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「消費者調査MMM」(特許出願済)で広告などの効果を丸裸にする。

株式会社秤の小川と申します。消費者行動の確率モデルを駆使した分析や、消費者インタビューなどのリサーチによって戦略を定めることを主な仕事として複数の企業のマーケティング・アナリストとして活動しています。今は整理した知見を「秤」として共有することにフォーカスを定めています。社名はマーケティング精鋭集団「刀」社から着想を得ました。

弊社のプロジェクトにも参加頂いている元オリエンタル・ランドのリサーチャーの山本さんと共著で「『その決定に根拠はありますか?』確率思考でビジネスの成果を確実化するエビデンス・ベースド・マーケティング」という書籍を出しました。

「確率思考のマーケティングの『実践法』」

を共有するものです。

マーケティング戦略の意思決定のための「エビデンスの作り方」を紹介しています。このnoteでは、書籍で紹介した手法のうち、確率モデルと因果推論を組み合わせた分析でインターネット調査から自社と競合ブランドの施策効果を金額で推計する「消費者MMM」を紹介します。MMMマーケティング・ミックス・モデリングの略で一般的には時系列データを解析することで広告などの効果を推定、予測する分析のことです。消費者調査によって行うMMMという新しい手法を体系化し2024年5月に特許を出願しました。

「消費者調査MMM」とは?

「消費者調査MMM」では、5問から10問のインターネット調査を行うだけで、興味があるブランドそれぞれの施策要因を経由して1年間に売上をどれだけ増やすか?因果構造を仮定し、効果を金額換算することができます。日本で販売されているエナジードリンクのブランドにおいて、全国の15歳~69歳における1年間の効果を金額換算した内容を紹介します。

【施策】TVCM【要因】コンビニで商品を見たことをアシストしたことによる売上増分効果17.64億円

【施策】TVCMが【要因】友人や家族との話題に出たことをアシストしたことによる売上増分効果はおよそ1.04億円

【施策】YOUTUBE(広告&投稿)+TverやABEMAなどのYouTube以外の広告+SNS(広告&投稿)【要因】コンビニで見たことをアシストしたことによる売上増分効果はおよそ1.53億円

【施策】YOUTUBE(広告&投稿)+TverやABEMAなどのYouTube以外の広告+SNS(広告&投稿)【要因】友人や家族との話題に出たことをアシストしたことによる売上増分効果はおよそ3.09億円

このエナジードリンクの場合は、TVCMの効果は「コンビニで見た(要因)」をアシストして売上をリフトする効果が大きく、YOUTUBEやSNS、TverやABEMAは「友人や家族との話題に出た(要因)こと」をアシストした効果のほうが(「コンビニで見た(要因)」より)大きいことが分かります。

TVCMなど、ブランドを知ったり、思い出すきっかけになる様なものを施策として、コンビニで見たなど、より購買に近いアクションを要因として、施策→要因→売上リフトの因果構造で分析します。

書籍では、エナジードリンク、外食チェーン、テーマパークの調査分析データを共有しています。効果の推定をブランド名とともに開示することを避け、ブランド名はマスクしました。

どの様にして、これらの数字を推計しているのか?

エビデンス・ベースド・マーケティングの法則に「ダブルジョパディの法則」があります。市場浸透率が増えると購買回数が何回増えるということを鉄板の法則として確認しました。2021年から2024年4月まで日本で行った膨大な調査結果(のべ96万人)のうち多くのケースで確認し、それを応用しています。

施策や要因によって市場浸透率が1年間で何%増えたか?が分かれば、回数が分かります。回数がわかれば単価を乗算して金額も分かります。

推計する為の鍵は市場浸透率です。

市場浸透率は、ある一定期間(ここでは1年間)における市場の人数のうち何%がそのブランドを利用したかの割合です。ダブルジョパディの法則は、市場浸透率が低いブランドやターゲットの購買頻度などのロイヤルティも低い2重苦(ダブルジョパディ)となる、すなわち市場浸透率を増やさないとロイヤルティも上げることができないことを発見したものです。日本では和訳された「ブランディングの科学」という書籍で紹介されました。

以下「浸透率」とします。

私が日本で行い、法則を確認した多くの調査分析の一例を紹介します。

エナジードリンク6ブランドで20代女性と20代男性、浸透率の高い順番に並べると、「M」という値がキレイに比例していることが分かります。

その決定に根拠はありますか?1章より引用

「M」は、ある一定期間(上記の表では1か月間)における購買のべ回数を市場の人数で除算した値です。

たとえば、日本市場1.2億人で年間1200万回購買された商品の1年間のMは1200万÷1.2億で「0.1」です。これは一定期間(ここでは1年間)の一人当たりの購買確率であり、(過去実績から導いた)期待値です。

USJを再生させたことで有名でTV番組等でも良くお見かけする森岡毅さんの書籍「確率思考の戦略論」で紹介されたものです。この書籍をお読みになられた方は多いと思いますが、できれば、拙書「その決定に根拠はありますか?」を読んで「確率思考の戦略論」を読み返すと、この書籍が一般の方向けにダブルジョパディの法則を翻訳している書籍だと分かります。

