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やっぱり我々が一番!という思考の危うさ ーー「NIH症候群」とは

「NIH症候群」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。

「Not Invented Here(ここでは発明されていない)」の略で、自分たちが考えたアイデアが一番良いと信じがちな傾向を指します。

この思考は、ビジネスにどんな影響を及ぼすのでしょうか。




トップ企業こそ陥っている?NIH症候群がもたらず危険性


「NIH症候群」とは、自分たちが考えたものが他のものよりも優れていると過信し、他のアイデアや技術などを採用したがらない傾向を指します。「自前主義」、あるいは、他人のものを使いたくないという意味で「歯ブラシ理論」とも呼ばれます。この思考傾向は、アメリカの経営学者、ラルフ・カッツ(Ralph Katz)氏とトーマス・J・アレン(Thomas J. Allen)氏によって提唱されました*1。

NIH症候群に陥ると、組織は自社のアイデアや技術に執着し、新しい視点や発想を排除してしまいます。この結果、競争相手が新しい技術を採用し市場をリードする中、自社は取り残される可能性があります。

過去の例として挙げられるのは、ソニーさんの「ウォークマン」です。

ソニーさんはこの大ヒット商品を生み出した後、その成功ゆえに、自社以外の発明への関心が薄れた時期がありました。その結果、mp3プレイヤーの開発において、競合他社に遅れを取る結果となったと言われています。この事例から見えるのは、過去の成功にとらわれず、常に新しいアイデアや市場の変化に敏感であることが重要だという点です。


NIH症候群を逆手に取ると、モチベーションが高まる


ここまで「NIH症候群」の危険性に目を向けてきましたが、NIH症候群には肯定的な側面も存在します。その肯定的な側面とは、自分が考案したアイデアや計画に愛着を持つことができれば、それを実現しようとするモチベーションが高まるという点です。

アメリカの行動経済学者、ダン・アリエリー(Dan Ariely)氏は著書『不合理だからうまくいく』の中で、自分が考案したと思うことによって、それらに所有意識を感じ、価値をより感じやすくなると指摘しています。この感情や所有感は、イケア効果としても知られる現象と一致しています。


身近な例として、ダイエットを考えてみましょう。もし医師から「10キロ痩せる必要があります」と言われた場合、受け入れるのは簡単ではありません。特に、食事制限が厳格に指定されると、「自分の体について余計なことを言われたくない」という気持ちが生じるでしょう。

しかし、そのダイエット計画に医師と協力しながら自分なりのアイデアを組み込むことができれば、目標に向かってモチベーションが高まる可能性があります。結果として、ダイエットの成功につなげることができるでしょう。まさに、NIH症候群を逆手に取った戦略です。

NIH症候群に陥らないように、企業は効果的にマネジメントしていくことが求められますが、同時にうまく活用できれば、従業員のモチベーション向上にも寄与するでしょう。柔軟なアプローチを取り入れ、ポジティブに活かしていくことが重要ですね。

(参考文献)
*1 Katz, R., & Allen, T. J. (1982). Investigating the Not Invented Here (NIH) syndrome: A look at the performance, tenure, and communication patterns of 50 R&D project groups. R&D Management, 12(1), 7–19.

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