青空ジャムセッション。
これは、カリフォルニアの公園でおじさんに誘われて、野外のジャムセッションに飛び入り参加してみたら、ジャズを愛する人たちに出会い、新しい音楽のたのしみ方を教えてもらった、という話です。
【イントロ】
カリフォルニアの夏は長いので、10月半ばになっても、昼が近づくと太陽ギラギラ、汗ダクダク、私ヘトヘト。
暑くなる前に、子供たちの潤沢なエネルギーを可能な限り発散させたい!そして、少しでも長く昼寝をして欲しい!
その一心で、午前中の早い時間に公園を目指します。
先週の金曜日に向かったのは、お気に入りの公園のひとつ、通称「アランの公園」。野生児二人を車から解き放つと、珍しい客人に気付きます。
公園の一角に陣取る、3人のおじさんたち。
持参した椅子を活用してソーシャル・ディスタンスを保ちながら、コーヒー片手にあーだこーだとおしゃべりをしていたのでした。
※奥のベンチに、おじさんたちの脚が見えます。子供たちはパジャマ姿ですが、彼らが「パジャマデー」を希望したのであって、私が横着して着替えさせなかった、というわけではありません。念のため。
【Aメロ】
「ちゃんと前見て走りなさーい」なんて言いながら、公園で子供たちを追いかけまわす私。そんな中、断片的ではあるけれど、おじさんたちの会話が聞こえてきます。
「そこは絶対にドリアンスケールで考えるべき・・・」
「ディーマイナーセブンの次、ジーセブンに移るだろ?」
「このコードで、この音を使う意味は・・・」
あれ。なんかこれ、音楽の話では?
「シャダ~バディ~ヤディ~ヤ、パ~ラディヤ~♪」
おじさんが歌った。しかもスウィングしてるし。
ジャズじゃん!
これもう、ぜったいジャズ談議じゃん!
気付いたからには、話しかけなければなりません。(なぜ!?)
ジャズマンへのファーストアプローチで大切なのは、「お!同類か?」と、一瞬で仲間だとわかってもらうことです。
おじさんたちがトランペットの音源を聞き始めたので、これはチャンス!とばかりに、短くてキャッチーな渾身のフレーズを。
「それはマイルス・デイヴィスですか?」
日本人のおかーちゃんらしからぬ言葉が出てきたので、おじさんたち興味津々!
「YOU、耳がいいねぇ!」
「俺はトランぺッターなんだ。コイツはアルト」
「YOUは?なにか楽器やってる?」
ジャズを語れる機会が限られているジャズマン。話がわかる相手を発見すると、ここぞとばかりにおしゃべりしたくなるのは、世界共通です。
このジャズおじさん3人組は、毎週公園に集まって、ディープなジャズトークを繰り広げているというのです。
「そうだ!明日○○という場所でセッションがあるんだ。君も来たらいいよ。外で演奏するから風通しもいいし、ソーシャル・ディスタンスも保っているから、安心だぞ!」
こうして、コロナ時代ならではの青空ジャムセッションに招待してもらったのでした。
【Bメロ】
だいたいのことに腰の重い私。ですが、ジャズのこと、バンドのことになると、とたんにフットワークが軽くなります。
学生時代は、バンドに誘われたらすぐに承諾しちゃうものだから、所属バンドがどんどん増えていき、リハのダブルヘッダーは当たり前。たまに本番も被るので、打ち上げはハシゴ酒で大変酔っぱらったものです。
社会人になってからは、仕事が忙しくてバンド活動をセーブしましたが、気持ちとしては、誘われたらまずは参加してみたくなる。
全然知らない人からmixi(懐かしい!)でメッセージが届き、バンドに誘われたこともありました。
「あなたは僕のことを知らないと思いますが、僕はあなたのプレイを知っています。一緒にビッグバンドやりませんか」
このめちゃめちゃ怪しいメッセージ、スパム報告してもいいくらいですが、私レベルになると、あまり深く考えずに「やりましょう」と返事をしているのです。
