Ogura Kentaro

島根県は山間の小高いところにある小さなカンパニー、『宮内舎』をしています。“玄米麺”や…

Ogura Kentaro

島根県は山間の小高いところにある小さなカンパニー、『宮内舎』をしています。“玄米麺”や“米粉のパンケーキミックス”を中心にグルテンフリーの製品を販売をしています。両親が牛飼い(乳牛)をしているので、見習い程度の仕事もしています。 miyauchiya.com

最近の記事

相違なき時間

僕は、不良ではなかったが、不良と呼ばれるその子と一緒に居た。 自転車の後ろに僕を乗せて、仲間の何人かと裏山へ赴き、タバコを吸いながら、とりとめもないことをとりとめもないまま喋っては、無為に時間を過ごしていた。 彼は、僕にタバコを勧めはしなかったし、僕も吸いたいとも思わなかった。 そのように、タバコを吸わない僕が、なぜあそこに一緒に居たのかは不思議ではあるが、ともかくそういうことになっていた。 僕は、問題児ではなかったが、問題児と呼ばれるその子と一緒に居た。 激しい運動をする

    • 僕は異国で髪を切る

      僕は、夜の街を歩いていた。 埃っぽい街で、特別予定もなく、夜道をほっつき歩いては、人を眺め、騒音に耳を澄まし、灯りのある方へ、音のする方へと歩を進めていた。 その男は、後ろのガラス壁を背にして、物思いに耽っていたご様子。 不意に目の前に現れた、東洋人の男に少し驚きの顔を見せたあと、何を思ったか手招きをして自らの店へと誘った。 僕は、比較的警戒心の強い方であり、人見知りであり、面倒なことが何より嫌いである。 理由はないけれど、気がつくと後に従って店に入っていた。 そ

      • 愚者の弁明

        客人の迎え方がよく分からない。 かの太宰治も同様のことを晩年の紀行文『津軽』で残している。 とても、チャーミングな文体で共感ポイントが多く大好きだ。 これを少々拝借させて頂き、私の煩悩を露見したいと思う。 “これは私においても、Sさんと全く同様なことがしばしばあるので、遠慮なく言うことができるのであるが、友あり遠方より来た場合は、どうしたら良いかわからなくなってしまうのである。 ただ胸がわくわくして意味もなく右往左往し、そうして電燈に頭に頭をぶつけて電燈の笠を割ったりな

        • 労働の味

          労働の味。というものがあると知ったのは、わりと最近のことだ。 そう、僕が結婚をして両親となった2人の事業を手伝うようになってからのこと。 両親は、牛飼いをしている。 乳牛を60頭近く飼って、365日、毎日の朝晩と世話をするのだ。 もちろん、仕事はそれだけには収まらず、機械の整備や、牛糞の処置も兼ねた堆肥の作成、様々な問題ごとの調整(ことに、世間知らずで、分からず屋の娘と息子から持ち込まれる問題が多い)も含まれる。 僕は、半年ほど前からこの事業の手伝いをさせてもらっている

        相違なき時間

          杏さんという女性

          僕は、記号で人を総称したくないので仮名で話をしたいと思う。 その人は、杏さんといった。 小学生の頃の友人が誰もいない、中学校の入学式で同じクラスであることを知った。 杏さんは、誰よりもか弱そうな身体の女性だった。 自身の身体を傾けなければ歩くのもままならなかった。 僕は、僕が今までに生きてきた中では出逢うことのなかった同級生に、いささか戸惑った。 一人一人が新しい環境に浮き足立つ教室で、杏さんだけはそこにスッと重力に逆らわずに居たように見えたのだ。 杏さんと同じ小

          杏さんという女性

          憧れと信頼の書

          DEAN & DELUCA MAGAZINE を東京に居るうちに手に入れたかった。 ちょうど、小動物が木の実を集めるのと同じように、 山陰での冬を乗り切るには、良質な書物の入手が必要不可欠だからだ。 それは、思い付きで手に入るものではなく、既に1軒目に飛び込んだDEAN & DELUCA のカフェでは、取り扱いがないとフラれていた。 私の情報収集力の詰めの甘さは、大抵こういった事態を招く。 六本木で逢う予定にしている友人との約束までに、取り扱いがあると聞いたDEAN

          憧れと信頼の書