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「確率思考の実践法」を共有する書籍と講義を紹介します。

株式会社秤の小川と申します。消費者行動の確率モデルを駆使した分析や、消費者インタビューなどのリサーチによって戦略を定めることを主な仕事として複数の企業のマーケティング・アナリストとして活動しています。今は整理した知見を「秤」として共有することにフォーカスを定めています。社名はマーケティング精鋭集団「刀」社から着想を得ました。

弊社のプロジェクトにも参加頂いている元オリエンタル・ランドのリサーチャーの山本さんと共著で「『その決定に根拠はありますか?』確率思考でビジネスの成果を確実化するエビデンス・ベースド・マーケティング」という書籍を出しました。

「確率思考のマーケティングの『実践法』」

を共有するものです。

マーケティング戦略の意思決定のための「エビデンスの作り方」を紹介しています。


どの様にして、これらの数字を推計しているのか?

エビデンス・ベースド・マーケティングの法則に「ダブルジョパディの法則」があります。日本では和訳された「ブランディングの科学」という書籍で紹介されました。

ダブルジョパディの法則は、市場浸透率が低いブランドやターゲットの購買頻度などのロイヤルティも低い2重苦(ダブルジョパディ)となる、すなわち市場浸透率を増やさないとロイヤルティも上げることができないことを発見したものです。

市場浸透率は、ある一定期間(ここでは1年間)における市場の人数のうち何%がそのブランドを利用したかの割合です。

2021年から2024年4月までのべ96.6万人の調査を行い、市場浸透率が増えると購買確率が増える関係が鉄板の関係であることを確認することができました。私が日本で行い、法則を確認した調査の一例を紹介します。以下「浸透率」とします。

エナジードリンク6ブランドで20代女性と20代男性、浸透率の高い順番に並べると、「M」がキレイに比例していることが分かります。

「その決定に根拠はありますか?」P38より引用

確率思考の戦略論で紹介された「M」とは?

「M」は、ある一定期間(上記の表では1か月間)における購買のべ回数を市場の人数で除算した値です。たとえば、日本市場1.2億人で年間1200万回購買された商品の1年間のMは1200万÷1.2億で「0.1」です。これは一定期間(ここでは1年間)の一人当たりの購買確率であり、(過去実績から導いた)期待値です。

USJを再生させたことで有名でTV番組等でも良くお見かけする森岡毅さんと今西聖貴さんの書籍「確率思考の戦略論」で紹介されたものです。この書籍をお読みになられた方は多いと思います。

拙書「その決定に根拠はありますか?」では2冊の関係を分かりやすく解説し、使い方を具体化しました。拙著をお読み頂ければ「確率思考の戦略論」が一般の方向けにダブルジョパディの法則を翻訳している書籍だと分かります。

先ほど対象としていたエナジードリンク6ブランドのうち、2ブランドの年代性別ごとに浸透率とMを回帰分析であてはめると、決定係数(R2)0.97、0.99の予測精度の高い式を確認することができます。

「その決定に根拠ははありますか?」37Pより引用

拙書では外食チェーンとテーマパークのデータも掲載しています。

浸透率と「M」の関係は鉄板。

多くの調査から導いたこの結論から(施策または要因による)市場浸透率の確かな増分がわかれば、回数も分かるので(単価を掛け合わせて)金額も分かるというアイデアから特許を出願した分析が「消費者調査MMM」です。

「消費者調査MMM」とは?

「消費者調査MMM」では、5問から10問のインターネット調査を行うだけで、興味があるブランドそれぞれの施策要因を経由して1年間に売上をどれだけ増やすか?因果構造を仮定し、効果を金額換算することができます。日本で販売されているエナジードリンクのブランドにおいて、全国の15歳~69歳における1年間の効果を金額換算した内容を紹介します。

【施策】TVCM【要因】コンビニで商品を見たことをアシストしたことによる売上増分効果17.64億円

【施策】TVCMが【要因】友人や家族との話題に出たことをアシストしたことによる売上増分効果はおよそ1.04億円

【施策】YOUTUBE(広告&投稿)+TverやABEMAなどのYouTube以外の広告+SNS(広告&投稿)【要因】コンビニで見たことをアシストしたことによる売上増分効果はおよそ1.53億円

【施策】YOUTUBE(広告&投稿)+TverやABEMAなどのYouTube以外の広告+SNS(広告&投稿)【要因】友人や家族との話題に出たことをアシストしたことによる売上増分効果はおよそ3.09億円

このエナジードリンクの場合は、TVCMの効果は「コンビニで見た(要因)」をアシストして売上をリフトする効果が大きく、YOUTUBEやSNS、TverやABEMAは「友人や家族との話題に出た(要因)こと」をアシストした効果のほうが(「コンビニで見た(要因)」より)大きいことが分かります。TVCMなど、ブランドを知ったり、思い出すきっかけになる様なものを施策として、コンビニで見たなど、より購買に近いアクションを要因として、施策→要因→売上リフトの因果構造で分析します。