後日リハに参加してみたら、斑尾高原のジャズフェスティバルに出場するというので、知らない人たちといきなり演奏旅行することになってしまいました。今ではいい思い出。
そんな、ジャズ的尻軽女が、青空ジャムセッションを断れるはずがございましょうか。
誘われた瞬間から、心が「行く行く~♪」と言っています。
夫には「なんか公園で会ったおじさんからセッションに誘われちゃって~」という、世にも奇妙な言い訳をしながら、半ば強引にキッズのお世話を押し付けたのでした。
【サビ】
知らない街のセッションに行くとき。
初めてバンドのリハに参加するとき。
私の気分は、道場破りを目論む武道家さながらに高揚しています。
伝家の宝刀(サックス)を肩にひっ下げ、
敵地の道場(スタジオ)に入り、
「たのもー!(ハロー!)」の世界。
バンドメンバーは「どうれー!」と答える・・・わけではありませんが。こいつはナンボのものなのか、どれほどの腕なのか、知りたくてうずうずしているのがわかります。
そもそも女性が少ないジャムセッションの場に、日本のおばちゃんが大きめの楽器を担いでひょっこり現れた、となったらなおのこと。
ジロジロ見ているだけの人もいれば、「どこの楽器?」「ジャズ好きなの?」と話しかけてくる人もいますが、この段階ではまだ仮初の関係。
一曲目で、腹から音を出し、堂々とアドリブが取れたら、周囲の見る目が変わり、心の距離がグッと近くなるのを、肌で感じることができるのです。
知らない人と、初めて音を合わせる緊張感。
その後、音楽を通じて生まれる、不思議な一体感。
言葉を使って語り合わなくても、音を聞けば、フレーズを聞けば、その人がどんな人間なのかがなんとなく伝わってくる。
ギター青年は、絶対にコードから音を外さない。真面目な頑張り屋さんだね。
ラッパのおっちゃん、パワーと雰囲気で持っていくねぇ〜!テクニックは覚える気ないのかな。笑
サックスのおじさん、最初は頑張ってたのに、なんか途中で飽きちゃう系?!
上手い下手の話ではなく。
これはコミュニケーション。自己表現。
ジャムセッションは、いわば、人間性ダダ漏れパーティなのです!!
【アウトロ】
あまりに久しぶりにセッションに参加したので、その興奮と喜びで少しおかしくなってしまいましたが・・・。
青空ジャムセッション、本当に、本当に、楽しかった。(表現力どこいった?)
太陽と風を感じながらみんなで一緒に楽器を演奏することが、こんなに素晴らしいなんて。
空港が近くにあるため、定期的に飛行機が飛んでくるのも、また良い。
グオオオオオォォォ!
この爆音に負けず、思いの丈を音に乗せて、みんなで空に飛ばすのです。
テントを張り、ソーシャル・ディスタンスを保てるように椅子をセッティングし、風に譜面が飛ばされないように洗濯ばさみも用意して、太陽が動いて日向ができたら、みんなでちょっとずつ日陰に移動して・・・。
確かに、室内のジャムセッションよりは工夫が必要だけども。
逆に言えば、工夫すればこんなに楽しくジャムセッションができちゃう。
暗い密室で初対面の人に囲まれるより、オープンエアのほうが断然安心。尻軽ジャズガールにピッタリです。
音に引き寄せられて観客もやってきて、ノリノリで聴いていましたし。まさに良いこと尽くめの青空セッションなのでした。
公園で出会ったジャズおじさんは、トランペットとしてセッションに参加していました。
最初に「おー!本当に来たのか!」と喜んでくれて。
途中で「エクセレントな演奏だ!」とほめてくれて。
最後は「いい出会いだった!」と、握手ではなく、肘と肘をぶつけあうエルボー・バンプ(肘タッチ)でお別れ。
コロナ禍でいろいろ大変ではあるけれど、ジャズを愛する気持ちは変わらない。変えられない。
カリフォルニアの青空ジャムセッションが、時代に負けないジャズの新しいあり方を、教えてくれたのでした。
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