拙著では2冊の関係を分かりやすく解説し、使い方を具体化しました。

先ほど対象としていたエナジードリンク6ブランドのうち、2ブランドの年代性別ごとに浸透率とMを回帰分析であてはめると、決定係数0.97、0.99の予測精度の高い式を確認することができます。書籍では外食チェーンとテーマパークのデータも掲載していますが、それに限らず多くのケースでこの様に当てはまります。

その決定に根拠はありますか?1章より引用

浸透率と「M」の関係は鉄板である。

多くの調査から導いたこの結論から(施策または要因による)市場浸透率の確かな増分がわかれば、回数も分かる、(単価を掛け合わせて)金額も分かる。これが消費者調査MMMのコアアイデア※です。

※このアイデアをベースに2024年5月に消費者調査MMMに対応する分析手法の特許を出願しました。

PowerBIで集計

消費者調査MMMのコアアイデアは下記図の右側の「浸透率が決まれば回数が分かる関係」ですが、真ん中上部に記載した「因果推論の分析技術(傾向スコア分析)」を用いて確かなリフト率を推定し、さらに図の左側に記載したように施策の重複接触による影響を適切に調整するという①②③のアルゴリズムを組み合わせて推定します。

分析のソースはインターネット調査だけです(※1)。施策12種×要因7種×性別年代12種(※2)1008種類の組み合わせで効果を推定します。多くの指標(※3)を使用し分析者が任意に分析できる様ダッシュボードにしています。

(※1)ここでのエナジードリンクの場合は全国の15~69歳男女5.1万人に対する5問の調査です。
(※2)ここでは15歳~19歳、20~29歳、30~39歳、40~49歳、50~59歳、60~69歳男女
(※3)接触率、施策→要因のリフト率、要因→市場浸透率のリフト率等

インターネット調査だけでも、確率モデルや因果推論を用いて分析すれば、ここまでのことが分かります。以下は、前述したエナジードリンクブランドのターゲットをM10とM20(15歳~29歳男性)のみ選択し、要因「コンビニで商品を見た」+「スーパーマーケットで商品を見た」+「ドラッグストアで商品を見た」を経由した効果を推定したものです。

※このnoteで紹介した分析結果はのちほど紹介するダッシュボードで紹介するエナジードリンク6ブランドのうち「energy2」を参照しています。

チェックボックス(PowerBI用語で「スライサー」)を任意に選択することで、調査対象ブランドそれぞれ、好きな軸で効果を分析することができます。CTRLキーを押すことで複数選択できます。PowerBIはマイクロソフトのアプリケーションとなるため、ダッシュボードの構築はWindows限定ですが、後ほど紹介するダッシュボードをネットに公開したURLはWindowsに限らずマッキントッシュでもスマホでもご覧頂くことができます。

PowerBIダッシュボード3カテゴリーを公開

エナジードリンクのダッシュボードのキャプチャから解説しますが、3カテゴリーのダッシュボードそれぞれ、7枚構成です。マクドナルド、ケンタッキー、TDL、USJは浸透率やMの分析は書籍で共有しましたが、効果推定は対象外です。

■PowerBIダッシュボード(エナジ―ドリンク6ブランド)

■PowerBIダッシュボード(外食チェーン5ブランド)※マクドナルドとケンタッキー以外

■PowerBIダッシュボード(テーマパーク6ブランド)※TDLとUSJ以外

動画で使い方を解説

上記のダッシュボードの使い方を動画で解説しました。

実務では、どんな風に使っているのか?

競合他社の効果を丸裸にして、自社に有効な戦略を見出しています。

たとえば、マーケティング・アナリストとして関わるD2Cブランドは1年で月商500万円から月商1億円程度に成長しています。次の半年後の月商目標は3億円です。MMMで真の効果の指針があればこそです。このブランドでは、毎週時系列データによるMMMを実施し、重要度の高い施策の真のROIを観測しながら、適切な投資を行っています。

「消費者調査MMM」も行い、先行する競合ブランドの広告効果を詳細に把握してきました。もしかしたら調査対象ブランドの関係者よりも、我々のほうが施策の効果を詳細に把握しているかもしれません。競合他社の効果を丸裸にして自社に有効な戦略を見出し、今も急成長しています。

私がアナリストとして関わるこれらのブランドとの取り組みなどの実戦と研究を行き来して完成させたアルゴリズムを特許出願してから「その決定に根拠はありますか?」で初公開した分析が「消費者調査MMM」です。

名著「確率思考の戦略論」で紹介されたエビデンス・ベースド・マーケティングの数式や法則を日本で96万人調査して確認し、新たに体系化した

「確率思考のマーケティングの実践法」

の書籍です。ぜひAmazonページをご覧くださいませ。


告知情報(適宜更新)

さらに集約した分析結果を紹介しているnoteです。

NBDモデルの分析を自ら行いたい方向けの分析演習はこちらです。


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