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磁石──ザ・漫才師

 初めて磁石の漫才を視たのは、「THE MANZAI 2011」であった。その時点ですでに芸歴は10年を超えており、M-1でも準決勝に毎年のように進出するなど活躍されていたにもかかわらず、まったくの初見だったのは、しばらくお笑いから離れていたためである。「THE MANZAI 2011」で、私は久しぶりにナマの漫才に触れたのだ。

<私事であるが、演芸では最初に落語を好きになって、それが小学生のとき。ツービートに衝撃を受けて漫才にも興味が湧き、テレビ視聴もお笑い番組が中心であった。てんやわんやや、いとしこいしといった上の世代の漫才も、ビデオを買って視るなどした。大学時代にモンティパイソンを知ってからは、海外のお笑いにも目を向けるようになった。ただ、ダウンタウンが「ごっつええ感じ」をやめたあとぐらいから、生活環境が変わったためもあって、お笑いは気に入ったものをDVDで視るぐらいになっていたのである>

「THE MANZAI 2011」は面白かった。録画した番組の漫才のところだけを抜き出し、DVDに再録して見返した。

 だが、いくら面白い漫才でも、何度も視れば飽きる。そんな中で、飛ばすことなく必ず視たのが磁石であった。そのため、磁石という漫才師が、記憶にがっつりと刻み込まれることになった。

 しかしながら、翌年のTHE MANZAIのあとは、しばらくのあいだ磁石の漫才を目にすることはなかった。それでも、他のお笑い番組や漫才のDVDなどを経て、もっと面白いネタが視たい欲求が高まる中、常に思い浮かぶのは磁石であった。

 彼らの漫才が視たい。その思いからDVDを購入したのが、2018年のことである。初めての出会いから、7年が経過していた。

 色々なネタを愉しみたいという思いから、最初に買ったのは傑作選ライブ「BEST ALBUM」の2枚である。その時点で発売から1年以上経過しており、最新作ではなかったものの、BEST盤ならいいネタが揃っているはずだと期待したのだ。

 わくわくしながら視聴。面白かった。大いに笑った。期待以上であった。THE MANZAIのときと同じく、何度視ても飽きなかった。

 そうなると、他のライブDVDも欲しくなる。ただ、最初に買ったのがBEST盤ゆえ、過去に出したDVDとネタの被りがある。どうしようと悩んだのであるが、ええい、かまうものかと決心し、気がつけばその年のうちに、すべてのライブDVDを手に入れていた。

 磁石はネタが面白いのはもちろん、舞台構成も素晴らしい。ネタをやって合間に繋ぎのVTRを挟むのが、一般的なお笑いのライブなのだろうが、磁石のライブはそんな単純なものではなかった。「ワールドツアー」は90分間、ずっと漫才をしっぱなしだったし(タイトルに日本公演とあったので、他のものもあるのかと必死で探し回ったのはいい思い出だ)、「ZONE」に至っては最初に視たとき、「うわっ」と声が出た。まさかそんな手でくるとは予想もしなかった。ネタはもちろん、構成にも感服した。

 磁石のDVDは、どれもヘビーローテーションに耐えうるものだった。むしろ、何度でも視たくなった。

 そうなると、是非ともナマでおふたりの姿を見たくなる。私が初めて新宿のバティオスを訪れたのは、佐々木氏が主催するライブを観覧するためであった。ハイジアV-1は、永沢氏が主催するライブのために、初めて足を踏み入れた。今では月一ぐらいでお笑いのライブに出向くようになった、きっかけを与えてくれたのは磁石だったのだ。

 そして、2019年、念願叶って単独ライブ「freeze」に行った。こちらも構成、ネタともに素晴らしく、生まれて初めて笑い疲れるという経験をした。同年の蔵出しライブでも、大いに笑わせてもらった。

 どうしてこんなにも磁石に惹かれるのか。その魅力(磁力?)の根幹を、素人なりにあれこれ考えた。

 ひとつには聞きやすさがある。ふたりとも声がいい。何を言っているのははっきりとわかる(ネタは面白いのに聞きづらいため、損をしている芸人はたくさんいる)。また、ふたりの声量のバランスもいい。永沢氏は、単独ライブの夜の部では噛むとのことであるが、単に噛むだけであって、滑舌に影響を及ぼすものではない。まさにしゃべりのプロだと思う。

 見た目もいい。どちらも高身長で男前だ。関西芸人にありがちな、安易な外見イジリをしない。つまり、あくまでもネタで勝負せねばならず、それがここまでのクオリティを実現ならしめたのかもしれない。

 そのネタが、着眼点とか言葉のチョイスとか、すべてにおいて優れているのは間違いない。しかし、それにプラスする何かがあるはずだど、ずっと考えていた。何度視ても飽きないのはなぜだろう。たとえばM-1で優勝したネタだって、3回も目にすればもう充分なのに。

 その理由を、佐々木氏がこのnoteで書かれていた記事を読み、ようやく理解できた気がした。有料記事なので引用は避けるが、要はたくさんのアイディアが揃って初めて1本のネタになると書かれていたのである。

 確かに、磁石の漫才はボケが多い。それに対するツッコミも一本調子ではなく、実に工夫が凝らされている。だからこそ視るたびに発見があり、飽きることがないのだ。noteの記事も毎日更新されているが、毎回笑いのネタがいくつも入っている。彼らは日常のすべてを、笑えるかどうかで見ているに違いない。まさに笑いの鬼である。

 磁石がM-1やTHE MANZAIなどで結果が出せなかったのは、そういう長所が悪い方に働いたせいかもしれない。なぜなら、ああいうコンテストでは、印象に残った者が勝つ。要はたったワンフレーズでも引っかかれば、面白いと評価される。磁石のようにアイディアが豊富で笑うポイントがいくつもあり、構成も巧みに練られた漫才は、面白くても印象に残りづらいのかもしれない。

 それでも、磁石が類い稀な漫才師であることに変わりはない。彼らこそが本物の芸人であると、私は信じて疑わないのである。


 G-1グランプリ優勝、おめでとうございます。ますますのご活躍をご期待申し上げます。磁石、最高!