以下のnoteでは、エナジードリンク、外食チェーン、テーマパークをテーマにした分析データのPowerBIダッシュボードを公開しています。


消費者調査から「M」を適切に把握する為に「直接購買回数」を聞かずに最後のタイミングを聞く。

以下は「その決定に根拠はありますか?」で紹介した、東京ディズニーランド(TDL)某テーマパーク(park6)の年間来園回数と、売上(億円)を、以下①②③で分析したものです。

①調査対象者に「回数」を直接ヒアリングして推計
②ガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデル(最後に利用したタイミングを聞いて)で推計
③人流データから推計

「その決定に根拠はありますか?」P72より引用
「その決定に根拠はありますか?」P75より引用

①調査対象者に「回数」を直接ヒアリングして推計すると実際の回数(ここでは人流データ※1)より過大な推定となる傾向があります。さらに、浸透率が低いブランド※2ほどより過大な推定となることを、2021年から96.6万人の調査を行ってきたことで多くのケースで確認しています。浸透率が低いブランドほど浸透率が高いブランドと誤認した回答が増える為です。

※1)書籍「その決定に根拠はありますか?」ではオリエンタルランド社発表のデータと人流データ(「人流アナリティクス」)のデータを突合し、信ぴょう性が高いことを確認しています。
※2)park6の1年の市場浸透率が10代女性で1.7%で60代男性で0.19%です。10代女性で22.14%で60代男性で2.49%です。

ガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデル

複数選択肢を提示する回答でブランドやカテゴリー商品またはサービスの一定期間の「回数」を聞くよりも、「最後の利用タイミング」を聞いたほうが圧倒的に調査対象者の回答負荷が低くなります。「最後の利用タイミング」を聞くことで、ある一定期間の「M」と消費者行動の分布の形を決める「K」という2つの係数を導くことで、ある一定期間内に

0回買った人は何%か?
1回買った人は何%か?
2回買った人は何%か?
3回買った人は何%か?

このように、回数別の市場浸透率を求めることができる分析が「ガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデル」です。確率思考の戦略論で紹介されたNBDモデルの式の左辺のPrが回数別の市場浸透率です。右辺のMKが分かればPrが分かります。Kは分布の形を決める係数です。

「その決定に根拠はありますか」P63より引用

これを年代性別ごとに分析することで、自社だけでなく(消費者調査によって調べた)競合ブランドとの顧客の状態を構造的に把握することができます。

また、回答負荷が低いことから、たとえばエナジードリンクであれば、調査対象者に「あなたはどんなきっかけでエナジードリンクを飲みますか?」と聞いて複数の「きっかけ」を提示し、対象者が選んだ「きっかけ」に対してそれぞれ「最後に飲んだのはいつですか?」(これを回数で聞くのは回答負荷が高すぎて現実的ではありません)と聞いて分析することで「きっかけ」に対応する「M」と「平均回数」を導くことができます。

以下は書籍で紹介した20代女性(F20~29)と20代男性(M20~20)それぞれのMと平均回数です。Mは回数÷人口です。平均回数は回数÷浸透人数(一定期間に当該ブランドを利用した人の人数)です。

「その決定に根拠はありますか?」215Pより引用

カテゴリー・エントリー・ポイント(CEPs)

ブランドを思い出すきっかけをカテゴリー・エントリー・ポイント(CEPs)と言います。英語ではCategory Entry Pointsと複数系で記載されるため「CEPs」としています。

カテゴリー・エントリー・ポイントはブランドが市場浸透率を伸ばすためのキーファクタ―です。

ご自身が関わる商品やサービスのカテゴリー・エントリー・ポイントごとの需要を年代性別ごとに把握することは、マーケティング戦略の土台として非常に重要です。

ストアカ講義「確率思考の実践法」

書籍では、ガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデルの使い方に限らず、消費者調査から戦略を導く定量分析や、投資判断の為のMMM(マーケティング・ミックス・モデリング)や「顧客理解」とはいかなる状態を示すのか?を再定義して行う消費者インタビューのやり方などを紹介し、特典の動画講義では合計7時間を超える動画講義で実装法まで解説しています。

ガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデルの使い方とCEPsごとのMと平均回数の把握を行う分析を解説するストアカ講義を開催します。

ストアカ講義では、ブランディングの科学で紹介された法則の要点とインターネット調査から購買回数を聞く際に起こりえるバイアスのうち特に重要なもの(購買回数が過大に推定される傾向)を解説し、その上でガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデルをご自身で使いこなせる様になるための演習を行います。講義は質疑応答も入れて2時間となります。参加料金は拙書(紙の書籍)と同じ2,849円にしました。

書籍「その決定に根拠はありますか?」

書籍「『その決定に根拠はありますか?』確率思考でビジネスの成果を確実化する」はAmazonページです。確率思考のマーケティングの実践方法にご興味頂ける方はぜひご覧ください。


告知情報(適宜更新)

その決定に根拠はありますか?6章で執筆と全体的にアドバイスをいただいていた共著者のリサーチャー山本さんの顧客理解とは何か?整理し理解できる講義です。

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