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TVCM→店頭→売上貢献が圧倒的なのは不都合な真実か?

このnoteでは消費者行動の確率モデルやリサーチによって戦略を定めるマーケティング・アナリストとして活動している筆者が、元オリエンタル・ランドのリサーチャーの山本氏と共著で出版した「『その決定に根拠はありますか?』確率思考でビジネスの成果を確実化するエビデンス・ベースド・マーケティング」という書籍のうち、

インターネット調査からTVCMや口コミなどのコミュニケーション効果を金額換算する「消費者調査MMM」を紹介する。エナジードリンクと外食チェーンの分析では、どのブランドも、TVCMによって店頭での商品視認や来店をアシストすることによる売上貢献が圧倒的であったが、口コミを介した売上への影響は非常に小さいものだった。

昨今のSNSの影響を踏まえた口コミやデジタルマーケティングに注目が集まっているトレンドからすると違和感を感じる方もいると思う。

施策の効き方は商品やサービスの業種によって特色があり、消費者調査MMMでは構造化してコミュニケーションによる効果を構造的に把握することができる。自社だけでなく、競合のブランドも広告などの効果を「丸裸」にして把握することができる。

「消費者調査MMM(特許出願済)」とは?

「消費者調査MMM」では、5問から10問の調査を行うだけで、各ブランドの施策要因を経由して1年間に売上をどれだけ増やすか?効果を金額換算することができる。まずは2023年3月に4.5万人強に調査した外食チェーン5ブランド(マクドナルドとケンタッキーを除く)の1年間の売上貢献金額を掲載する。以下はあるブランド(food3)のTVCMによって店舗への入店をアシストしたことによって1年間に増えた金額である。

food3のTVCM→店頭(ブランドの店舗に入店)による1年間の売上貢献金額

同じブランドのWEB施策を全て合計して店舗への入店をアシストしたことにより増えた金額は3.06億円だった。

food3のWEB各種→店頭(ブランドの店舗に入店)による1年間の売上貢献金額

消費者MMMの特徴①

施策と要因に分けて、「施策」「要因」売上への増加を推定する。施策は上記の画像にあるようにTVCMやSNS広告、SNS投稿などブランドを知る、または思い出すきっかけとなるようなもの、対して要因は、次に行うアクションとして購買に近づく能動的なアクションを指す。

消費者MMMの特徴②

エビデンス・ベースド・マーケティングの書籍「ブランディングの科学」「確率思考の戦略論」で書いてあった数式や法則を2021年から2024年4月までに行った96.6万人の調査で確認してきたが、各種指標の中でも鉄板の関係がある。

【鉄板の関係】市場浸透率→M

それは、ある一定期間に当該ブランドを利用している人の割合「市場浸透率」が増えると一定期間の一人あたりの購買アクションの発生回数の期待値の「M」という数字が増える関係だ。

以下は書籍で紹介したマクドナルドとケンタッキーの2023年3月下旬の調査時点から遡った1か月の浸透率とMの関係である(年代性別で分類)。回帰分析の予測精度の目安となる決定係数「R2」が0.977、0.989と非常に高くなっている。これは外食チェーンに限らず多くのケースであてはまる。書籍ではTDLやUSJなどのテーマパークとエナジードリンクの分析結果も紹介した。


消費者調査MMMでは因果推論の分析や施策の重複接触者数をユニークユーザー数と合わせる補正などを行った上で、適正なリフト率を推定する。

1.施策による要因のリフト率
2.要因による浸透率のリフト率

施策→(リフト率)→要因→(リフト率)→浸透率がわかれば、回数の増加が分かる。調査から得た平均購買単価を乗算すれば売上貢献金額を算出できる。特許出願したアルゴリズムの説明は書籍「その決定に根拠はありますか?」でさらに詳しく解説している。

ここでは書籍で紹介した3つのテーマ(外食チェーン、エナジードリンク、テーマパーク)の分析結果の大枠を紹介する。

外食チェーン

マクドナルドとケンタッキーのTVCMの年間効果は〇〇〇億円として数字を公表することは、心血を注いでマーケティングを行っている各ブランドへの配慮が足りないと考え、効果分析の対象ブランドは全てマスクした。実名を挙げたマクドナルド、ケンタッキーは消費者調査MMMの対象外とした。

右から2番目の列は当該ブランドの施策が全ての要因を経由して増やしている売上貢献金額で、金額は全て「億円」、対象期間は1年間である。

右端の列は売上全体のうち「施策計」による貢献が何%かを示している。外食チェーンの場合は10.6%から15.3%。コミュニケーション施策によって説明できない割合のほうが大きくなっている。見て頂きたいのは左から2番目の列で、これは当該ブランドのうち施策と要因の組み合わせによって増えた金額が「施策計」の何%を占めているかをカラーバーで表現したものだ。

