小倉日向

作家。「極刑」(双葉社刊)で2020年にデビュー。新潟県出身。既刊「いっそこの手で殺せ…

小倉日向

作家。「極刑」(双葉社刊)で2020年にデビュー。新潟県出身。既刊「いっそこの手で殺せたら」(『妻が逮捕された日』改題、双葉社刊)、「東京ゼロ地裁 執行 1」(双葉文庫)。「東京ゼロ地裁 執行 2」が、双葉文庫より発売されました。

最近の記事

執行 2冊目

 またもや久しぶりの更新となってしまいましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。小倉です。  元日から様々な災厄が続き、今もなお影響が続いている現在です。報道を目にして胸を痛めているひとも多いのではないでしょうか。  私も帰省先で、人生初となる大きな揺れを体験しました。それゆえ、被災地にお住まいの方々は、さらなる恐怖と闘っているのだと実感しました。一日も早く、平穏な生活を取り戻せることを願ってやみません。  さて、私事で恐縮ですが、この度「東京ゼロ地裁 執行」の2冊目が発売さ

    • 東京ゼロ地裁 執行

       お久しぶりです。小倉です。  初の文庫書き下ろし、初のシリーズ物となる「東京ゼロ地裁 執行 1」が双葉文庫より発売されました。よろしくお願いいたします。  また、本作を「ダ・ヴィンチWeb」様でレビューしていただきました。ありがとうございます。 いじめ、レイプ、殺人…凶悪犯に容赦ない制裁を! 踏み倒された賠償金や、命すら賠償させる裏組織「東京ゼロ地裁」 https://ddnavi.com/review/1183739/  なお、近況としましては、臨時とは言え教職に復

      • 怪物を憶えているか?

        註:文中、拙作「極刑」の内容に触れているところがあります。特にネタバレと呼べるようなものではありませんが、未読の方はご注意ください。  小倉日向のデビュー作である「極刑」も、2作目の「いっそこの手で殺せたら」も、双葉社のCOLORFULとWebマガジンでそれぞれ連載されたものです(初出時のタイトルは『憐れみの詩』と『妻が逮捕された日』)。  以前にも書きましたが、どちらも最後まで展開が決まっていたわけではなく、書きながら次を考え、ラストへと辿り着きました。そのため、単行本に

        • 園長先生さようなら

           娘は帰国子女で、日本で暮らすようになったのは五歳の春からです。もう少し早く帰らせる予定でしたが、震災の影響を考慮して延期したのです。  娘は生まれたときから異国で生活していたため、帰国したとき、日本語がまったく理解できませんでした。  どこの国で生活しようが、言語の習得は必須です。それには家族だけでなく、多くのひとびととコミュニケーションを図る必要があります。特に、同じ世代の子供たちと。そのため、帰国させたら幼稚園に入れるつもりでいました。  とは言え、すでに五歳。年長組

        執行 2冊目

          「小倉日向」という名前

           先日、仙台に住む叔母に、「いっそこの手で殺せたら」と「極刑」の2冊を送りました。特に連絡もせず、いきなりです。  叔母は、私が「小倉日向」であることを知りません。2作目が出たので、そろそろいいかなと、幼い頃からお世話になってきたお礼も込めて、送らせていただいたのです。  その翌日、さっそく電話がありました。なんと叔母は、「小倉日向」を以前から知っていたというのです。なんでも、1作目の「極刑」がテレビだか新聞だかで紹介されたのを見て、「小倉日向」という名前に引っかかったそう

          「小倉日向」という名前

          一年一か月の彷徨

           noteに最初の記事を書いてから、一年一か月が経ちました。そのときは、双葉社Webマガジンで「妻が逮捕された日」の連載を始めたばかりで、終了までまさか一年以上もかかるとは、思ってもみませんでした。 (もちろん、連鎖が終わったからといって、作品が完成したわけではありません。これから修正、加筆を経て、ようやく一冊の本になるのです)  連載が長きに渡ると予想できなかったのは、展開をまったく考えていなかったためもあります。  前作「極刑」(連載時タイトル『憐れみの詩』)も、後半

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          磁石──ザ・漫才師

           初めて磁石の漫才を視たのは、「THE MANZAI 2011」であった。その時点ですでに芸歴は10年を超えており、M-1でも準決勝に毎年のように進出するなど活躍されていたにもかかわらず、まったくの初見だったのは、しばらくお笑いから離れていたためである。「THE MANZAI 2011」で、私は久しぶりにナマの漫才に触れたのだ。 <私事であるが、演芸では最初に落語を好きになって、それが小学生のとき。ツービートに衝撃を受けて漫才にも興味が湧き、テレビ視聴もお笑い番組が中心であ

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          【短編小説】 屍臭 / 小倉日向

                    1 (獲物だ──!)  胸が躍る。全身の血潮が滾るようだ。  岩田一喜の前に横たわっているのは、若い女だ。髪を金色に染め、濃いメイクで顔立ちを派手に整えた、ギャルと呼ばれる手合いである。着ているのは、だぼっとしたトップスに、太腿のあらわなミニスカート。  フローリングの床に敷いたビニールシートの上で、女は目をつぶっている。死んでいるのではない。胸がかすかに上下しているし、閉じた瞼の下で眼球が動くのも見て取れる。あるいは夢でも見ているのだろうか。  しかし、

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          他人を信用できない理由

           自分以外の人間はすべて虚構の存在であり、自分は常に外の何者かから監視されている──。そんな妄想を抱いたのは、小学生の頃だったと思う。いつも考えていたわけではないけれど、その思いは幾度か頭を巡り、あらゆることに対して疑いを抱いたものだ。  後年、藤子・F・不二雄氏の短編集を読み、タイトルは忘れたが、かような感情は多くの人間が抱くものだと書かれた作品に、なるほどとうなずいた。自分だけではないのだとわかり、妙に安心したのを憶えている。  映画の「トゥルーマン・ショー」、あるい

          他人を信用できない理由

          己の力のみを頼ることなかれ

           デビュー作である『極刑』(2020年刊)は、もともと双葉社のweb文芸マガジン「カラフル」において、「憐れみの詩」のタイトルで連載されたものです。当時からお読みなっていた方はわかると思いますが、単行本のプロローグ部分は、連載時にはありませんでした。あれは単行本化にあたって加筆したものです。  ちなみに連載開始時点では、単行本の中盤にあたるところまでしかプロットが固まっていませんでした。書きながら登場人物の動きを追い、あのような展開になったのです。  かように海のものとも

          己の力のみを頼ることなかれ