Ogura Kentaro

島根県は山間の小高いところにある小さなカンパニー、『宮内舎』をしています。“玄米麺”や…

Ogura Kentaro

島根県は山間の小高いところにある小さなカンパニー、『宮内舎』をしています。“玄米麺”や“米粉のパンケーキミックス”を中心にグルテンフリーの製品を販売をしています。両親が牛飼い(乳牛)をしているので、見習い程度の仕事もしています。 miyauchiya.com

記事一覧

相違なき時間

僕は、不良ではなかったが、不良と呼ばれるその子と一緒に居た。 自転車の後ろに僕を乗せて、仲間の何人かと裏山へ赴き、タバコを吸いながら、とりとめもないことをとりと…

Ogura Kentaro
4年前
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僕は異国で髪を切る

僕は、夜の街を歩いていた。 埃っぽい街で、特別予定もなく、夜道をほっつき歩いては、人を眺め、騒音に耳を澄まし、灯りのある方へ、音のする方へと歩を進めていた。 そ…

Ogura Kentaro
4年前

愚者の弁明

客人の迎え方がよく分からない。 かの太宰治も同様のことを晩年の紀行文『津軽』で残している。 とても、チャーミングな文体で共感ポイントが多く大好きだ。 これを少々…

Ogura Kentaro
4年前
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労働の味

労働の味。というものがあると知ったのは、わりと最近のことだ。 そう、僕が結婚をして両親となった2人の事業を手伝うようになってからのこと。 両親は、牛飼いをしてい…

Ogura Kentaro
4年前
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杏さんという女性

僕は、記号で人を総称したくないので仮名で話をしたいと思う。 その人は、杏さんといった。 小学生の頃の友人が誰もいない、中学校の入学式で同じクラスであることを知っ…

Ogura Kentaro
4年前
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憧れと信頼の書

DEAN & DELUCA MAGAZINE を東京に居るうちに手に入れたかった。 ちょうど、小動物が木の実を集めるのと同じように、 山陰での冬を乗り切るには、良質な書物の入手が必要不…

Ogura Kentaro
4年前
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相違なき時間

相違なき時間

僕は、不良ではなかったが、不良と呼ばれるその子と一緒に居た。
自転車の後ろに僕を乗せて、仲間の何人かと裏山へ赴き、タバコを吸いながら、とりとめもないことをとりとめもないまま喋っては、無為に時間を過ごしていた。
彼は、僕にタバコを勧めはしなかったし、僕も吸いたいとも思わなかった。
そのように、タバコを吸わない僕が、なぜあそこに一緒に居たのかは不思議ではあるが、ともかくそういうことになっていた。

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僕は異国で髪を切る

僕は異国で髪を切る

僕は、夜の街を歩いていた。

埃っぽい街で、特別予定もなく、夜道をほっつき歩いては、人を眺め、騒音に耳を澄まし、灯りのある方へ、音のする方へと歩を進めていた。

その男は、後ろのガラス壁を背にして、物思いに耽っていたご様子。

不意に目の前に現れた、東洋人の男に少し驚きの顔を見せたあと、何を思ったか手招きをして自らの店へと誘った。

僕は、比較的警戒心の強い方であり、人見知りであり、面倒なことが何

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愚者の弁明

愚者の弁明

客人の迎え方がよく分からない。

かの太宰治も同様のことを晩年の紀行文『津軽』で残している。
とても、チャーミングな文体で共感ポイントが多く大好きだ。

これを少々拝借させて頂き、私の煩悩を露見したいと思う。

“これは私においても、Sさんと全く同様なことがしばしばあるので、遠慮なく言うことができるのであるが、友あり遠方より来た場合は、どうしたら良いかわからなくなってしまうのである。
ただ胸がわく

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労働の味

労働の味

労働の味。というものがあると知ったのは、わりと最近のことだ。

そう、僕が結婚をして両親となった2人の事業を手伝うようになってからのこと。

両親は、牛飼いをしている。
乳牛を60頭近く飼って、365日、毎日の朝晩と世話をするのだ。
もちろん、仕事はそれだけには収まらず、機械の整備や、牛糞の処置も兼ねた堆肥の作成、様々な問題ごとの調整(ことに、世間知らずで、分からず屋の娘と息子から持ち込まれる問題

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杏さんという女性

杏さんという女性

僕は、記号で人を総称したくないので仮名で話をしたいと思う。

その人は、杏さんといった。

小学生の頃の友人が誰もいない、中学校の入学式で同じクラスであることを知った。

杏さんは、誰よりもか弱そうな身体の女性だった。
自身の身体を傾けなければ歩くのもままならなかった。

僕は、僕が今までに生きてきた中では出逢うことのなかった同級生に、いささか戸惑った。

一人一人が新しい環境に浮き足立つ教室で、

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憧れと信頼の書

憧れと信頼の書

DEAN & DELUCA MAGAZINE
を東京に居るうちに手に入れたかった。

ちょうど、小動物が木の実を集めるのと同じように、
山陰での冬を乗り切るには、良質な書物の入手が必要不可欠だからだ。

それは、思い付きで手に入るものではなく、既に1軒目に飛び込んだDEAN & DELUCA のカフェでは、取り扱いがないとフラれていた。

私の情報収集力の詰めの甘さは、大抵こういった事態を招く。

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