外食チェーンでは、どのブランドもTVCM→店頭による売上が圧倒的な貢献比率になっており、口コミを介した効果はごく僅かだ。

エナジードリンク

続いてエナジードリンクの分析結果を紹介する。施策と要因は以下の通り。

施策12種類
・TVCM
・TV番組
・雑誌の広告または記事
・新聞の広告または記事
・屋外交通広告
・インターネットの記事
・YOUTUBEの広告
・YOUTUBE投稿(ユーチューバーや一般の投稿者など、広告以外)
・TVerやAbemaなどYouTube以外の動画サイトの広告
・SNSの投稿(インフルエンサーや著名人、知人友人ご家族など)
・SNSの広告
・YOUTUBEなどの動画サイトやSNS・検索エンジン以外で表示されるインターネット広告

要因7種類
・友人や知人家族との話題に出た(リアルな会話以外のLINEなどのメッセージも含む)
・コンビニ(で商品を見た)
・ドラッグストア(で商品を見た)
・スーパーマーケット(で商品を見た)
・その他の食品または飲料を販売している店舗(で商品を見た)
・自動販売機(で商品を見た)
・料飲店、音楽やスポーツや、街頭でのプロモーションイベント会場(で商品を見た)

こちらが結果を集約した一覧表。体裁は外食チェーンと同様。

一見、TVCM→店頭(エナジードリンクの場合はコンビニ、ドラッグストア、スーパーマーケット、その他の店舗で当該商品を見たという判定です)の効果が圧倒的に見えるが、energy3とenergy4は実はWEB各種→店頭の効果が大きくなっている。

この2つのブランドは非常に若い世代の「M」が高く、対応してプレファレンス(ブランドの相対的好意度)も高いことが示唆されている。実際にコンビニの棚でも多く面を取っている印象がある。

ブランドによって多少の違いはあるが、エナジードリンクでは、店頭で当該ブランドを思い出すことを誘発する「リマインド効果」がTVCMなどのコミュニケーション施策による売上増加のカギを握ることは間違えなさそうだ。

テーマパーク

最後は東京ディズニーランド(TDL)とユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)を除く6つのテーマパークの分析結果を紹介する。施策と要因は以下の通り。

施策
・TVCM
・TV番組
・雑誌の広告または記事
・新聞の広告または記事
・屋外交通広告
・インターネットの記事
・YOUTUBEの広告
・YOUTUBE投稿(ユーチューバーや一般の投稿者など、広告以外)
・TVerやAbemaなどYouTube以外の動画サイトの広告
・SNSの投稿(インフルエンサーや著名人、知人友人ご家族など)
・SNSの広告
・YOUTUBEなどの動画サイトやSNS・検索エンジン以外で表示されるインターネット広告
・ブランドのアプリやLINEのプッシュ通知やメッセージ
・ブランドからのメール

要因
・友人や知人家族から話を聞いた(リアルな会話以外のLINEなどのメッセージも含む)
・ブランドのアプリを利用した
・ブランドのLINEアカウントを利用した
・スマホやパソコンやタブレットなどでブランドのことを検索した
・インターネット広告をクリックした
・ブランドのホームページをにアクセスした
・ブランドのことを自分から友人知人や家族との話題にした
・ブランドのことをSNSやブログなどインターネットに投稿した

分析結果はこちら。

今までの2つのテーマと違って、右端の売上に締める施策の貢献比率が非常に高くなっている。外食チェーンとエナジードリンクは季節性や習慣になっていることで、態度変容では説明できない購買も多く、対してテーマパークは態度変容の影響が大きいため、この結果になったのではないか?と考えている。

外食チェーンとエナジードリンクとは違い、TVCMの貢献比率は低く、TV番組やWEB施策による貢献が大きいことが分かる。

TDLとUSJの分析結果をここに入れると様相は変わる。この2つのパークの市場浸透率は突出しており、利用経験を思い出させるリマインド効果に期待したTVCMのリーチも大きくなっている。ここで紹介した6ブランドはTDLとUSJと比較するとTVCMのリーチが小さいことから、影響が少なくなっている。とはいえ、TDL、USJを入れてもTV番組など、広告以外のコミュニケーション施策による貢献比率が外食チェーン、エナジードリンクと比較して相対的に多くなっていることに変わりはない。

詳細な効果を見ることができる3種の分析ダッシュボード

これまで紹介した集計の元になっているPowerBIダッシュボード3種を無料公開した。ダッシュボードの操作方法はYouTubeで解説した。

■PowerBIダッシュボード(エナジ―ドリンク)

■PowerBIダッシュボード(外食チェーン)

■PowerBIダッシュボード(テーマパーク)

消費者調査MMMをどのように活用するか?

