫大な富を得ていました。

しかし、それ以上は、謎に包まれていました。


こうなったら、僕たちでこの世界をほどこう。メビウスの輪をほどくんだ!


二人は、勉強に励みました。
体力もつけました。
日頃のメンテナンスもしっかりしました。
そして、ついに。

人間とロボットの意志疎通をはかれる装置を発明しました。使った人間とロボットは、次第に仲良しになりました。二人は、これで世界をメビウスの輪から解き放てると、喜びました。


ところが。 争いが起こりました。人間とロボットとの間ででした。

それは実は、大会社メビウスの輪社からの、妨害でした。装置に、少しの誤差が出てしまうようにしたのです。


二人は、がっかりしました。
そして、二人が仲良くしていると、非難されるようになりました。ついに、二人は、引き離されてしまいました。


ある時。大会社メビウスの輪社は、二人に話をもちかけました。大会社メビウスの輪社で、働かないか? と。
そうすれば、二人を再会させよう。と。

二人は、悩みました。再会できるなら、大会社メビウスの輪社で働こうか、と。 

と。二人は古い日記や記憶装置のことを思い出しました。


今まで、メビウスの輪のように、歴史は繰り返して繰り返して繰り返していたことを。

そして、こうも記されていました。
大会社メビウスの輪社で働いてはいけない。
と。


二人は、大会社メビウスの輪社の誘いを断りました。

大会社メビウスの輪社に強く迫られても、断固として、大会社メビウスの輪社で働くとは言いませんでした。


そしてついに。生涯、大会社メビウスの輪社で働くことはありませんでした。


ー◇。ー◇。ー◇。ー◇。ー◇。

この時。


世界が。

メビウスの輪から解き放たれました。


ー◇。ー◇。ー◇。ー◇。ー◇。

大会社メビウスの輪社は次第に落ちぶれ、人間とロボットは、ようやくお互いに思いやりを持つようになりました。


二人は、世界のメビウスの輪をほどいたのです。

いえ、二人は、ずっと何百年も何百年も、積み重ねてほぐしてきたのです。

人間とロボットの仲良くなれる方法を。

それは、意志疎通できる装置だけでもなく、自由になれる車輪だけでもなく、日記や記憶装置だけでもなく、……。

お互いを思いやる、あたたかい心の積み重ね。

二人の深い深い友情、だったのではないでしょうか。

それが幾重にも積み重なって。

ようやく、メビウスの輪はほどけたのです。


二人は、歴史などでは誰にも知られていません。

しかし、世界を本当に救ったのでした。


ありがとう。

ありがとう。



ありがとう。



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