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冒険家はトレーニング必須か? 自爆テロリストが来た日の話

これは、人によって異論反論オブジェクション(古い!若い人意味わからん!)あると思うので、私の個人的な意見として聞いてもらえれば良い。

先日、私のやっている冒険研究所に若者がやってきた。その当の本人もこれを読んでいる可能性もあるので、その彼にその時かけた言葉の真意も改めて伝える意味でも書いておく。

高校を卒業したばかりだという若者。だからまだ10代か。
「僕、冒険家になりたいんです!!」
と、キラキラした目とちょっと田舎くさい風貌で、憎めない若者だった。

日本一周などもしながら、今はトレーニングに励んでいるという。

で、その日も大きなザックを担ぎ「電車賃ももったいないし、トレーニングも兼ねて歩いてきました!」と言う。
「え?どこから??」
と尋ねると。
「巣鴨からです!」
と笑って答える。

当方は神奈川県の大和市。巣鴨からだと、Googleマップで調べると45kmくらいある。
「え?巣鴨から歩いてきたの?ザック担いで??」
「はい!結構遠かったです!」
汗を拭いながら、笑顔で大きなザックを下ろすと、Tシャツの上に何かベストのようなものを巻いている。
「んん?その体に巻いてるやつ、それ、何??」
そう聞くと「あ、これ、重りです!20kgくらいあるんです」
黒い縦25センチくらいの筒状の物体が、腹回りをぐるりと覆っている。
重りと言うが、見た目は完全に、体に爆弾を巻きつけて群衆に飛び込もうとする自爆テロリストだ。

「それで電車とか乗ったら、時期が時期なら完全にアウトだな」
「はい!なので電車乗れないんです!笑」
まあ、とにかく素直だし憎めない、ちょっとおバカな感じもあって面白い若者が来た。

「僕、冒険家になりたくて、頑張ってトレーニングを積んでるんです」
そうキラキラした目で迫ってくる。
「そうか、どんなところに行きたいの?」
「山とか、極地とか、僕もぜひ冒険したいです!」
「そうか、ぜひどんどん行って経験を積むといいよ。いまはバイトとかは何してるの?」
「今は特にバイトとかしてなくて、日本一周をこの前までやったり、トレーニングに励んでます!」
「貯金はあるの?」
「全然ないです!!」

この辺りのプロファイリングで、私の中では彼にかけるべき言葉は定まっていた。
「そうかぁ、トレーニングもいいけど、バイトした方がいいぞ」
私はまずそう声をかけた。
「でも、トレーニングが…。」
「いやぁ、筋力あるけど体力全然ないヤツって、結構いるんだよね。それに、山で冒険したいなら、一番のトレーニングは山に行くこと。極地の冒険をしたいなら、一番のトレーニングは極地に行くことなんだよ」
「はあ」
「要はさ、プロ野球選手になりたいなら、バッティングセンターで10年打ち込んでもプロ野球選手にはなれないんだよね。ボールをバットに当てる技術は高まるだろうけど、相手の配給を読むとか、守備のシフトの裏を狙うとか、出塁した選手とタイミングをとりながらバントしたりとか、球場の風を読むとか、そう言うのも全部揃ってプロ野球選手なんだよね。それには、試合の場数をこなさないといけない」
「はあ」
「要は、冒険したいならバンバン試合に出ないとダメよ。遠征の数をこなすのが一番だよ。遠征ってのは、体力あればどうにかなるものではなくて、それこそ国際線の飛行機の乗り継ぎでの輸送のコツとか、現地の人にお世話になる人間関係とか、オペレーションの問題もあるし、実際に歩くとか登る以外にも経験しておくべきことがたくさんあるんだよね。それができないと、歩く以前に装備が届かないとか、他の要因で遠征ができないこともよくある」
「はあ」
「若いんだから、ほっといても体力は付くから。トレーニングしている暇があったら、バイトしてバンバンお金貯めて、ジャンジャン遠征に出た方がいいよ。それが一番のトレーニングだから。いくら重り担いで日本を何百キロも歩いても、それはバッティングセンターでひたすら打ち込むのと変わらないよ」
「そうですか」
「あれじゃないの?トレーニングしてないと不安なんでしょ?」
「かもしれません」
「いま自分は確かに目標に向けて動いているという実感を得たいのはわかるけど、不安解消のためのトレーニングはやめた方がいいよ。筋肉はつくけど体力はあんまりつかないから。今から帰ってバイト探して遠征に出よう!」
「わかりました!」

そう言って、彼は自爆テロリストのベスト、ではなく重りを再び体に巻きつけ、ザックを担いで歩いて巣鴨に帰って行きました。

トレーニングはもちろん必要だ。と、言いながら実は私はほとんどトレーニング的なことをしません。いや、これまではほとんどしてこなかった。若い頃は、バイトの合間に走ったり多少の筋トレはやったけど、タイヤを引っ張ったりとか、ドラゴと闘う前のロッキーみたいなトレーニングはしたことがない。

しかし、今年で45歳となると流石に体力的な老化も感じ始めているので、いよいよ体力低下に抗うためのトレーニングは必要かなと、最近は感じている。

冒険家のトレーニングは、一番は遠征に出ること。その素地として、最低限の体があることは言うまでもないが、トレーニングを積めば冒険が成功するわけでもない。

若者よ、また待ってるよ。

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