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人的資本、最初に誰が言い出した?

バズワード化している「人的資本」。国内では2023年3月期決算から上場企業などを対象に人的資本の情報開示が義務化されたことで、一気に世の中に広まりました。

今や「人的資本」というキーワードを使った商品やサービスが世に溢れ、セミナーも数多く開催されています。

ただ、そもそも「人的資本」という概念は誰が最初に言い出したものなのでしょう?


古くは経済学者、アダム・スミスが打ち出した概念


「人的資本」の概念は、経済学者であるアダム・スミス(Adam Smith)の『国富論』が起源とされています。この起源の確からしさについて明確な根拠があるわけではありませんが、複数のレポートやビジネスメディアでも同様の記述が見られ、おおむね間違ってはいないでしょう※1,2,3。

アダム・スミスは『国富論』の中で、資本のひとつとして「人の能力」を挙げています。そして、この概念は1960年代に米経済学者、ゲイリー・S・ベッカー氏らによって、「人的資本(Human Capital)」として再定義され、一般に広く知られるようになりました。

近年、「人的資本経営」という言葉が先行してしまい、その本質を見失いがちですが、改めてベッカー氏が定めた「人的資本」への理解を深めることで、今後の取り組みに関してヒントが見つかるかもしれません。

内容を見てみましょう。

ベッカー氏は「人的資本」をどう捉えたか?


「人的資本」と再定義したベッカー氏は、その人的資本の価値にかかわる性質をどう捉えていたのでしょうか。

著書『人的資本』を読むとお分かりの通り、ベッカー氏は「教育投資が人的資本の価値を向上させる」ことを実証しています。ポイントは次の4つです。

その① 収入の高い職業に就くと、人的資本は増大する

その② 収入の安定性が高い方が人的資本の価値は高い

その③ 教育投資によって、人的資本の価値は向上する傾向にある(特に若い頃)

その④ 健康投資によって人的資本の価値を向上させ、低下を防ぐことができる

ベッカー氏の人的資本理論はこの4つで集約できるものではありません。したがって、上記4つを見て理解した気にならず、彼の著作や論文を向き合い、その理論の美しさを学んでいただきたいのですが、この理論の本質は人を資本とみなし、投資すれば必ず見返りがあるという前提に立って理論が組まれていることです。

これは人的資本経営においても非常に重要でしょう。つまり、人材は「資材」ではなく「資本」であり、その可能性を信じて、適切な投資によって価値を高めることができるということです。

一方で、投資と銘打つ以上、リターンを確実に求めるという厳しい側面も当然ながら存在します。「人的資本」ブームに安易に乗っからず、まずこれら本質を理解することから始めることが大事だと思います。

(参考情報)
※1.赤林英夫(2012)「人的資本理論」労働経済
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2012/04/pdf/008-011.pdf

※2.ダイヤモンドクォータリー編集部「経営者が知っておくべき「人的資本」経営の論点」ダイヤモンドオンライン、2023.1.16
https://diamond.jp/articles/-/315420

※3.田中里枝(2022)「人的資本の情報開示に関する国内外動向」日経研月報
https://www.jeri.co.jp/wp/wp-content/uploads/2022/09/20220922_%E7%89%B9%E9%9B%86_SDGs%EF%BC%8F%E7%94%B0%E4%B8%AD%E6%A7%98.pdf

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