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飛び級|エッセイ

日本の学年には飛び級の制度がない。
だが、検定においては飛び級が可能だ。
みなさんには、「かましてやったぞ・・・」
と言うような飛び級の経験はあるだろうか。

私には一度、印象的な飛び級をした経験がある。

小学2年生の時だ。
水泳が苦手だった私は、
プールの端っこでバタ足の練習を
日々繰り返していた。
泳げはしなかったが、
プールぎわ族の仲間たちと
平和で何不自由ない生活を送っていた。

しかしそんな中、
検定の制度が組み込まれるようになり
プールの授業は争いへと一変した。

泳げもしないし、検定にも興味がなかったので
一生プールぎわの10級でいいや。
と考えていたが、
教員はそのような生徒を許すわけもなく、
"8級にならないと3年生になれない"
"放課後居残り練習させる"
など、今となっては
嘘だとわかるようなと煽りを
我々プールぎわ族に放ってきた。

そのようなことを言われても、
泳げないもんは泳げないんだ。
と私は諦めていたが、
3年生になりたい!!と焦った仲間たちは
必死で練習をするようになり、
検定に取り組むようになっていた。

あまり覚えていないのだが、
確か自由型で、
5m泳げたら8級
10m泳げたら7級
15m泳げたら6級
25m泳げたら5級
と言うような制度だったと思う。

そして、気がつくと仲間たちは
5mは泳げるようになり8級へと昇級していた。

1人になることを恐れた私も
徐々に検定を受けるようになったものの、
『蹴伸びで5m作戦』がうまくいかず、
失敗におわっていた。

何度も検定を受けているのに
5mすら泳げない哀れな野郎の
称号を得た私は、
今までプールぎわ族の誇りと思っていた
額につく『10』の
マジックテープを隠すように
俯きながら授業を受けるようになっていた。

そしてついに、
2年生最後の検定日が訪れた。
プールサイドには同学年の生徒たちが
いつもの通り座りながら、
検定を受ける人々を見守っていた。

今日を逃したら私だけ
10級のまま3年生になってしまう。
皆の額にある『8』や『7』の数字が
プレッシャーとなりのしかかる。
2年生にして25m泳げる『5』の数字を見に纏う猛者は、もはや人間には見えなかった。

そして本番、
私はいつもの如く蹴伸びで5m到達してやる!!!と勢いよく水中で壁を蹴ったが、
5mには届かなかった。

溺れているのでは?!と思うような
ジタバタも繰り広げたが、
前には進まないし、息継ぎもできずどうしようもない状況だった。

 今日が2年生最後の授業。
 私だけ3年になっても10級・・・・
とてつもなく悲しい気持ちが襲ってきた。

しかし同時に、
 ここでいつものように足を
 つくわけにはいかない。
 溺れてもいいから5mは行きたい。
 どうしたら、、どうしたら、、、
と、脳内で考えが駆け巡った。

息継ぎができないなら
顔は上げたままにしよう。
顔が沈まないように腕は左右に開かず、
脇をしめ前方に!
自由型なんだ、好きな泳ぎ方でいい。
私はその場でオリジナルの型を生み出した。

そしてその、
"顔を決して水につけないフォーム"は
思いがけずうまくいった。

しかし顔をつけることはないので、
周りからの声がダイレクトで聞こえてきた。
「なんだあの泳ぎ方」
「犬かきじゃね?」
「自由型ってああ言うことじゃないだろ」

なんと言われてもいい。
そのままがむしゃらに泳ぎ続けた。

すると、いつの間にか疑念の声は
声援へと変わっていた。
「頑張れーー!あと10m!!」
「犬かきで25m!!いけーー!!」

真正面しか見ていなかったので
気が付かなかったが、
気づかぬ間に目標の5mは到達し、
目の前には向こう岸が現れていた。

そして私は、
2年生の終わりから6年生までの間、
『5』のマジックテープに誇りを持ち
水泳の授業で俯くことはなくなっていた。

さはら
1997年9月生まれ
ハーフ
座右の銘は晴耕雨読
万年フリーター

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