消費者調査「MMM」マーケティング・ミックス・モデリングの略で、これは時系列データを解析して行うことでTVCMやネット広告などの売上貢献金額を推定または予測する手法のことを指す。残存効果を考慮するために変数を変形させるなど行うが、時系列データ解析では、長期効果の推定には限界がある。

一方で消費者調査MMMでは「直近1年で見たまたはアクションした」施策または要因を聴取しているが、1年以上前に見たものを誤認した回答も出てしまう。また印象や記憶の残りやすさから長期的なTVCMの貢献が評価されやすくなる。

コンビニ、ドラッグストア、スーパーマーケットで販売している商品で棚が取れているメーカーや自社で運営している店舗数が多いブランドのTVCM効果を売上に換算したいケースでは特に重宝する。この様にも考えている。

デジタル施策による店頭売上リフトを証明する。

かなり昔(2013年)であるが、広告会社で営業マンとして働いていた私はロッテ社に対して媒体化される前からLINEスタンプを提案し、媒体化した直後に実施し、当時行われていた流通対策のマス広告で動かなかったPOSが動いた。コンビニが前年比113%、GMSが前年比で143%、GMSは特売の影響もあると考えられていた為、当時、特に評価されていたのはコンビニ売上アップだった。

デジタルの態度変容で店頭の商品が大きく動いた初めての経験だったが、このような効果に期待し、MMMと消費者調査MMMを活用することで、適切に効果を把握し、本来投じるべき施策に適正な投資を行い、ブランドを成長軌道にのせる確率を上げることができる。

先行するブランドのコミュニケーション効果構造を丸裸にして戦略を立てる

マーケティング・アナリストとして関わるD2Cブランドは1年で月商500万円から月商1億円程度に成長した。このブランドでは、毎週時系列データによるMMMを実施し、重要度の高い施策の真のROIを観測しながら、施策をチューニングしている。「消費者調査MMM」も行い、先行する競合ブランドの広告効果を詳細に把握しているが、もしかしたら、我々が調査対象としている競合ブランドの関係者よりも、我々のほうが施策の効果を詳しく把握しているかもしれない。

我々は競合他社のコミュニケーション施策の効果と顧客の購買を構造化し「丸裸」にすることで、それをヒントに自社に有効な戦略を見出しているのだ。


【各種告知】※適宜更新

エビデンス・ベースド・マーケティングの実践書

私がアナリストとして関わるこれらのブランドとの取り組みなどの実践と研究を行き来して完成させたアルゴリズムを特許出願し、詳しく解説し、戦略を導くために有益なリサーチや分析の活用例と活用法を解説した書籍が「その決定に根拠はありますか?」です。

筆者が実践と研究を行き来して完成させた定量分析を安価または無料のツールを用いて行う方法や、身近に消費者インタビューが行えるツールを用いた定性調査など、TVCM投下など大規模なマーケティング予算を前提としない小規模な事業社が使うことができるリサーチや分析の活用例と活用法を解説しました。

高度な技術を誰もが使えるノウハウに

エビデンス・ベースド・マーケティングの書籍「ブランディングの科学」「確率思考の戦略論」で書いてあった数式や法則を2021年から2024年4月までに行った96.6万人の調査で確認したデータも参照し、これら書籍の要点わかりやすく咀嚼し、汎用的に使えるノウハウにまとめ、誰もが実務で実際に使える方法に落とし込むことに徹底的にこだわっています。関連する300を超える論文の知見を集約し解説した「戦略ごっこ」を読まれた方にも多いに役立つと思います。

ご興味いただける方はぜひ お手にとっていただければ幸いです。宜しくお願いします!🙏

マーケティング効果予測モデルの作り方

業務で具体的に行うことに興味がある方は、マーケティング投資予測モデル支援例のPDF資料を1クリックでダウンロードできますのでご参考にしていただければと思います。※2024年7月27日更新

【最新note】カテゴリーエントリーポイントごとの需要を予測する方法

ブランドが訴求すべき根源的な価値を探索するカテゴリーエントリーポイント分析とは?マーケティングの上流の戦略検討のための分析法を紹介したnoteです。ぜひご覧ください。※2024年7月30日更新

X投稿(その決定に根拠はありますか?関連)※適宜更新

マーケターの方を中心に多くの方に拙書をご紹介を頂いております。X投稿をいくつか参照させていただきます。おかげさまで発売日から2週間で増刷も決まりました。感謝申し上げます。