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    PLANETS CLUB「 こども未来部」メンバーによるリレーマガジンです

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世界の正しい終わり方

(韓国映画『新しき世界』ネタバレ感想です。) 理想的な、お兄ちゃん チョン・チョンという理想的な兄ちゃんの話をしたい。韓国ノワール映画『新しき世界』に登場するヤクザのことだ。彼は、とにかく、すごい奴なのである。  まず、仕事ができる。在韓華僑の強みを生かして、韓国語と中国語をあやつり、中国マフィアとの取引を一手に担い、韓国最大の暴力団組織において、若くして序列3位の地位に立つ。組織の跡目争いの有力候補でもある。そして、どこか抜けてて、親しみやすい。こざっぱりとしたスーツ姿

    • リアルな棚の可能性

       池袋のジュンク堂書店と、そこで開催されている選書フェアの話をさせてほしい。  「自宅から半径5km以内にある場所について書く」というお題をいただいた。地図で半径5kmを確認し、圏内ぎりぎりに池袋駅を見つけ、駅近くのジュンク堂書店を発見し、同店で開催中の選書フェアを思い出す。時間にして5分程度。足を運んだことは一度もないが、休みをとって、ジュンク堂書店に行ってみることにした。単なる思い付きで決めてしまったことだが、何かが気持ち良く決まっていくときは、あまり悩まないことにして

      • 『人工知能が「生命」になるとき』の人間のかたち

         ゲームAI開発者である三宅陽一郎氏は、人工知能を「乾いている」と表現する。  人工生命はみずみずしく生命感に満ちた世界の再現を目指しますが、マルチエージェントの世界はどちらかと言えば乾いた知的な世界です。「乾いている」とは、それぞれのエージェントが世界に根づく根がなく、全体性の中に埋め込まれていると言う意味です。つまり、かろうじて役割と言う外部からの紐にぶら下がっている状態です。 ※マルチエージェントとは、役割を持つ人工知能が複数集まって一体として機能し、かつ多様性をも

        • いてもいなくても

          「緊急事態宣言」 2020年4月某日、目の前の小さな滑り台は、黄色いテープでぐるぐる巻きにされていた。いつもと同じように幼い娘と近所の公園まで歩き、いつもとは違う見慣れない公園の景色に遭遇し、「今日からは、公園でも遊べないのだ。」と理解した。手を繋いだ先にある娘の顔は、ただただ無表情だった。  そろそろだ、そろそろ出るぞ、と噂されていた「緊急事態宣言」が、4月7日に発表された。それから数日して息子の小学校は休校となり、次いで娘の保育園も休園となった。それからさらに数日後には

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          めでて、バラして、広がって

          テレビを観ない いつの間にか、テレビを観なくなってしまった。リビングの隅に設置されたテレビは、高い背もたれのある椅子二脚にさえぎられ、今では視界にも入らない。  観たい番組はそれほどないし、Twitterから流れてくるテレビのスクショは眉をひそめるものばかりだし、テレビ番組は総じて文化的に劣化したような気がしてならない。テキストも動画も、コンテンツはネットに溢れている。テレビは、ダメな「平成」の匂いがする。 日常的な「近さ」 昭和の住宅を、「愛でてから壊そう」という建築プ

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          秋の虫が呼び込むもの

           秋になって虫が鳴き始める。  そう聞いて、少し涼しげな、心細げな秋の夜を感じるのはなぜだろう。  先日、我が家に一匹のコオロギがやってきた。  小学校の授業で、子供が捕まえてきたのだ。虫を捕まえて、家で飼ってみましょう、という授業だったらしい。無茶振りにも程がある。  突然コオロギ様にやってこられても、何をお食べになるのやら。とりあえず、透明な惣菜パックに入ってご帰宅されたコオロギ様を、押入れにしまっていた虫かごに入れなおした。一緒に持ち帰った土も入れ、ネットを斜め読み

          秋の虫が呼び込むもの

          妄想読書会『売る売らないはワタシが決める - 売春肯定宣言』

          1. 好きか嫌いか嫌い嫌いも好きのうち。 たとえば、物凄く感情を揺さぶられることが「不快」な人は、物凄く感情を揺さぶられたときに、その対象を「嫌い」だと思ってしまうかもしれない。もしかしたら、「好き」過ぎて揺さぶられたのかもしれないのに。 好き嫌いは個人の気持ちだ。 寝て起きたら、明日は違う気持ちになっているかもしれない。 2. 売買春を考える出発点海:海坊主、海の妖怪。最近、鯰坊主が気になっている。 鰆:さわら。そろそろ休暇が欲しい出世魚。 缶:海に浮かぶ孤高のアルミ

          妄想読書会『売る売らないはワタシが決める - 売春肯定宣言』

          生きづらさを、生き延びる

          1. 「暮らし」のリアリティ「女性にとってヘイト男性とは誰か」という題をいただいた。「ヘイト男性」とは耳慣れない言葉である。これはいったい誰か。  貴戸理恵『フェミニズムと「ヘイト男性」を結ぶ「生きづらさを生き延びるための思想」に向けて(*1)』は、このような問いから始まる。  「ヘイト男性」とは、男女はすでに平等か、むしろ女性の方が底上げされているにもかかわらず、未だに弱者の顔をして権利を主張する女性たちへの憎悪を表明する、その担い手を指す。「ヘイト男性とは誰か」、この

          生きづらさを、生き延びる

          妄想読書会 『ねずみさんの失敗』

          1. 「失敗」が小さい 「失敗をしたことがあるか」と聞かれれば「ある」と応える。当然である。 では、「人生における最大の失敗は何か」と聞かれると急には出てこない。頑張って探せば出てくるのかもしれないが、死屍累々の失敗は、その大小関係がよく分からない。しかも、どちらかと言えば「恥ずかしい過ち」であって、拳を握りしめて怒りに震えるような「人生における失敗」ではない。 結局のところ、今、自分が、のほほんと過ごしているから、確たる「失敗」を引っ張り出せないのだと思う。今に絶望して

          妄想読書会 『ねずみさんの失敗』

          妄想読書会『星の旅人 伊能忠敬と伝説の怪魚』

          1.「読書会」という体験「いま、あなたが子供だったら、どんな習い事をしたいですか」 Facebookの掲示板に上がった質問を見て少し考えた。ピアノ、習字、水泳、子供の頃ありがちだった習い事をならべてみる。絵とか習ってみたかった気もする。 この質問を「どんな体験がしたかったか」という質問に変えて良いならば、と思い付いたのが「読書会」だった。 子供の頃、読書感想文というものが、とにかく苦手だった。本を読むのは好きだ。ところが、感想を書け、と言われると、「面白かった」「特に面

          妄想読書会『星の旅人 伊能忠敬と伝説の怪魚』